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「聖蹟桜ヶ丘」という駅名は最高にカッコいい

そこは、耳をすませばの聖地である。

昔、ネットで「カッコいい駅名」みたいなスレッドをよく見かけた。当時そこに書き込んだわけではないが、6年前に一意見を全力でしたためたものが残っていたので、noteに放り出してみる。

1文字目から漂う、只者ならぬ高貴な風格。

「清澄白河」の清らかさや「神泉」の神々しさも劣らぬものはあるが、駅名の漢字としては希少価値の高い「聖」を敢えて使うことにより、他を寄せ付けない神聖さを放っている。

そんな静謐さの傍ら、この字を見つめながら耳を澄ませば、どこからか夢見るヴァイオリンの音が聴こえてくるのは気のせいではないだろう。

この2文字目が担う重厚感が極めて重要である。駅名5文字のうち、この字のみが画数の多さで抜き出ており、字面も伴うことで、全体に威厳ある重みと質感を生み出している。

この点では、同じ沿線に位置する「高幡不動」も同様の印象を与えるが、各字の画数がいずれも中途半端であるため全体的なバランス感を逸しているのが惜しい。

なお、「聖蹟」とは天皇が行幸の途次で休息や宿泊した場所を指し、この地では明治天皇が兎狩りなどのために訪れたことに由来する。戦前の1937年に現在の駅名へ改称された名残であり、日本近現代の深遠な歴史を垣間見させてくれる。

後半に差し掛かったところで目に飛び込むのは、古くから日本人が最も愛し、この国の象徴とされる国花「桜」である。直前の「蹟」に続けて大和心をくすぐってくるその繋ぎ方は、鮮やかとしか言いようがない。

前半2文字では高貴な理念的映像を描いたが、 ここで叙景的要素が加わることで全体のバランス感が一層増している。地元多摩の桜という、前半とは対をなす自然の柔らかな優美さが際立つのである。

類する駅名としては、京都市右京区の「嵐電天神川(らんでんてんじんがわ)」がある。

ただ、冒頭2文字が少々荒々しいせいか、末尾の「川」はやや急流の様相を呈する。また「雷」と「天神」が結びつくことで、頭の中は俵屋宗達の風神雷神図屏風、そして迷宮兄弟の雷魔神・サンガ、ややもすればゲート・ガーディアンで一杯になってしまい、景色をゆっくりと眺める余裕はなくなってしまう。迷宮兄弟って誰という方はとりあえず遊戯王の漫画をご一読願いたい。

結びを決めるのが「丘」である。「ヶ丘」で終わる駅名は数多く存在するため、ここで「ヶ」に言及することは割愛する。

注目すべき点として、駅名の着地点として選ばれたのが「田」・「原」・「台」・「山」のいずれでもなく、緩やかな斜面地形たる「丘」であることに触れたい。

小高い丘陵という絶妙な位置に立ち並ぶ桜が、穏やかに流れる多摩川とその河川敷に広がる街を眺望する。日本の四季、春が見事に凝縮されているといえよう。

兵庫県宝塚市の「雲雀丘花屋敷(ひばりがおかはなやしき)」も、限りなく洗練された駅名であることに疑いの余地はない。

しかしながら、叙景的要素が「花」という一般的な表現に留まってしまっていることや、結びが「屋敷」という境界線のある閉じた空間になっていることを考慮すると、やはり総合的な観点からは「聖蹟桜ヶ丘」に一歩及ばないと言わざるを得ない。

結論

以上より、「聖蹟桜ヶ丘」が全国で最もカッコいい駅名と考える。

なお、筆者は同地に何ら縁はなく、鉄道にも全く精通していないことを申し添えておく。


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