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疑問1 トリオン弾の反動について(仮説が生まれたきっかけの話)

⚠️この記事は漫画「ワールドトリガー」の設定考察です。物語のネタバレはなるべく避けますが、設定上の情報に関しては掲載本誌の最新話分まで触れる場合があります。間接的なネタバレになる可能性もありますので、ご注意ください。

【前回の記事】 https://note.com/cittty/n/n0614e81a848d

 先ほど投稿したばかりですが、前回の記事でトリオンの設定に関する3つの仮説について投稿しました。引き続いて設定考察を掘り下げていきたいと思います。


◯弾トリガー無反動問題

「なんで千佳のアイビスって、この威力で反動ないの?」

 今回の考察はそもそもこの一言から始まりました。数年前に僕がワールドトリガーをおすすめして、既刊全巻を貸した先輩からぶつけられた質問です。

 ギクっとしました。自分で納得できる答えがすぐに出せなかったからです。

 メインキャラの一人、雨取千佳(あまとり ちか)が使用する、重火力狙撃トリガー「アイビス」。その威力と派手さは対物ライフルを通り越して大砲と評され、読者の間ではしばしば「チカビス」の愛称で呼ばれています。

 小柄な女の子が大型の狙撃銃を抱え、引鉄ひとつで分厚い防壁に風穴を開ける様子は痛快ですし、漫画的表現と読み流してしまう人も多いでしょう。ですが、不思議に思うのも当然です。先輩の疑問は無粋なツッコミとは違った、他意のない素朴なものでした。

 しかし即答できない。

 ワールドトリガーは他になかなか無いくらい設定がしっかりしてる漫画だとその時点で思っていましたし、今でもそう思っていますが、上のような疑問を僕は無意識にスルーしていたことに気づいたのです。

この漫画に限って「まだ説明できない=設定の隙」なんてことは決してない、と主張したい。なのに、上手い答えが出てきませんでした。

スヌーピーに登場しそうな横顔で
アイビス砲を放つ千佳


 そもそも射手トリガーや変化弾・追尾弾の軌道は物理法則まるごと無視しているようにしか見えないので、既出情報と現実の物理法則だけで理屈を立てるのは無理があるんですが、それを口にするのは逃げでしかない。

 この「チカビス無反動問題」に対し、その時に僕が答えたのは「反動を抑える性能が銃に内蔵されてるのでは」という内容でした。雨取千佳ほどのトリオン量があれば、その反動制御も大砲の威力すら相殺できる超性能になるのではないか。そんなことを苦し紛れに話しました。「謎のSF技術でなんか上手いことなってる」とか言ってるのとあまり変わりません。

 それ以来、狙撃トリガーに反動がないことが気にかかって、あれこれ推測するようになりました。

 雨取千佳だけではなく、他の隊員の狙撃場面や銃トリガーの描写でも反動の描写はありません。
※アニメ1期とゲームは未検証(ガロプラのガトリン隊長が使うトリガーだけは反動がありそうな描写ですが、一旦スルーします)。

 しかもボーダーの弾トリガー、どうやら空気抵抗の影響もないように思われます。だからこそ作中で言われているように狙撃トリガーは「ちゃんと狙えばちゃんと当たる」のであって、せいぜい数ヶ月から3年程度の訓練で精密狙撃ができる隊員がごろごろ出てくるわけです。

 何より、いくらトリオンの戦闘体が強靭だからって、跳んで走って動き回りながら両手ショットガンや両手狙撃銃で戦うなんて、無反動でもないと実現しようがない。

 現実の銃は火薬を燃焼させて発生するガス圧で弾丸を押し出しています。物理学で言う作用・反作用に従うのであれば、物質を押し出せば相応の力で押し返されるものです。それがないということは、やはり現実の物理法則とは異なるルールでトリオン弾は撃ち出されるのでしょう。

 とは思ったのですが、どうしても引っかかる部分がありました。

◯弾トリガーの構造について

 この疑問を抱えていた当時、トリオンの弾丸の構造解説が既に作中で登場していました。トリオン弾は、威力を決める「弾体」、弾体が大気と反応するのを防ぎ射程を伸ばす「カバー」、そしてこれらを飛ばすための「噴進剤」という3つの要素で構成されていると。

 ここで気になったのが、その説明をした嵐山隊長によるその図解がいかにも「物質」っぽい説明であったことです。

嵐山隊長のわかりやすい図解

「噴進剤という言葉はあくまで解説をわかりやすくするために使ったもので、厳密な表現でないだけ」という可能性は確かにあります。しかし、現実のロケット弾に近い構造はとても「物質的」な理屈で成り立っているように見えます。

