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小説:おっきなヴィランときっかいな姫 2

#ポケモンSV #パルデア #グレンアルマ #ゲンガー #二次創作


 \前回までのあらすじっ!/

 とあるアカデミー生徒『リト』は、パートナーのグレンアルマ『ナッツ』と共に、テーブルシティ含めてヒーロー活動中!
 ある日出会ったのは、『どくタイプ』を撒き散らす様子のおかしなキルリア。
救助してポケモンセンターに連れて行ったところ、「それは『テラバーサク』だ」と指摘されて…

テラバーサクはオリジナル症例です。




 ━━ラルトス族は、基本的にどくタイプの技を覚えない。だから自分のタイプをどくに変えることにメリットはほぼない。
そしてエスパー・フェアリータイプ(エルレイドを除く)。フェアリーポケモンは、どくの攻撃をこうかばつぐんで受けてしまう。フェアリー技もどくタイプには効果いまひとつだ。
そんな矛盾した内在するテラスタイプ傾向に、成長したポケモンや適応したポケモンなら耐えることができるものの、幼いポケモンにとっては心身を蝕む要因になってしまう。
だから苦しみのあまり暴れたり倒れたりしてしまうことがある。周りにテラスタルの力を撒き散らして。

 それがテラバーサク━━。


 …………ものすごい早口だった。

「ところで喉乾きました」
「そ、そうですか……」

話をだいたい後でまとめたのが上の説明。

「ところで学生のくせにミックスオレの一本も持ってないんですか」

 ジトリ見つめる目から、カバンの中身を思い出しつつ「そんな現金な」と首を振る。ジョーイさんは少し口を尖らせた後、ボトルを取り出して斜め80度でがぶ飲みし始める。持ってるんじゃん。

「…ぷはあ。ですので、青二才」
「急にものすごい罵倒してきましたね」
「そのポケモンは、大人に託すべきです。自分のパワーも制御できず、周囲に危害を撒き散らし、己も苦しみ続ける。そんじょそこらのトレーナーに解決できますか? アカデミーに帰ったら先生に任せなさい。今なら倫理観を信用できます」

…今なら?キルリアを抱き直して怪訝に眉をひそめる。

「本来なら預かり屋送りも仕方ない個体ですよ」

 …………急にものすごいトラウマ抉ってきた。
ナッツも一度、くぐりかけた扉だ。
子どもの涙腺はゆるい。
預かり屋をくぐらなかっただけで、私だって、ナッツを、だって、あの時見捨てたようなものだ。生易しくない自然で生き残り、強力で危険な野生ポケモンとして通報されなかったのは奇跡だったという。
 人間よりはるかに強いのに、共存や共闘をよしとする。だけど人の技術に使い捨てられることも、人と手を組んで、いや存在するだけでも事件や災害をも起こすこともある。
そんな生き物、ポケモン。
『プラスマークのポケモンを預かり屋にくぐらせたくない』という意地とエゴを、たった一人の女の子がどれだけの数通せると言うんだろう。
 体の芯と、腕の中で、ビクリと身震いがあった。

「キリ…」
 ━━駄目!

「ゲン!!」
 駄っ!?

 背筋を通った寒気は、ゴーストポケモンの寒気に上書きされる。
私の腕から生き物がもぎ取られた。私はぱちっと目を見開いた。キルリアがパチっと目を開けた。そして目の前にでんと広がる紫色の顔を見て、

「キリ━━!? キッ、アッ、ウエッ」

私の声を遮ったキルリアの甲高い悲鳴は、うぷ、と込み上げるものは、口を抑えたことで押しとどめられる。顔を真っ青にし、身を引きつらせ、
 まずい。また“テラバーサク”……!

「リア━━」

「ばくんげっ」 (━━吐瀉音)

 …………。
どうしてそうしたんですか。
吐きそうと見るや否や━━、ゲンガーはばっくりキルリアを口に入れてしまったのだ。かろうじてはみ出す、ぷるぷる震える足とくぐもった悲鳴から見るに毒をまだ吐き続けてる、というか暴れてる。

「わー、キョダイゲンガー」

なにそれしらない。
マジメにヤジウマさんたちがうわさ話を始めてるのでちょっと止めたい…止め…止めたいんだけど毒まき散らされるのもマズい……
 ゲンガーは「(波線)(波線)」みたいな目をしながら吐き続けるキルリアをくわえ続けている。私の凝視に気付くと、「ギヘッ」と笑いながら、恐らく親指を立てるジェスチャーをした。ちょっと毒が口から漏れた。

