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最近観た映画 「関心領域」

もうこの映画を観てから数日経つけれど、まだ消化しきれていない感じがする。こんなに長いこと同じ映画のことを考え続けることはあまりない。それぐらい、この映画は衝撃だった。

私は大学時代にアウシュビッツを訪れている。環境問題に関するサークルに入っていて、その活動の一端として、ドイツとポーランドを訪問した時に、せっかくだから、というのでアウシュビッツに行くことにした(そういう大学生もあまりいないのかもしれないが)。真冬に行ったので、ただでさえ鳥肌が立ちそうな凄惨な状況が想像できるあの博物館へ行って(この博物館のシーンは映画でも出てくる)さらに寒々しい思いをしたのが思い出される。

でもそんな経験よりも、この映画の方が実は怖かったかもしれない。アウシュビッツ強制収容所の所長だったルドルフ・ヘスは、驚くほどある意味凡庸で、悪意もなく命令をこなしている。しかし、映画は決して彼を被害者として書いている訳ではない。ただ、彼も、彼の奥さんや子供たちも、彼らなりに一生懸命「日常」を過ごしている、そのことのアイロニーというか、そういう意味では彼らと私たちは何も変わらない、ということを、さらに言えば、私たちだって、ああなりうるのだ、という恐ろしい事実を実に控えめに、かつこれ以上ないぐらいはっきりと示しているのだと思う。

まさに、映画を観終わって私が強烈に感じたのが、一応国際協力の仕事をしていて、世界平和に微力ながら貢献しているように見えるかもしれない私だって、ガザやウクライナやミャンマーやスーダンの状況を知っていながら、日々の暮らしを普通に送っているという点において、あのヘスの家族と何も変わらないということだった。もちろん、加害者側に立った活動をしている訳ではない、でも、私は免罪符を持ってはいないのだ、と強く感じた。同時に、「悪」を糾弾するだけでは、平和はおとづれない、とも痛感した。そんなことは、イスラエル・パレスチナの例を見れば明らかだけれど。それなのに、なんと私たちは「正義と悪」の枠組みに目をくらまされて、根本的に必要な対話と理解への努力を怠っていることか。

いろいろなシーンがあまりにリアルで、まだこの映画を消化するのには時間がかかりそう。そんな、とても深く、突き刺さってくる映画だった。映画館で観ることを強くお勧めします!

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