 この説明はあくまで大雑把なものと前置きされていますが、都合のよい解釈の元に「トリオン弾が物質化してるとはどこにも書いてないから」と無視していいものでしょうか。
 もし物質化しているなら、作用・反作用の法則が適用されることになり、当然のこと発射時の反動が生まれるはずです。

「噴進」とはすなわち、進行方向とは逆向きに力を加えて推力(ものを押し出す力)を得るということです。

「物質化していないが推進力を得る」というのは、水泳で例えると「身体の無い幽霊が水を蹴って進む」みたいな矛盾を抱えていないでしょうか。

 じゃあやっぱりトリオン弾は物質化しているということになるのでは?

 物質化しているなら反動がなければおかしい。
 物質化していないなら「噴進≒推進」は成立しない。

 いったいトリオン弾はどういう力が働いて空間を進むのでしょう。 

◯仮説の着想(没案)について

 上のような疑問についてどんな答えがあり得るのか、と悩んでいた頃にちょうど「トリオンの由来=タキオン」の発想を得ました。

 先に挙げた【仮説1】トリオンは「タキオン」と同じ性質をもつ、です。

 つまりトリオンは自然の状態では超光速であるという主張ですが、これによって反動問題が解決できると考えたのです。

 トリオンの弾丸が「推進による加速」をしているなら反動が生まれるが、実は「最初から運動している状態からの減速」であるなら反動がないのは当然ではないか、という考えです。
 これなら弾丸が物質化していようがいまいが関係ありません。少なくとも発射時に反対方向への反動はないはず。
 こういう理屈なら、トリオンやトリガーの謎を説明できるのでは?

 こんな風に空想してみて盛り上がったのは一瞬のことで、すぐに限界を思い知りました。この理屈で作中の他の疑問は説明しきれないし、感覚的な思いつきでしかないので、細かい理屈を言語化することもできない。

 物理学や素粒子、光速と超光速、エネルギーとの関係など、関係しそうな図書をあれこれめくってみたりもしましたが、本質からズレている自覚がありました。

 何よりも、「ワールドトリガー」はわかりやすさ、伝わりやすさを非常に重視した作品です。
 優れた戦略も、複雑な心情も、果ては政治的な意図の交錯までも絶妙なサイズに噛み砕いて表現されています。
 物語の根幹部分であるトリオンの背景が、専門的で高度な科学知識でガチガチに固められているとは考えにくい。

 もっと素直でシンプルな回答があるはず、という結論に至り、「超光速からの減速説」は一度棚に上げることにしました。

 結局その後、「グラスホッパーは物質化したものしか反射せず、トリオン弾で相殺できる」という情報が開示されています。トリオン弾は物質化していないと間接的に読みとることができる解説です。「噴進」の表現についてはどうやら考え過ぎだったようです。

つまりトリオン弾は非物質!

 物質化しているかいないかでアレコレ考えてたのは一人相撲で終わったわけですが、その後の考察のヒントにはなりました。とにかく自分は「トリオンの由来タキオン説」と「トリオン弾は加速ではなく減速している説」という思いつきを気に入り、できるところまで掘り下げることにしました。

 これらの発想が【3つの性質仮説】のスタートです。

 僕が【仮説1】の原型「トリオンはタキオン由来=超光速である」説と「トリオンは3つの性質をもつ」説に至ったのはほぼ同時期だったので、「チカビス無反動問題」への回答については他の2つの性質で説明できればよいと考えました。そこで【2】に移ります。

◯トリオンと情報の関係性

【2】トリオンにはあらゆる情報を直接載せられる。

 この説については、作品を読めば多くの人がそのまま連想する性質ではないでしょうか。僕の予想の中では順当な部類です。直接載せる、とはつまり思考やイメージだけでトリオンに情報を「込めて」発する、それによってエネルギーに具体的な機能を持たせることができるということです。

 トリオンに武器や装置としての性能を持たせるためには、あらかじめ特定の機能をプログラムしたトリガーを使用する必要がありますが、トリオンが情報を媒介することは登場人物たちのサイドエフェクト(以下SE)の描写から読み取れます。

 未来の情報、視覚や聴覚の情報、記憶の定着、真偽の判別など、現在登場しているサイドエフェクトはつまるところ情報処理に関する能力と言えます。たとえ3つの性質予想が外れていたとしても、「情報」というキーワード無しにトリオンの性質を説明することはできないでしょう。

