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ニューヨークで暮らすということ


すごく嬉しいことがあった。嬉しくってスマホ片手に叫んで、ちょっと泣いてしまった。



──


ニューヨークは厳しい。

ここに暮らすクリエイターはみんな自分のことに一生懸命で、優しい人はいても、おせっかいな人は少ない。みんな勝負しに来てるんだからそれは当たり前の話だ。

そんな場所で齢30から、しかも英語学習をしながらキャリアを再スタートさせよう……というのだから、ビュウビュウと冷たい風に晒されるのは当然だ。


今、わたしはビザの都合で働けず、ドルを稼げない……という非常にもどかしい状況なのだけれども、とにかくそんな今でも出来ることを! と、英語学習とコネクション作りにせっせと励む日々。しかしミートアップに参加しては玉砕し、アイデアソンに参加しては玉砕し、やっと誘ってもらえた友人のホームパーティーに参加しても玉砕する。

誰も私の相手なんてしてくれない。盛り上がるパーティー会場にてひとりスマホでTwitterを見ながら、ピザをかじり、悲しくなって撤退する。


パーティーでいくらか話が盛り上がり「また会おうね!」と言ってくれた子からも、DMの返事が返ってこない。既読スルーを前に、あれもリップサービスだったか……と項垂れる。まぁ、ニューヨークで何の実績もない外国人が、いきなり相手にしてもらえる訳もない。そもそも日本じゃ、友人からのメールの返信を怠っていたのは自分なのだけれども。



しかも、ひどいことに、こんなことを夫婦揃ってやってるのである。

二人揃ってフリーランス、二人揃って営業あるのみ。まっとうな社会人ならその穴だらけな事業計画のオンボロさにほとほと呆れてしまうだろうけれども、定期的に日本に出稼ぎして資金を蓄えつつ、なんとかアタックを続けているのだ。


しかし、夫は極めて内向的で、社交辞令が大の苦手。リップサービス満点のアメリカ人を前に何度もなんども軽くあしらわれ、その繊細なメンタルがズタズタにやられたのは二度や三度ではない。まぁそれも、自分で選んだ道なのだけれども。



食卓でも、夫婦団らんというよりも「あのコンペ応募した?」「あの人にもメールした?」「来週はここに行ってみない?」と夫とアタックするためのto doを確認しながら、それでも互いが作りたい作品や書きたい文章についての壮大な夢を話しながら飯を食う。バディを組んで生活を底上げしていかなきゃいけないのだ。外食は高いから常に自炊なのだ。カレー作りの腕前がかなり上がった。


アメリカ人は、家族での夕食の時間をものすごく大切にする。宗教的な理由もあるかもしれないが、何よりもやっぱり、移民の国だからだと私は思う。祖国を離れて何かしらの夢を見てやって来た先で、外に出れば人種も文化もあまりに異なる人たちとやり合わなければいけない。騙されることも、裏切られることも沢山ある。そんな中、家族だけは特別なのだ。


私にとっても、外は冷たい場所だけれども、だからこそ、家の中だけでも安心で、安全で、あったかくしておきたい。近所のストリートで起こる物騒な事件をスマホが毎日何度もプッシュ通知で報せてくれるのだが、家にいれば安心だ。「家」という存在が私の中でずっと、大切なものになっていく。



東京ではある種、家は寝食のための装置だった。家事手伝いサービスを駆使して、洗濯物をやってもらう間に少しでも睡眠時間を確保……なんて暮らし方をしていたから、暮らしに自ら手をかける時間も少なかったし、なんなら無駄だと思っていた。けれども、今は全部自分でやっている。もちろん効率は悪いし、家事手伝いサービスは素晴らしい。

けれども、大切な衣服のほつれを繕う時間や、木製の家具にロウを塗って使いやすくするひと手間は、荒んだ自分を大切にしてあげるセラピーのようなものなのだ。


いやでも、本音を言えば、もっと働きたい。せっせとインスタで丁寧な暮らしをアピールするよりも、しっかりどこかに勤めたり、自分の居場所を外にも広げていきたい。誰かの役に立ちたいし、東京でやっていたみたいに、時代のダイナミズムを感じて生きたい。でも残念ながら今は準備期間で、有り余るエネルギーの収め場所が家しかないのだ。ここ1年ずっとモヤモヤしながらも、なんとか自分を肯定してあげられるように暮らしている。