「━━ぶへっ」「きりぃ…」

 ……やじうまさんたちが集まる前に、ゲンガーは紳士的にキルリアを口から出した(紳士的に出すって何?)。…キルリアはクタクタだ。
ゲンガーは太くて短い腕で、キルリアを両手で抱き上げると、ベロッとへどろを舐めとり、

「ごっくん」
「………… キリリリィリア!!!」

 痴話喧嘩みたいなビンタが響き渡った。

「その発想はなかった」

 ジョーイさんが呆気に取られていた。

「ポケモンに任せるのってありだと思います?」

 私の提案は空に消えた。
 ナッツはというと。 熟睡していた。




 …………バトルコート。

「見た目がアウトでしょ、リトちー」
「それなー。でも現状これしかないのよ」

 キルリアのポケモンボールは私の手の中にあった。
色キルリアを買い、トラブルを起こした姉妹は謹慎処分になっている。ばんざい、寮生活。
そしてポケセンおねーさんの手紙、ゲンガーの決意表明(ミブリムテブリム)により、キルリアは私の管轄になったのだ。

「まず1週間ですからね」

という課題つきで。

 しかしキルリア、ものすごく敏感なのだ。

大声、人ごみ、その目線、不意打ちのちょっかい、すっぱいピクルスにまで驚いて、そしてたんびに吐いた。
 ゲンガーの対応は、すごく良かった…見た目以外。
キルリアの悪寒にすぐ気付いて毒を全て受け止めてくれる。ただし口の中に……キルリアごと。「リトのゲンガーがポケモン食べてる!」って朝の間大騒ぎになったし、今日うち誤解が続きそう…。
できればゲンガーの守りたそうな意志を尊重したいとは思うんだけどねー。

「完全にロリコンのそれじゃん?」「ヂルルゥ」

親友・ヒナゲシとライチュウの同じ表情に「わかる」とは答えてしまう。
 キルリアはブランコの周りを歩き回っている…遊び方がわからないみたい。ナッツがゆっくり歩み寄り、鳴き声を交わすと、やがてキルリアはぎこちなくブランコを漕ぎ始めた。
うふふ、和む〜。…その光景を、畑の植え込みに隠れて見つめるゲンガー。うふふ、こわ〜。
あの子、ぎこちないんだよねえ。キルリアはご機嫌になると踊るポケモンです!と小さい子でも聞くくらい彼らは人に親しい種族なんだけど…よほど人里離れたところに住んでたのかな?

「ぽう〜」
「なにー、ナッツ?」

 キルリアを離れ、小走りに駆け寄ってきたナッツが、膝をついて、私の肩掛けポーチの方をポンポンと叩く。うん、そっちに入ってるのは…。

「おやつ食べる?」
「ぽーぽー、くるくる〜」
「キルリアと一緒に食べたいんじゃない? いいよねナッツとキルリア。映えるわ〜、撮っていい?」

キルリアのためなら甘やかしていいか。ロトムスマホを呼び出したヒナゲシに「フラッシュたいちゃ駄目だよー」(3敗)と頬をつついてから、中身を取り出す。

「どうだ! マホミルクパウンドケーキ!」

 外地方のポケモン仕立てのクリームを使った、ふかふかのあま〜いケーキ!
ナッツはタッパーに手を添えると、スンスン鼻を鳴らし、「クルマ〜!」コクッと頷いて私の頭をなで…「ちょ、コラぁ!」…大きくて不器用な手で…掴…掴めない…タッパーを胸に抱いて、ブランコのキルリアへ、それを差し出した。

「キリ…! キリリィ……?」
「…んー、ちょっと包み紙小さかったか」

ヒナゲシは既に立ち上がってベストショット距離を探している。
ライチュウがぼくにはないんですかとばかりにポーチを叩いている。ないですと首を振るとゆるいアイアンテールではたかれた。ひどい。
 キルリアが恐る恐るケーキに手を差し出す。しかし、忘れておいでである、キルリアはブランコの上である。揺らぎに合わせて、

「 きゅっ!?」「ぽぐう! 」
 ━━ばたーん!!

ブランコから転ぶキルリア、それを受け止めるナッツ、そして…投げ出されるケーキ!「騎士ー!?」撮っとる場合か!「ナッツ、キルリア!」あわてて駆け寄った。キルリアの全体重を加速度込みで受け止めたナッツは軽く咳き込みつつも、その体をゆるゆるなでてやっている。キルリアは目を白黒させている。

「だいじょうぶ…?」
「ぷぅ〜…」
「ケーキはいいの、いいんだよ。2匹ともケガはない?」

ナッツは、うつむくキルリアの手を取って立ち上がった。だけど、フラつく。キルリアはますます顔を伏せる、チカチカとツノが光った気がした。肩が震えていた。

「……リトちー、ケーキ片付けるね」

ビクッとまたキルリアが震えた。……痙攣! 「キルリア!」

 その時だった。ナッツが、ぎゅっと抱きしめた。
 小さなヒーローが、もっと小さな子どもを抱きしめてる。
大きな腕で包んで、大きな肩当てはすっぽりその体を隠す。頭の炎がオレンジから桃色に変わる。ゆったりした念力の波動にふわふわと2匹がたゆたう。

 ……落ち着いた……?

