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2023年、心に残った10冊(後編)

前回の続きです。
⑥「限界から始まる」by 上野千鶴子&鈴木涼美
前回も書きましたが、フェミニズム系の本はよく読むのですが、その中でもこれは秀逸でした。フェミニストとしては説明を要しない上野さんと(東大院卒の)元AV女優の社会学者鈴木さんの往復書簡と言えば、面白くない訳はない!鈴木さんの腹の底から出るような、存在をかけたような質問に、上野さんは彼女らしい厳しさの中にも愛情のある返答をする。お互いに対するリスペクトが全編に溢れていたと思いますし、一方でお互いを傷つけてしまうとこギリギリまで掘り下げる感じもあり、スリリングな一面がありました。
上野さんの言葉から:「自分に正直であること、自分をごまかさないこと。その自分の経験や感覚を信じ、尊重できない人間が、他人の経験や感覚を信じ尊重できるわけがないのです。」

⑦「語り継ぐこの国のかたち」by 半藤一利
今年は、過去の戦争に関する本や映画を沢山観た1年でもありました。50歳の誕生日に、生まれて初めて沖縄へ行きたいと思い、行く前にもう一度太平洋戦争についてしっかり勉強し直したかった、という気持ちもありました。
半藤一利さんと言えば、『日本の一番長い日』など昭和史を振り返る作品でよく知られていますが、この作品もすごかったです。第1部が「この国に戦争が遺したもの」第2部が「この国の未来に伝えたいこと」という訳で、彼の平和に対する熱い思い、そして絶対に戦争という過ちを繰り返してはいけないという執念にも似た強い気持ちが、単なるイデオロギーとしてではなく、綿密な取材と実感として伝わってきます。こういった戦争を知る世代がいなくなってもなお、日本は平和にこだわり続けていけるのか、問われていると思います。

⑧「おまえが決めるな!」by 嶋田美子
こちらもフェミニズムに関する本。表紙には「中ピ連」のピンクの服を着てピンクの旗を持った女性の写真があり、すごい過激な内容かと思いきや、至って真面目で、冷静で、バランスの取れた本でした。アートとフェミニズム&政治という私が常日頃から強い関心を持っているテーマを扱ってるだけに、惹きつけられて一気に読み終わりました。考えてみると、この「おまえが決めるな」というのはまさにフェミニズムの中核の考え方だと思います。つまり、自己決定権。ある意味当たり前のことを、女性(または男性)だからという理由で妨げられてきた人の解放運動であり、だからこそ既存のものに疑問を投げかけていく、一方的な解釈を拒絶するアートと親和性が高い。
好きな一節: フェミニズムの定義はいろいろあると思いますが、「あらゆる人がそれぞれ等しく幸せを追求できるようにシステムを変えていく」のがフェミニズムの基本だと思います。

⑨「ひらく美術」by 北川フラム
音楽家以外で私が今年「はまった」方の第1位がこの方です。彼は瀬戸内トリエンナーレや越後妻有の大地の芸術祭など、各地で芸術祭のアートディレクターをされている超売れっ子(といっても77歳です)なのですが、弟子にして欲しい!と本気で思ってしまうほど大ファンです。彼が代官山で「芸術祭を横断的に学ぶ」という連続公開講座を開催されてるのを発見し、突撃でお邪魔して、いろいろお話を聞かせてもらい、今は協働の可能性も探っているところです。
彼は元々は仏教美術専攻で、今は現代アート専門ですが、ものすごく文才もあるので(読書量も半端ない)本がとにかく面白いです。この本は2015年に書かれた私が最初に読んだフラムさんの本ですが、他のもおすすめです。彼のことはこんな短い文章では書ききれない。。。こんな哲学のあるアーティストと仕事がしたい!というのが私の最近の妄想でもあります。
好きな一節の一つ:「アートは、地球上の72億人がそれぞれ違う個人であるという現実そのものであり、アーティストは、すぎ去った時間の積層を掘り起こし、未来への不安、予感を生理的に表すものだ」

⑩「雌犬」by ピラール・キンタナ・村岡直子訳
最後に取り上げたのは唯一の外国人著者で唯一の小説。。。コロンビア大使館主催の著者を交えてのトークショーに招待して頂いたので、せっかく行くなら本を読んでいこうと思い、読んだのですが、深い!コロンビアの作家と言えば「百年の孤独」で有名なガルシア=マルケスですが、彼の作品をちょっと彷彿させるような、現実と幻想が入り混じったような不思議な感じで話が進んでいきます。子供を産むことのできない女性が、雌犬をもらったところから、物語は思わぬ展開を。。。女性の社会的立場やそれと自分の本当の欲望・希望とのジレンマなど、フェミニスト的な面も多々出てきます。
著者のピラールさんは、とっても素敵な女性でした!ものすごく気さくで、いい意味で力が抜けていて、ユーモアもあって。この本に出てくるような、コロンビアの貧しいジャングルのようなところで数年間暮らしたこともあるそうですが、そういった経験をしたからこその人間力のようなものを感じました。初めて来た日本で、読者との交流を心から楽しんでいるようでした。貴重な機会を与えて下さった、コロンビア大使館に感謝。

いかがでしたでしょうかー。10冊選ぶのは大変でしたが、楽しくもありました。仕事の合間に本を読む時間を確保するのは簡単ではありませんが、やっぱり読書は楽しい〜。来年はどんな本に出会えるのか、とても楽しみです。

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