──


そうした中で、とても素敵なお店を見つけた。



ナラタ・ナラタというマンハッタンのイーストビレッジにある小さな店は、日本の素晴らしいものづくりを、類まれなる審美眼で紹介している。オーナーは日本人かな? …と思ったら、カナダ出身の若い夫婦。彼らは、日本の緻密なものづくりに魅せられ、毎年日本の各地に買い付けに行っては、宝物のような品を見つけて、ニューヨークの人たちに紹介してくれているのだ。



私たちも知らない日本から来た宝物たちが、大切に並べられている。……とTwitterやInstagramで大絶賛していたところ、オーナー夫婦ふたりがとっても喜んでくれて、それから少しずつ情報交換をするようになった。日本の良い職人さん、クリエイターたちを紹介出来るというのは、私のずっとやってきたことと地続きで、とても嬉しい。


そして世界的に見ても、日本の工芸品は、ずば抜けて優れている。ヨーロッパでもアメリカでも、日本の工芸品をキュレーションしたお店は本当に増えているのだが、喜ばしいことばかりでもない。職人さんが売っている10倍の価格ではないか……? というようなとんでもない値付けの店は多いし、日本の器作家さんたちは海外バイヤーによる爆買いの波により、本当に届けたい人たちになかなか器が届けられないそうだ。作家さんの市場価値が上がるなら喜ばしいことだが、少しいびつな形で市場が膨らんでいるようにも思う。


さらには劣化版のようなものも大量に出回っている様子を目撃し、「日本には、もっと適正価格で、もっと質の高いものがあるのに……!」と常々残念に思っていたのだけれども、ナラタ・ナラタは格別で、自分たちで富山、姫路、奈良、静岡……あらゆる場所を巡って買い付けをしている。そして適正価格でニューヨークで販売している。

ちなみに二人は日本語は話せず、日本人のパートナーと一緒に巡っているそう。それでも非日本語話者が日本の職人さんと仕事をするというのは並外れた熱量がないと実現出来ないだろう。



そんな彼らの近くには、ものづくりへの愛に溢れた仲間がいる。ナラタ・ナラタ経由で知ったのが、ニューヨーク州の北にある、ハドソンバレーに暮らす一組のカップル。インテリアデザイナーのエイミーと、写真家でありアーティストのマシューは、彼らの美意識を隅々まで表現したスタジオ、Say Collieを構えている。


「会いに行きたいです!」とInstagramでDMし、無事許可を得て、ニューヨークから2時間半の電車の旅。ミニマリズムで有名な巨大美術館、Dia:Beaconよりもさらに北にある、小さな小さなラインクリフという駅の近くに彼らのスタジオはあった。




そこで過ごした2時間弱は、本当に幸せな時間だった。私たちの英語は拙いのだけれども、それでも深い部分で共感できるものがあり、彼らも私たちの活動に興味深く質問を繰り返してくれた。私がせっせと家に手をかけていることも、Instagramを通して伝わっていたからか、共鳴する話も次々出てくる。

そしていつも、夫は色んなところで自己紹介して「音楽家です」「お、作品見せてよ!」という会話になるも、忙しい都会の中で彼の繊細すぎる音をスマホで再生したとてちっとも伝わらなかった。でもここではBluetooth経由でスピーカーを貸してもらって、ちゃんと音も聴いてもらえて、そこから音やスピーカーの話も膨らんだ。


そして、なんと!!


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塩谷舞(mai shiotani)

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オピニオンメディアmilieu編集長。大阪とニューヨークの二拠点生活中。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。Webディレクター・PRを経て2015年からフリーランス

コメント3件

すごい勇気もらいました!ありがとうございます!!応援しています!
とても共感しました。私ももらい泣きしそうです。塩谷さんの活動応援しています!
偽りの無い言葉たちに、touchされました。
異国の地でのキャリア再構築は、想像を超える大変さなのも伝わりました。
note購読でしか今は塩谷さんを応援できてませんが、これからもずっと応援してます。
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