【2】の仮説を補強する要素は他にもあります。
 まず、トリオン製の戦闘体の仕様もトリオン体の重要器官として「供給機関」と「伝達脳」という2つが挙げられていますが、伝達脳は生身の脳の働きをトリオン体に伝達する働きがあると説明されています。これは脳が処理した情報をトリオンに載せて伝達していると解釈できます。

 さらに、トリオン体には内部通話機能があり、ある程度近い距離にいる任意の相手と、声を使わずに意思のみで会話することができます。これもトリオンが「情報」を媒介する性質が可能にしていると考えられます。

 それに、自在に変形できる武器。変化弾や追尾弾の操作。仮想空間の仕様。トリオンで再現可能な現代の機器の数々。ブラックトリガーが作り出される過程。作中のいろんな設定が【2】で解決できそうに思われます。

 しかしながら、どうしても無視できない謎があります。それは、上に列挙したすべてが「トリオンの元来持つ性質」故に可能なのか、それともあくまでプログラミングされた「トリガー・トリオン体の機能」でしかないのか、その区別がつかないということです。

 だからこそ生身の身体がトリオンの影響を受けているSE持ちが鍵になるのですが、細々と論拠を集めていたら、単行本24巻で決定的な情報が明かされました。

 トリオン体には「音声にトリオンを載せて発することで、異なる言語話者同士でも会話できる」「話し手と聞き手、どちらかがトリオン体なら言葉は通じる」という機能があると言うのです。

 注目すべき点は後者。片方は生身でOK、しかも発話者が生身でも聞き手がトリオン体なら聞き取れるという部分です。この描写は「生身の人間が発話するだけで、その音声は情報が込められたトリオンを運ぶ」と読み取ることができます。まさに仮説どおりトリオンは元来もつ性質として情報を媒介するのです。

 こんな性質があれば、トリオン技術によってコンピュータや通信端末など、本来は電力によって動く電子機器をトリオン技術で容易に再現している理由も納得ができます。1と0の信号の連続を読み取るための高度なプログラムは不要です。現実の電子機器ほど複雑な回路基盤も必要ないかもしれません。

 エネルギーそのものが情報を運び、エネルギーそのものが情報を読み取り、それに応じた結果を出力する。そんなことが可能なら、優れた技術者であれば容易に高度なコンピュータを再現できると思われます。

 この設定が確定したことで、「トリガーが持つ『機能』はそこに載せる『情報』によって決まる」という説が考えられます。

 その前提となるのはブラックトリガーの存在です。

 ブラックトリガーは、優れたトリオン能力の持ち主が、自身のすべての力を費やして作り出すとされています。必要な条件は「高いトリオン能力」と「作り方を知っていること」、そして「作り手が引き換えに命を失うこと」、この3つだけが明かされています。

 これらが条件のすべてであるなら、特別な道具等もなく身ひとつでブラックトリガーを作り出すことができることになります。国ひとつの軍事力を支えるほど強力な「機能」と「動力源」が、ひとりの人間から生み出されることになります。

 トリオンは生体エネルギーであり、ブラックトリガーには「内蔵トリオン」が備わっていることが示されています。つまりは作り手自身が動力源にもなる、と理解できます。
 では機能はどのように決定するのかと言えば、これもどうやら作り手によって性質が決まるようです。

 それはつまり、意識的か無意識的なのか不明ですが、作り手がブラックトリガーの機能をプログラミングするということでしょう。身ひとつでそれが可能なのです。

 人が発する音声に、言葉にトリオンが伴い、そこに情報が込められているように、自らの肉体、精神、魂と呼べる生命まるごとをエネルギー化して発し、そこに機能として情報を刻むことができるということです。

【2】トリオンにはあらゆる情報を直接載せられるという仮説を、ここまでの前提を踏まえてさらに深めた内容にまとめると、次のようになります。

 トリオンエネルギーは、それそのものに情報を込め、伝達することができ、その情報の性質によって機能が決まる。

 この性質は作中の様々なトリガーやトリオン体の仕様について矛盾なく説明することができるので、【2】の仮説は順当と思われます。

 仮定した【1】、【2】を軸に考えると、この2つの性質だけでは説明できない要素を補う形で3つ目の性質を導くだけでよいはずです。

【3】トリオンは載せる情報に応じて速さと状態が変化する

 この仮説については次の記事で触れることにします。

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