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師走、登壇予定が増えています。


34歳の目標……というか標語を「こだわりを捨てる」にしたことで、私は仕事の幅が途端に広くなったかもしれない。

これまではあれもダメ、これもダメとあらゆる社会の刺激から逃げて内側にこもっていたのだけれど、最近はそこにフィットしないことはわかっていても、なんでも挑んでみようじゃないか! という妙に前向きな心に包まれている。

その結果、いろんな媒体に寄稿したり(そのうち出ます)トークショーに登壇したりする機会がかなり増えた。その度にいろんなお題を課されるので、自分ひとりでは思いつかなかった答えにたどり着くこともあり、なかなか楽しい。


けれども先日登壇したイベントで、「苦しかった時期の自分に、今ならどう声を掛ける?」と尋ねられて、答えに悩んだ。過ぎ去ってしまった事であれ、自分を苦しめた痛みはいつまでも冷凍庫に保存されており、それを話すというのはわざわざレンジでチンして解凍するような行為でもある。

そこで自分の言葉を出すのはむずかしいから、好きな本の一節を紹介させてもらった。

まずはやりたくない仕事をつねにこなさねばなりません。しかも奴隷のようにお世辞を言い、へつらわねばなりません。たぶんそうしなくてもよかったのですが、必要と思えましたし、あえてそうしないのは危険すぎました。

それに加えて、わたしの才能、ささやかではあっても、あの教授にとって貴重であったのと同様、わたしにとっても使わないのは死に等しいその才能が、ただ朽ち果てていく、わたし自身もわたしの魂もいっしょに朽ち果てていくという気がしていました。そしてこれら全部は、まるでさび病が春に咲き誇る花を侵食していき、やがては樹木を芯まで駄目にしてしまうのに等しいと感じられたのでした。

ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』より


自分がなにかに虐げられていると感じるとき。このままでは才能がつぶされてしまうと感じるとき。そういう状況にいた自分に、この文章を贈ってやりたい。たとえそれがつまらない才能であったとしても、死にゆく才能を憂慮してあげられるのは、自分しかいないのだし。

トークショーの全貌はこちらのYouTubeにもあがっているので、お時間ある方はぜひ。家入さんは昔からの知り合いだったけど、競泳金メダリストの萩野さんはもうまったく接点のない世界の方だった……にも関わらず共感できることが多々。

スポーツマンという方々は、みんな競争が好きなのかと思っていたけれど、彼は競争を好まないらしい。私の中の色眼鏡が一つなくなった。


そして来週は、なぜか日経のビジネスセミナーに登壇してしまう。


自らの健康や、地球のことを懸念して「規模の拡大」を追い求めることを辞めてからは、私の売上は年々しっかり右肩下がり。そんな人間がビジネスの話をするのは可笑しかろうと、ビジネス系のお誘いからは全て逃げていたのだけれど……久々に受けてしまった。

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