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何かよくわからないけど良さそう

世の中は、なんかよくわからないけど良さそうなもので溢れている。

「当店オリジナルブレンド」。コーヒーを買うときによく見かける口説き文句だ。何かよくわからないけど良さそう。何を混ぜてるのかなんてわからないのに。

コーヒーに詳しくないから惹かれるのかもしれない。コーヒーのプロである我々が厳選した特別の配合です感に。「オリジナル」の魅惑的なイメージに酔いしれ、「ブレンド」の重厚な響きにひれ伏すことしかできない。

問題は、その抜群の信頼感が使い手を選ばないことだ。悟史が急に「これ、実家で余ったコーヒー。うちの親父のオリジナルブレンド。」とか言ってきても「え、マジで。サンクス。」とか受け取ってしまう。親父さんがコーヒー好きかどうかなんて知らない。悟史はぼくの小学校時代からの友人で、大学生の頃にベローチェでバイトしてたこと以外、このnoteにもコーヒーにも驚くほど関係がない。

「北海道産」も何かよくわからないけど良さそう。広大で肥沃な大地が育む農産物に、滋養豊かな親潮に集まる海産物。北海道産じゃがいもに北海道産ホッケ。恥ずかしながら、北海道産小豆がすごいことを最近まで知らなかった。このままでは北海道産パイナップルを薦められても拝み倒しかねない。

産地というのは曲者で、「パルマ産」「シチリア産」とかも油断大敵だ。「シチリア産生ハムの盛り合わせでございます。こちらのパルマ産レモンをひと搾りしてお召し上がりください。」。言い間違えっぽいのに、何かわからないけど良さそう。ハムにレモン搾ったことないけど。

お酒の「辛口」もそう。半世紀近く前の地酒ブームで、とりわけ脚光を浴びた「八海山」「越乃寒梅」をはじめとする新潟の淡麗辛口酒。アサヒスーパードライによるビール革命も相俟って、辛口=良酒という図式が日本に定着した。この話を始めると止まらなくなるのでやめよう。

ごめんやっぱちょっと続ける。「〇〇だけど、△△」といった逆接表現。お酒に限らずあらゆるレビューで使われる常套文句だ。

「まろやかだけど、後口はすっきり」「外はサクサク、中はもちもち」「クラシックモダン」。無限のバリエーションには夢がある。何かよくわからないけど良さそうである。外も中もサクサクではダメなのだ。そんなただのクッキーに出番はない。

良い意味で期待を裏切るからだろうか。「この価格で、このクオリティ」を例にとるとわかりやすい。でも、そもそも複数の要素が1つにまとまっているという贅沢感もあるような気がする。あるいは、相反するものが両立すること自体に美を感じるという人間の性かもしれない。

これを上手く世に知らしめたのが、またもや登場のアサヒスーパードライとともに生まれた名キャッチコピー、「コクがあるのにキレがある」だ。

でもこの仲間、適当に使われてることの方が多かったりする。「フルーティで、コクがあるね」と「フルーティだけど、コクがあるね」はどっちも同じようなことを言っているのに、後者の方が何かよくわからないけど良さそうなのだ。世界には「なんでそこ逆接なの?」と尋ねる勇気が足りない。

世の中は、何かよくわからないけど良さそうなものばかりだ。でもそれでいいんだろう。何かよくわからないけど嫌なものが多いよりずっといいから。

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