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生まれて初めてストリップへ行って来ました

生まれは横浜市。近所にストリップ劇場があった。子供の頃から、女、子供が踏み入れてはいけない領域の「何か」があると認識していた。

思えばその頃から、中は一体どうなっているのか、どれほど煌びやかな世界なのか、恐怖と憧れの入り混じるような気持ちを持っていたが、齢三十を過ぎて、足を踏み入れることができるとは思っていなかった。

新井 見枝香(みえか)さんについて知ったのは、2018年。フジテレビで話題の女性に密着する「セブンルール」を見て、素敵な「書店員」さんがいるのだなと惹かれた。

同年の5月、大好きなジェーン・スーさんの新刊のトークサイン会、お相手は書店員の新井さんと知り、迷わず伺った。
「セブンルール見ました」とそっと声をかけると、「ありがとうございます」と爽やかな笑顔で返してくださったのをよく憶えている。

それから数年、「書店員」の新井さんは、「ストリッパー」へと華麗なる転身を遂げたと知る。衝撃だった。
そして、煌びやかな「何か」への興味が大きくなっていった。

「新井モーニング」という、ストリップ初心者でも入りやすいよう、モーニングをご一緒して、劇場まで連れて行ってくださる会がある。
その会に参加できれば、きっと劇場に入ることができるだろうと思い、何度もスケジュールと睨めっこしていたが、あと一歩の勇気が出なかった。

今回一歩を踏み出せたのは、予定が流れて金曜が一日オフだったこと、
そして、フジテレビの「ザ・ノンフィクション」で、闘病生活とストリッパー復帰への道程を密着されていた、星 愛美(まなみ)さんが同じステージに上がると知ったことだった。

新井モーニング(事前にやり取りさせていただきランチタイムになった)で池袋で待ち合わせ、新井さんと対面。
昨年12月に中井の伊野尾書店さんで一日書店員をされていた際伺って、サインを頂いて以来だった。
友達と久しぶりに会ったんだっけ?と思うほど、ナチュラルに、ラフに、お話してくださった。

「ポラ」といって、1枚500円でストリッパーさんの写真、またはツーショットの写真を撮ることができること、これがストリッパーさんの人気(集客)を示す大事なバロメーターでもあること、そしてここには書けないようなあれやこれやのこと、貴重なお話をたくさん伺った。素敵な時間だった。

「そろそろ行きますか」と言われ、急に緊張が増す。ミカド劇場まで一緒に歩き、入り口まで。新井さんは別の出入り口から入られる。

ひとり挙動不審気味に透明の暖簾をくぐると、横に座っていたスタッフの方に声をかけられる。「女性の方3,000円ね。」男性の方より料金が値引きされている。
万札を差し出し、「ポラが撮れると聞いて、お釣りを千円札でいただくことできますか…?」と恐る恐る聞くと、「お釣りいつも千円なんで」とぶっきらぼうに返された。そういうものなのか・・・。
トイレは共用なので抵抗あれば近所のヤマダ電機かパチンコ屋へ、と教えてくださったので、怖いけど悪い人では無さそうだなと勝手に思い込む。

「途中でも入って良いんですか?」と聞くと、「どうぞ」と言われ、黒くて重たい扉を引いた。
ステージの真ん中からT字に突き出した花道があり、ピンク色のライトに照らされた女性が、今まさに大開脚のポーズを取り、喝采を浴びている瞬間だった。

頭をガンと殴られたような感覚。これがストリップなのか。

こんなに近くで見て良いものなのか、いや良いんだろうな、綺麗だな、女性の局部はこんな風に見えるのか・・・。
ぶん殴られた頭の中、ボーッとしつつも色々な思いが心に去来し、入り口すぐの立ち見の場所で立ち尽くす。

踊り子さんが舞台袖に消えたところで、空いている席を探す。
花道を真ん中に、左右それぞれに3人掛けのソファが3つずつだっただろうか。頭が落ち着いてきて、想像よりも狭いのだなと感じる。

「雨だからそんなに人いないと思うよ」と聞いていたのだが、席空いているかな?と覗き込むと、傘やカバンで場所取りをしてある様子。
11:30から23:00まで、踊り子さん6人で全4回公演、入れ替えなしで見放題、外出も自由だそうなので、お気に入りの席をキープしているのだろうなと察する。

