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2023年7〜11月に行った展覧会について

タイトル通り、7月以降に見に行った展覧会の覚書です。

本来なら見に行った直後にそれぞれ個別記事として出力したかったのですが、書きたいことが多すぎてまとまらなかったり、時間が取れなかったりと下書きが溜まっていく一方だったので、ここらで一挙に消化しちゃいます。

個別だとダラダラしちゃうから今後もこの方式にしようかなあ。


7月15日

「甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性」東京ステーションギャラリー

年初に東京書籍「あやしい美人画」を見て甲斐庄楠音ただおとに興味を持ち、楽しみにしていた展覧会。代表作揃い踏みで満足度高かった!

まず序章で、代表作の「横櫛」や「幻覚(踊る女)」、「毛抜」など、甲斐庄楠音のパブリックイメージ通りの「あやしい」作品をドドンと見せ、次にキービジュアルにも採用された「」や「女人像」のような穏やかな脱メランコリー作品で違った一面を提示し、そこから膨大なスケッチで制作時の試行錯誤を、スクラップブックで構想時の思考を……と作品から徐々に作者の内面へ踏み込んでいく展示構成に、「『あやしい』だけじゃない甲斐荘楠音の魅力や人間性をもっと知ってもらいたい!」という意図を感じてグッときちゃいましたね。


映画の衣装も、デザインの引き出しが多くて感心。布や刺繍の質感は現物じゃないとわからないし、実物見られてよかったな。

お気に入りは、火の粉の光すらミラーボールのようで、見てるとこちらも踊りだしたくなっちゃうゴキゲンな狂気に満ちた「幻覚(踊る女)」と、ダ・ヴィンチの聖アンナを下敷きにしているとはっきりわかるのに、ギリギリで涙を堪えているような情念が伝わってくる「島原の女(京の女)」かな。「畜生塚」も圧倒されました。

「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」アーティゾン美術館

「抽象絵画ってなーんもわからんけど、これ見に行ったらわかるかな?」とかるーい気持ちで一切勉強せずに見に行ったんだけど、キャプションの文章が長いし難しくて結局あんまりよくわからんかったという……後半は疲れて流し見状態になっちゃって、今思うともったいないことをした。
反省を活かして西美の「キュビスム展」はちゃんと予習して臨むぜ。

タイトルにもなってる、セザンヌからキュビスムへという流れは、だんだんと形が写実から離れて分解・再構成されていって……という過程がわかりやすくて面白かったな。そしてそれをふむふむと眺めていたら、章が切り替わっていきなりクプカの「灰色と金色の展開」と「赤い背景のエチュード」がドーンと目に入ってきたときの鮮烈さといったら!
「目に見えているものの再構成」から「目に見えない世界を描く」へ、明確にステージが変わった、あの感覚はかなり印象深かったです。

いいなと思った作品は先述のクプカと、メッツァンジェ「円卓の上の静物」。落ち着いた色味とと整然とした画面構成が見てて心地よかった。オノサト・トシノブ「朱の丸も織物のような緻密な描き込みと計算され尽くした色彩配置がすごく好き。

あと、展覧会グッズのアクキーがシンプルでかわいくてお気に入りです。

9月14日~15日(箱根旅行)

「開館10周年展 第2部 歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―」岡田美術館

喜多川歌麿の晩年の大作・雪月花三部作のうち深川の雪が公開されると聞き、今年の夏季休暇の使い道が決まったぜ!! とウキウキで箱根旅行の計画を立てて行ってきました。超楽しかった!

五階建ての建物のうち企画展は3Fフロアのみで、常設の陶器やガラス器、遺跡から出土した土人形などを見ながら進んでいくことになるのですが、このコレクションが美品名品揃いなんですわ。

青磁や五彩も素晴らしかったですが、江戸時代の小皿に心惹かれてしまいました。普段遣いの品なのかな。青一色の絵付けなんだけど、遊び心のあるデザインの小皿がたくさん並んでいて、見ていて飽きなかったなあ。
最上階で出迎えてくれる薬師如来像も素晴らしく優美、かつ人々の営みを上から静かに見下ろしてる感じがたまらなくて、思わず拝んでしまった。

お目当ての企画展、美人画対決もよかったな~! 点数こそ少ないけれど、柔らかで繊細な線、何気ない仕草も止め絵として美しくキマってる歌麿と、Gペンのようなメリハリのある筆致で襦袢の質感や身体の動きを表現してる北斎と、比べてみると結構違いがあるものですね。北斎の「傾城図」、そのままフラメンコでも踊りだしそうな躍動感あるものな。

あと「深川の雪」超良かったです
「品川の月」「吉原の花」も原寸大の複製画が並べられてて圧巻。様々な階層・役職の女性たちが衣装や仕草で見事に描き分けられていて見ててまじで飽きないです。「深川の雪」一作だけの図録出てて思わず買っちゃったよ。
品川では海をバックに開放的で平面的な一点透視構図、吉原は縦二分割、深川は縦も奥行きも複雑に入り組んだ校正……と、色街それぞれの特性にあわせて画面構成変えてるのもおもしれ~!

