見出し画像

日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション(2024/8/23)

手元に残しておいた夏季休暇カードを1枚切って、東京都現代美術館の「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展に行ってきました。

すごいすごいと前評判に聞いていたけど本当にすごいボリュームで、作品一つ一つのパワーも強烈だから、全部じっくり見るのは早々に諦めて、いいなと思った作品ばかり観て、撮っていた。
なのであとから写真を見直すとセレクトがずいぶん偏っている。目玉作品のほかは、だいたい色調が落ち着いていたり、静かで端正だったり、洒脱で肩の力が抜けていたり。

でもまあ、個人の感性でセレクトしたら普通どうしたって偏るから仕方ない。高橋龍太郎氏がすごいんだよ。財力も眼力もすごいけれど、あれだけ幅広い表現、モチーフ、作風の作品を受け止められる感性の広さがすごい。

公式インタビュー動画で「ぼくは多神論者で、いろんな領域の作品が全部好きになるんですね」「それはちょうど精神科医として人間が好きだってことと重なっているんですけれど」とおっしゃっていたのが印象的だった。
作品だけじゃなくてその奥に人間を見ているんだなー。

作品を観る

(写真はすべてX-T50+XF27mm)

村上隆《Mr.DOB》

キャプションはあるのに作品が見当たらないな~とあたりを見回していたら頭上にポンと浮かんでおりました。

様々な表現を凝らした作品がひしめく会場内にあっても異物感・異質感がすごい。「知ってる現代美術作家っている?」と聞いたらまっさきに名前が挙がるような人なのに、現代美術の世界からこんなに浮いてるのオモロ! って思った。ポップで無機質で情報量がなくってクールだ。

西尾康之《Crash セイラ・マス》

本展の目玉のひとつ。ガンダムのセイラさんが元ネタなんですね。
皮膚や筋肉の流れを再現したような肌の表現は生々しく、表情やポーズはおっかないほど力強く、全身を覆い尽くす装飾的な文様は緻密で仏像や神像のようで、とにかくエネルギッシュ。圧倒されました。

山口晃 《當世おばか合戦》(部分)
山口晃 《當世おばか合戦》(部分)

パッと見ると古風な合戦図だけど、よく見ると時代無視な小ネタまみれの「おばか合戦」。おばかと言いつつめちゃめちゃ怜悧で頭のよさそうな線で緻密に描かれていて、すごく上品なんだよな。見ていてすごく楽しかった。
アーティゾンの展覧会行けばよかったなあ……

池田 学《興亡史》(部分)
池田 学《興亡史》(部分)

巨木の絡まった異形の天守閣のそちこちで戦闘や日々の営みが繰り広げられる、情報量の凄まじい作品。かつて繰り広げられたであろう場面がいびつに集まって、この城の歴史を作り上げている。年表や歴史資料では削ぎ落とされちゃう城の記憶がもりもりに刻まれて、いびつに凝り固まっている。すごい迫力でした。

全体像の異形っぷりも凄まじいけど細部のペンタッチも凄まじい。極細のペンでひたすら線が描きこまれていて、こんだけ近くで見ても全然アラがなくて精緻なの。図録じゃ潰れちゃうだろうから原画じっくり見られてよかった。

小谷元彦《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》

東日本大震災後(2022)の石巻市で開催されたアートイベント「Reborn-Art Festival」で公開された作品だそう。サモトラケのニケを思わせる天使の像が波を乗り越え、前に進もうとする力強さと希望を感じてぐっときた。
翼はこれから育っていくのかな。

小谷元彦の作品は以前「百年後芸術祭」で見ていたので、ここでも大作が見られて嬉しかった。貝塚の貝や土器をモチーフに取り入れた、アニミズムとサイバーの入り混じった仏像めちゃくちゃ美しくて格好良かったんですよ。