念入りに念入りに頭をなでる手は決してツノを触らない。小さな子はナッツをぼんやり見る。感情は何、震えは止まらない。
 かがんでいた「あっ、ゲンガー、いたの━━」と呟いたヒナゲシの手からケーキが抜けた。無事だったらしいケーキは薄暗い場所を抜けて、2匹に少し近い場所に現れる。
 大きな体には小さすぎるひと切れのケーキを持って、ゲンガーが一歩。「ぇんが」ナッツがぱちくり顔を上げて、「ぷえ。くる、まう」鳴き声のやり取りをする。
ゆっくりゲンガーが自分より小さな2匹に距離をおそる、詰めて、おそる、ケーキを差し出した。
背中もツノもトゲトゲで、この場の誰よりも怖がっているようなわかりやすい顔。ナッツが何か囁いて、やっとキルリアが顔を上げる。
 私たちは息を呑んで見守る。キルリアが、すうっと手を伸ばして、…ケーキを、受け取った!
 わあっ━━

「キイイイイィィーーーッ!!!」
 べちゃっ!!
「げ……!?」「き、きる、ゲンガ!」

 ケーキ、投げた…! 寸分おかず、だった!

「げ…………、」

 ゲンガーは、ケーキと、クリームまみれ。毒を簡単に拭えるのに、ゲンガーはケーキを拭えずにいる。人間も、ナッツも、ゲンガーとキルリアを交互に見てあわてて、そして何もできずにいた。
キルリアはギュッとナッツに抱きつき、その手首を握っている。小さな小さな泣き声が、大きなヨロイの内側から聞こえてくる。…ナッツは完全に沈黙して、一度グッと喉を鳴らした。
 腰元を通り過ぎるものがあった。ポケモンがボールに戻る時の感覚だ。ぐしゃぐしゃのタッパーが、あからさまに見えた。ライチュウが手を伸ばす、

「…………いいよ」

…自分も、喉に詰まったものを引っ掛けながら。

「もう……いいよ」

歩いたのに、へたりこんで。ぐしゃぐしゃのケーキの紙を引っ張って。

「あのね……もういい…………」

キルリアは、毒を吐かなかった。ナッツに寄りかかって、手を握って、しくしくと泣き続けている。ナッツは困り顔で「きゅう」と腹で鳴いた。
 昼休みにはまだ、『たからぐも』がたなびいている。



 キルリアがあんまりナッツにすがるので、「ヒーローとお姫さまだ〜」と周りからやんやはやし立てられる。とうのナッツは困り戸惑った様子だ。
…私のことは時々ヒロイン扱いするクセに…。
嫉妬めいた考えがよぎっちゃう、ああいやだイヤだ、わたくしキーッて噛むハンケチーフは持っておりませんわよ! その辺の男子より顔も行動もイケメンなんだぞ、うちのナッツは!(自慢)
 キルリアが不安になるとナッツはふわふわなでてやる。それでじっさい、目に見えてテラバーサクの回数が減ったのだ。くうう、これがエスパータイプのシナジーか…。

 しかし、問題は増えた。変わった。
 ゲンガーの振る舞いが変わった。

ナッツの炎が反射的に真っ赤になり、私の涙腺が歪むほどの気迫だった。ぐわっ、と辺り一面の気温が下がって、 “ゲンガーが襲ってきた”━━。
お姫さまはゲンガーに捕らえられて、甲高い悲鳴が上がって、ゲンガーにバクリと食べられてしまう。

   後は、殺陣が始まるのだ。

どちらから始めたのかわからない…。ゲンガーはナッツと交戦し、“やっつけられ”…キルリアはナッツのところに戻ってくる…。
『小さなナッツが、キルリアを取り戻そうと、大きくて恐ろしいゲンガーと取っ組み合う』のは、見応えが、盛り上がりが、あって、日を跨がぬ内に観衆を集めるほどの━━見世物に━━なった……。