当時男性がやっていた役職も女性に置き換えられて、画面から男性がほぼ排除されてるの、現代の男性向けエンタメ作品にもこういうのあるよな~と納得感があった。まあね、せっかく歌麿に依頼するなら美人たくさん描いてほしいよね。

ピエール・エルメ・パリとのコラボチョコレートと珈琲のセット、美味しかった~!
鑑賞で疲れた身体に濃厚なガナッシュの香りとカフェインが沁みるぜ

「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画」ポーラ美術館

箱根に行くならポーラ美術館も行かねばなるまい! 初ポーラでした。
明治期~昭和までの日本画作品を、岩絵具の改良なんかも紹介しつつ辿っていく階と、現代のアーティスト作品を紹介する階で分かれている構成。個々の作品は素敵なんだけど、全体の趣旨は正直ピンとこなかった。
現代パートは日本画あんま関係ない作品あるし。

ガラスケースの金属の継ぎ目が作品のど真ん中にかかっちゃってたり、企画展開始して2ヶ月経過した時点でも図録がまだ発売されてなかったりと、どうも印象がよくない。

展示の中では、杉山やすしの作品群が印象深かった
デフォルメの効いたイラスト的な画風だけど、絵肌は岩絵具の結晶がゴツゴツと分厚く盛られて、油絵具のような立体感・物質感と、光が乱反射したような風合いが感じられて素敵。点描じゃないのにスーラみたいなふんわり感と静謐さがあるのよなあ。
「洸」と「水」は水面のキラキラ感とマチエールが合っててとくに好き。

現代の作家の作品では、「Clumsy heart」ほか、野口哲哉さんの作品がかなり刺さって個展の図録買っちゃいました。いかめしい武士たち×現代的なモチーフのコラボが産みだす、なんとも言えないおかしみと人間くささがたまらなくキュート!

ランチは奮発して、「レストラン アレイ」名物のビーフシチュー!
シチューというより肉料理って感じの食べごたえで大満足でした(ピント位置間違えたな……)


10月1日

「パリを愛した孤独な画家の物語 生誕140年 モーリス・ユトリロ展」横浜髙島屋ギャラリー

ユトリロって、名前は聞いたことあるけど実はどんな人かよく知らなくて、でも展覧会の評判がなかなかいいし、規模も立地もアーツ・アンド・クラフツ展のついでにちょうどよさそうだなと軽い気持ちで足を向けたんですが、大変よかった。何ならこっちのほうが刺さってしまった。

アル中治療の一環として絵を描き始めたという「白の時代」の作品がメインの展覧会だったのですが、とにかく不気味なほど静かで穏やかで、ちょっと歪んでて、薄曇りみたいな優しい停滞感と絶望に覆われた景色がずっとずっと続くので、見ているうちにだんだん、この人は街が全部こんなふうに見えてたのかな……とものすごく悲しくなってしまいました

アンニュイな詩情に満ちた風景画って感じで、一枚一枚個別に見ると落ち着く絵なんだけど、大量に見ているとだんだん重くのしかかってくるんですよ。

そんなどんよりした気持ちで順路を進んでいったら、「色彩の時代」のゾーンで、色鮮やか暖かな日差しの感じられるオーモン近郊の学校(ノール県)が目に入って、なんかめちゃくちゃホッとしてしまったんですよね。それがとても印象的でした。

後から山田五郎チャンネルでユトリロの生涯を解説した動画を見たら、「色彩の時代」の頃も、母親とその再婚相手に搾取されてて、別に幸せではなかったみたいですが……でも精神的にはちょっと安定してたんじゃないかな? そうだといいな……。

「アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで」そごう美術館

ユトリロの印象が強すぎてちょっとこちらの記憶が薄れてるんですが、モリスの壁紙の実物が見られて嬉しかった! 大きいサイズだと木版の柔らかく温かみのある描線がよく見えるんだ。部分の色見本や文字なんて図録でもカットされちゃいますしね。

娘のメイ・モリスの図案も並んでいたのですが、モリスと比べるとあっさり風味で、親子でもやっぱ作風違うものなんだなあと面白かった。
でも壁紙にはこのくらいのほうが落ち着くよな……こうして見るとモリスちょっとやりすぎなのでは……? 前景にも背景にもミチミチにモチーフ盛り込んでるし……。

壁紙以外にも家具や装飾具、食器、写本等々、アーツ・アンド・クラフツの潮流をうけて制作されたセンスの良い品々がたくさん見られて眼福でした。


11月4日

「ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室」DIC川村記念美術館

これはねえ、超楽しかったです!
当初はなんか難しそうだしとスルーしていたのですが、3月に「南仏展」を見に行ったときに常設展示で見ていいな! 好きだな!と思った「正方形讃歌のための習作:グローイング」の作者がこのジョセフ・アルバースだと気づいて、会期終了直前に滑り込みで行ってきました。

企画展示室の半分をワークショップに割いていて、アルバースがバウハウスで行った「紙による素材演習」や、イェール大学で行った「色彩演習」がここで体験できるんですね。難しいけれど成果がわかりやすくて楽しい!
子供も大人もみんな楽しそうに取り組んでいて、会場の熱気もすごかった。

実際に自分でやってから、展示内の学生たちの作品を見るとハイレベルさに驚くし、「正方形讃歌」等の作品も「色が隣り合ったときの相互作用」「色の選びかたで透明なレイヤーが重なっているように見える視覚効果」を意識して鑑賞できてよかったな。
展示室で上映されていたアルバース本人による作品解説&制作風景の動画も超面白かった。チューブから出した絵の具を混色もマスキングもせずペインティングナイフでじゃっじゃか塗ってくの。

そうそう、川村美術館といえば展覧会コラボ和菓子。今回も素敵でした!
錦玉のプリプリと求肥のもちもち、羊羹のむっちりが合わさる食感の三重奏よ。(わざわざ求肥を剥がして撮影する無作法はどうか許してほしい……)

一夜漬け予習のために読んだ東京美術の「もっと知りたいバウハウス」、基礎知識がキチッとまとまった良書でした。紙面もおしゃれ。
おかげでバウハウスでの授業パートがスッと頭に入ってきたし、常設展のモホイ=ナジ作品にも注目できたし、展覧会ロゴがアルバースのデザインした「2種類(扇形と正方形)の活字でアルファベット26文字がが綴れるフォント」だと知れたしで、より深く楽しめた気がします。