1列目もいっぱいかな…と、そっと覗き込もうとすると、「空いてますよ」と男性が声をかけてくださったので、そこに座らせていただいた。新参者が座ってもよかったのだろうかと恐縮する。周りを見ると、女性の方も数人いらしたが、多数派はロマンスグレーのおじさまのようだ。

何人かのステージを拝見した。最初は、着物、ドレス、レースクイーンなど様々な美しい衣装で出ていらっしゃる。徐々に脱衣が始まり、脱ぎ終わるまで何度か袖に戻り、衣装替えをされる。曲に合わせて動的にパフォーマンスをされる様子を、手拍子しながら見る。
さっき声をかけてくださったのは、「タンバリンおじさん」と呼ばれるおじさまだったらしい。曲に合わせた軽快なタンバリンが小気味良い。
脱衣が終わると、花道の先の中央で、静的に次から次へとポーズを決めていく。開脚されたポーズが決まると、拍手をするのがお決まりのようだ。

圧巻だ。美しい絵画を見ているようだった。

そのポーズは、どれほど身体が柔らかく、しなやかであればできるのか?ポーズを維持する筋肉はどうついているのか?筋骨逞しいのではなく、曲線的な女性らしいプロポーションはどうやって維持しているのか?
美しいお姿を前に、疑問も次々湧いてきた。

一通りパフォーマンスが終わると、ポラ用の衣装での写真撮影の時間があり、さらにTシャツでのアンコールのような「オープンショー」という時間があった。ここでおひねりが渡せるらしい。

なんとなく流れを掴んだ頃、ついに新井さんが登場する。
エナジードリンクのモンスターが入ったカゴを片手に、緑色を貴重としたお衣装。蛍光グリーンのような網タイツ。
ここまでのステージでは、女性らしいピンク、レースなどの衣装の方が続いていたので、新鮮で、なんと可愛らしいことか!

先ほどランチをご一緒した微笑みかけてくださるお姉さまとは別人だった。少女のように溌剌と笑い、「気圧が辛い」と仰っていたのが嘘のように軽々と、時に激しく、舞っている。

衣装替え後の革ジャンのようなベストも、ロックで似合っていらっしゃるなぁと惚れ惚れしていると、中〇美嘉さんのGLAMORO〇S SKYが流れてきて、
「あ、NANAだ・・・」と思うと同時に、この曲が流行っていた10代の思い出が噴き出した。涙を堪えた。

新井さんが舞台袖に戻り、写真撮影までの一瞬の隙に、ツーショットに備え自分のメイクを直す。リップを塗りすぎる。
列に並び、新井さんお一人のショットと、ツーショットの2枚をお願いした。
「朝と全然違ったでしょ」と声をかけてくださる。
はい、本当に。朝とはまったく別の魅力を見させていただきました。

オープンショーに備えて急いでおひねりを準備。千円札を縦に三つ折りにしておく。細く折りすぎたかな、これで良いのかな。
自分の前に来た頃、お札を差し出すと「おっぱいでもらうね」と胸を前に出してくださり、挙動不審全開でドギマギしながら挟ませていただく。
さらには、何度も目の前で開脚をサービスしてくださった。これは千円では足りていない・・・。ありがとうございます、ありがとうございます。

星愛美さんのステージは、これがプロなのか、と感じる圧巻の内容だった。
ピンと伸びる背筋、脚線、爪先。数ヶ月前まで抗ガン剤治療をされていたとは、とても信じられなかった。短い時間舞台袖に戻る際も、客席に向かって必ず礼をされ、所作の一つ一つが丁寧で美しい。
「東京ブギウギ」をお人形さんのように可愛らしく踊る姿も、儚いピンク色のワンピースで大人の女性らしく舞う姿も、そのどちらにも魅了された。

ツーショットのポラをお願いしに並ぶと、「わ〜娘だぁ〜」「私お母さんくらいの年だもん」「悪いおじさんに騙されちゃだめよ〜」と屈託なく笑いかけてハグしてくださる。星さんの周りに熱心なファンの方(星組の方)がいらっしゃるのも納得でしかなかった。

帰宅してからここまで一気に書き終えて、今日の出来事のすべてが疑わしくなってきたが、手元にはきちんと3枚のポラがあった。

恐怖と憧れの「何か」に踏み入れ、私が見たものは、煌びやかなだけの虚像ではなく、生身の女性たちの弛まぬ、血の滲むような研鑽と、ファンの皆さんの情熱によって形づくられた実像だった。夢のような一日だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます! 至極しあわせです。