見出し画像

ビルの中で毎日いちごが収穫できる!新しい都市農業のかたち「City Farming」が気になる。

今、下北沢の書店内にあるいちご畑で、美味しいいちごが毎日収穫されているらしいーーー。「どういうこと?!」という声が聞こえてきそうですが、これはまぎれもない事実。
2021年にオープンしたミカン下北内のTSUTAYA BOOKSTOREにて、いちごの小型植物工場が設置されているのです。そのプロジェクトの名は「City Farming」。いったいなぜこのような取り組みが生まれたのか?愛らしく新鮮ないちごに込められた想いをお伝えします。

そもそも「City Farming」って何ですか?

「City Farming」とは、季節を問わず新鮮ないちごを栽培できる、ショーケース型のサステナブルな植物工場を生活空間に向けて提供する新サービスのこと。近年ますます注目されるアグリテック「植物工場」について、更なるイノベーションを追求し、出版取次事業で知られる日販グループホールディングス・日本出版販売株式会社(以下・日販)が事業開発、国内で初めていちごの連続栽培に成功した日清紡ホールディングス株式会社が技術開発を行い、現在実証実験を進めています。

見た目はこんなスタイリッシュなショーケース。瑞々しいいちごがたくさん実っている様子は、子どもの頃に行ったいちご狩りの畑がそのままコンパクトになったイメージです。

植物工場とは、季節・天候・技能といった制約に左右されず、主にレタスなどの葉物野菜を屋内設備で量産する技術

しかしシンプルなデザインとは裏腹に、実は世界に先駆けた最新技術が詰まっているのがこの「City Farming」。従来の植物工場は大型のものが一般的ですが、小型のショーケース内でも同様に、水、光、温度といった環境を自動で制御しています。(送風により時々いちごの葉が風でゆらめく様子もリアルないちご畑のようです)。そのため、栽培にベストな環境を保つことができ、春夏秋冬を通し半永久的に収穫が可能。15〜20個程度のいちごがなんと毎日(!)収穫できるのです。

そしてこの画期的な技術の先に「City Farming」が目指すのは、持続可能な都市生活と華やかで鮮度ある場づくり。店舗やオフィス、公共空間など、さまざまな生活の場へこのサービスを提供していきます。

「City Farming」では、ショーケースを中心にとれたてのいちごをみんなでシェアしあう。そんな持続可能な都市生活と鮮度あるコミュニティ作りを目指す
愛らしく新鮮ないちごが毎日こんな風に収穫できる。叶うことなら筆者も自宅に一台欲しい・・・

なぜ本を扱う会社がいちごを作るのか。

ここで気になるのは、このユニークなプロジェクトが生まれた背景。
今なぜ日販がいちごの植物工場を手がけるのか、日販・プラットフォーム創造事業本部の担当者に聞きました。

ー日販って、出版や取次の会社としてのイメージが強かったのですが、なぜ植物工場を・・?

日販は1949年の創業から本を届け続けてきましたが、現在はその領域を“豊かな文化を創造し、文化と出会う場を作り、人々に届ける”というところまで拡大しています。文化的で豊かな場を作るためには、やはりサステナブルな環境や地域社会に配慮していきたい。そう考えた時に、究極の地産地消であり、地域社会の交流を作るきっかけにもなりそうな「植物工場」はぴったりだったんです。

ーでは、数ある植物の中で“いちご”を選んだ理由は?

通常、植物工場で栽培される食物は、レタスなどの葉物野菜が多いんですが、その中であえて華やかな見た目のいちごに着目しました。またいちごは技術的に難易度が高くて、取り組んでいる企業も少なく、挑戦し甲斐があると思ったんです。でも最終的な決め手としては、やはり華やかでかわいらしいから(笑)。単純に聞こえるかもしれないですが、豊かなコミュニケーションがある場づくりにおいて、会話のきっかけになるような要素があることはとても大事。実際に「六本木 文喫」や「OHAGI3南町田店」で導入した際も、いちごを活かした空間作りが「かわいい!」と会話を生んでいましたし、その場で採れたいちごを使ったメニューも好評で集客や売上に大きく貢献しました。
かわいい、美味しいという気軽なところから食について考えるきっかけを提供できたのも意義のあることだと思います。

OHAGI3によるコラボスイーツは、見た目にも鮮やかでテンションが上がるものばかり(画像:日販プレスリリースより)
(左より)日販でこのプロジェクトを担当するプラットフォーム創造事業本部の小林さん・定塚さん

都市農業はもっと身近に、もっと楽しくなる。

この「City Farming」は、今世界的にも大きなトレンドとなっている「都市農業」のひとつの形と言えます。
輸送コストやCO2排出の削減、緑化、食育やコミュニティ創出など、多くのメリットがある取り組みですが、現在の都市農業と言うと、ビルの屋上などを活用した貸し農園がまず思い浮かぶのではないでしょうか。
しかし屋上農園はまだまだ一部の人が楽しむものであり、毎日畑の様子を見に行って世話をするのは難しいのが実情。つまり、多くの一般消費者が日常の中で農業に触れる、というレベルまでにはなかなか到達しにくいのです。

一方で「City Farming」のような都市農業の形態が、店舗・オフィスやマンションの共用部にあったらどうでしょう?
日々植物の成長や変化が感じられ、難しい世話は必要なくいつでも新鮮な野菜や果物が手に入ります。また、受粉作業や収穫は人の手でやらなればならないというのもポイントで、こうした“ひと手間”がもたらすものこそが、人と農の新しい関係を育んでいくはずです。

都市で生まれ育った人は特に、農業に触れてこなかっただけでなく土を触る機会すらなかった、という人が少なくないはず。そうした人たちに向けて、都市農業をもっと身近で楽しいものにしたい!という想いも込められた「City Farming」。次の記事では、このプロジェクトが下北沢でいったい何を起こそうとしているのか?に迫ります。

取材・文:丑田美奈子/撮影:Adit (Konel)