「2匹とも、ケガはない!?」

2匹とも、ケガはない……。
 最初にゲンガーが襲ってきた時も。戦り合い始めた時も。私はパニクって叫んで呼びかけて、ボールを取り出した。なのに、なのに、ナッツが熱を帯びた腕で私を制して、コトはどんどん進んでいった。

 演劇。ヒーローショー。必要なのは、悪役。

私は、監督ですら、なかった。ポケモン同士の事情と会話がそこにあって、私は置いてけぼり。テラバーサクの発作を隠すためとはわかるけど…勝手に、決めないでよ……。

「……平和的…解決じゃん……?」

 ライチュウがつまらなさそうに眺める。盛り上がっているのは人間かベビィポケモンだけだ。
…………3体ともボールに入れて(キルリアだけは処方箋を飲ませて)おけば、何ごともなく過ぎさせてしまうことはできる…。でもナッツの根っからのヒーローは、他の事件も解決したい。……そうして次々、出てきちゃう。



 自室。私はベッドにぶつけるように身を投げ出した。
窓から『たからぐも』の光が見える。ヒナゲシからの『早くみんな休めぞー』というメッセージ、返信は思いつかないのに、物思いにはどんどん沈んでいく。
傷つきやすいくせに、臆病なくせに、さみしがりなくせに、あの時一番かなしい顔してたのはゲンガーなのに、ゲンガー、どうして。

━━どうして、『ワルモノ』になっちゃったんだ!!
「ああッ!!」

 怒りを吐き出した。
ドン、拳、布団、殴る。いたい。ナッツがビクッと跳ね起きて…キョロキョロせぬ内に、元通りぐっすり寝こける。

 『ヒーロー』は求められる。ナッツが望んだ。
 『ヴィラン』は求められた?ゲンガーが望んだ?

みんな止まらないんだ!望んでるんだ! 悪役のゲンガーがやっつけられて、ヒーローのナッツがカッコいいシーンを! みんなが、みんなみんな… キルリアのケア、カウンセリング?それ以前に、私は、自分のポケモンのキモチも守れない。

 『ヒロイン』は求められてる?キルリアは望んでない。

『おつかれさまだ、リト君よ』

 既読。スルー。涙目。

『キメ顔知識垂れ流すんだけどさ
ラルトス族って感情に機敏よね。それはゲンガーもそうなんだよ。似てるんよね。ラルトスはプラス感情が好き。ゲンガーはマイナス感情が好き。
だからって逆感情が嫌いなわけないっしょ?』
『笑わせてあげなよ、ゲンガーのこと
がんばれ、我が友』
『無責任だな(笑)
おい!ちゃんと読んでるだろうな!?いつでも頼れよ!bbb』

既読。スルー。泣き声。
……深呼吸をして、咽せて、よろよろベッドから起き上がった。
 がんばれ。ちっちゃなヒーローの助手。監督。
 舞台役者の友よ。
状況をいち早く把握するんだ。ピンチのタイマー、『デンジャー』の掛け声を忘れるな。そしてひとりの学生であることも、こなすのが課題だ。ぴしゃりと頬を叩いた。紙の宿題、メールで出す宿題。私はパソコンを開いた。スマホの通知の天気予報は、また明日もくもりが続くことを知らせてくれる。




  → Go Fire & Go Fight WIN!


★ナッツ (グレンアルマ)(♂)(5歳~)(XXS)

 リトのパートナー。極端に体が小さい。ヒーローらしい勇敢な性格と振る舞いをする。
ポケモンとしてLvが高く、バトルに長けており、更に技に演技で見栄えを加えたり芸達者。そのカッコよさでファンをときめかせることも。母性をくすぐったりもするけど。
アーマーキャノンはもちろん、マジカルフレイム、ニトロチャージ、サイコキネシス、ひかりのかべ、などから技を交換しつつ戦う。中空サマーソルトも幼い頃から得意。
辛いものが好きで甘いものが苦手。メタ種族観点には、中速特殊型なのに攻撃上げて素早さ下げてもだし、ヒーロー展開的に甘いの苦手なのはマズい…?

 体の小ささ相応に持久力(≠HP)が低く、『プラスマーク』カードを装備しているポケモンである。
 カルボウの時は本当に通常の半分〜1/3ほどしかサイズがなく、幼年期のリトに拾われなければ死ぬところだった。しかしその上で子供といるには体があまりにも弱く、『預かり屋』送りになるところを、機転によって脱する。 その後、アカデミーに初通学するリトがピンチになったところに進化した姿で颯爽と登場した。
非常に礼儀正しいとは言え、当時の年齢のリトと彼が過ごす事に苦言を呈する教師もいたとか。素振りは見せないがハンデを背負いながら数年野生で生き抜いた個体だし。

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