小谷元彦《V(仮設のモニュメント5)》
三瀬夏之介《Exchangeabilit》
タイトルと作者名は控え損ねたので不明。すみません…。

こちらも東日本大震災に関連する作品。
街灯のライト部分のみが6個、足元の展示台にゴロッと折り重なるように置かれています。電線が繋がっており、時々どれか一つが一瞬灯る。

まず間近に見る街灯の量感に気圧された。この大きさのライトが簡単に折れて倒れる地震・津波の膂力に思いを馳せてしまうし、頭部だけが足元の展示台に無造作に転がされている様は生首のよう。
それが薄暗い展示室の中、それが時々息を吹き返したように灯って天井を一瞬照らす様がとてもうら淋しくて、心に残った。

KOMAKUS《GHOST CUBE》

旧式のスピーカーを組み合わせたキューブ状の立体作品。
ひとつひとつのスピーカーからは詩を朗読する声が発され、それらがざわざわと折り重なって小さな展示室に反響している。

発話者はいないのに、ただ声だけが残っていつまでも反響し消えずに残っている。混ざり合って内容はさっぱりわからないのに、思念だけ残ってる感じがゾワゾワして切なくてよかった。(キャプションによると現代詩を朗読していたらしい)
タイトルも好きだな。声の録音なんて現代ではありふれたことなのに、不思議でちょっと不気味なことのように思える。

宮永愛子《景色のはじまり》(部分)

6万枚の金木犀の剪定葉から葉脈だけを抽出し、不織布のようにつなぎ合わせて小部屋を覆わんばかりの巨大な布に仕立てたインスタレーション。
広角レンズがなくて全体は写せなかったので、一番きれいだと思った部分を撮りました。葉脈の細かさ、作品の繊細な質感が影からも見て取れると思う。

これを作り上げるのにどれだけの時間と手間と根気を要するのか想像してくらくらしてしまうんだけど、キャプションによると制作中に東日本大震災が発生し、「このまま作品を作り続けていいのか」という葛藤もあったのだそう。

森 靖《Jamboree - EP》(部分)
SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD《rode work tokyo_ spiral junction》

工事現場のチューブライトやLEDサインを組み合わせたキッチュなシャンデリア。ヘルメットに作業服姿の三人組がスケートボードで街を滑走する映像もセットになっていて、これがかなり面白かった。
屋上っぽいところで淡々とアールを往復するシーンが、工事現場の交通整備の旗振り看板みたいな規則的な動きを思わせてなんかやたら印象に残ってる。

里見勝蔵 《石顔》

路傍の石に顔を描いたエネルギッシュで素朴な作品。
この作品と上の「rode work tokyo_ spiral junction」が同じ「路上」のキーワードで括られてるのしみじみ面白いな。日本の道が、景観が、ひいては社会が数十年の時を経てどう変わったかが伺い知れるよう。

名和晃平《PixCell-Lion》

あとは、草間彌生のドローイング作品(撮禁)を見て作品に包みこまれるような酩酊感を覚えたり、篠原有司男の《89歳のパンチ》を見て「あ! 『美術のトラちゃん』で見たやつ!」と嬉しくなったり。本当に充実した展覧会だった。
現代美術あんまり知らないけど興味があるって人は見たほうがいいよ、絶対何かしら好きな作品に出会えるよ。

大満足の展覧会だったけど、作品リストがwebにも紙にもないのは困ったな。
図録もまだ出ていないし、いいなと思った作品の作者やタイトルが調べられなくて不便だ~。いいなと思った作品はきちんとタイトル控えておくべきだった……反省。

建物とか

東京都現代美術館には初めて来たんだけど、建物自体も美しくて撮ってて楽しかった。広角レンズ欲しくなるなあ……。

前庭の作品なんて名前なんだろう
床に描かれる光の線すら美しい
展覧会を終えてエスカーレーター上でふと上を見るとこの天窓 いい
中庭も素敵だ
パフェ美味しすぎた
外へ出ると看板にノイズのような葉陰がさしていた いい感じ