寒い朝とニット

「昨日の暖かな陽気とはうってかわって、今朝は冷え込みます。」

私は洗面所で歯を磨きながら、小さなテレビから流れる天気予報士の声を聞いた

オシャレは我慢なんて言うけれど、実際は自分が我慢すればいつどんな服を着ても良いと言うわけもなく、夏に冬の服を着れば
見てるこっちが暑い だとか
時期的にその服はおかしいよ だとか
今日の天気予報見てないの? だとか
私達が正しくてお前は間違っているというような事を色んな人から言われてしまう

そんな経験をしてから私は毎朝CDプレーヤーで音楽を聴くのをやめて、その為だけにあるようなしょぼいテレビで天気予報を聞くようにしている

今朝は冷え込みます

このフレーズを待っていた
去年の冬が終わる頃半額でゲットした凄く素敵なニットを着るお許しがやっと出た
きっと今日なら、もう誰からも咎められない
私はいつでも着れるように綺麗に畳んでクローゼットの上の方に入れておいたニットに腕を通す

はぁ、かわいい、やっと外で着れる

いつもは目尻だけのアイラインも、薄いブラウンのマスカラも、丁寧に綺麗に仕上げていく
大好きな色で一目惚れして買ったけど自分の顔にあんまり似合わなかったリップも、ニットにはぴったりだからつけてみる
なんとなく出し惜しんでいたパールのついたイヤリングも、多分今日のためだった

世間に流されたくないなんて思っても結局ある程度は乗ってないと傷つけられてしまう
着れて嬉しいお洋服もつけれて嬉しいお化粧品も、人のためにやってるんじゃないけど、人に貶されたらやっぱり悲しくなってしまう
それに耐えうる心があれば良いんだろうけど、ただ普通の女の子のおしゃれを楽しみたいだけな私には無かった

ドアを開けると滑り込む風が本当に冷たくて安心する
ニットはちゃんと暖かくて嬉しくなった
かわいいなんて言われなくていいから、なんにも悪く言われませんように
なんとなく不安で持ってきた肌に馴染む方のリップをポケットに忍ばせて、そう祈った

#ミスiD


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