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感涙!ジェーン・バーキン×アニエス・ヴァルダの80年代コラボ作2本がデジタルレストア版で再上映!

 ジェーン・バーキンが2023年7月16日に76歳で逝去してから、早1年が過ぎた。ちょうど、2番目の夫セルジュ・ゲンズブールとの間にできた次女で俳優のシャルロット・ゲンズブールが母ジェーンに迫った初監督作のドキュメンタリー映画『ジェーンとシャルロット』(2021)が同年8月に日本で公開されるというタイミングでの悲報に残念な想いを抱いたファンの方も少なくないだろう。シャルロットが彼女の娘と同行したジェーンの日本ツアーや、彼女からのインタビュー、そして当時ジェーンが一人で住んでいた郊外の家での取材など、ジェーンの人生をまさに総括するだけでなく、子育て中に抱いていたシャルロットへの想いを明かす母娘ドキュメンタリーとしても秀逸だった。

 同作を配給したリアリーライクフィルムズが、ジェーン・バーキンの1周忌に際し、ジェーンが80年後半にわたしも大ファンのアニエス・ヴァルダと作り上げた伝説の2本『カンフーマスター!』『アニエスV.によるジェーンB.』の特別上映を企画してくれたのだ。この2本は日本でも公開されているが、その後あまり再上映の話も聞かず、ソフトを入手するのも困難で、もうスクリーンで観ることは叶わないと思っていたので、このニュースを聞いた時は心の中で小躍りした(笑)


 ほぼ同時期にキャリアの絶頂、もしくは転機を迎えていたふたりの女性クリエイター。特にジェーンは10代からこの世界で活躍し、男性監督らに、どうしても男性の観客が観たいミューズ像を体現させられていた部分があった。その期待に応えることは喜びだと語る一方、もっと自然体で撮られたとも。そんなジェーンの矛盾も含めて撮りたいと思ったヴァルダにより、大人の遊び心に満ち、アートかつ皮肉も効いたセルフポートレート フィルムが誕生したのだ。スキャンダラスなイメージから脱し、充実した子育てを送っているジェーンのプライベートな姿も垣間見える。素の自分と演じている自分。演じてきた役と本当に演じたい役。グラマラスな体に憧れる一方、両性具有的な自身の体を愛していること。人間は矛盾に満ちていること、それが人間の魅力なのだということを改めて気づかせてくれるのだ。晩年のおばあちゃんヴァルダしか知らなかったわたしは、今の自分と同世代で、キレッキレな感じすらする中年期のヴァルダに出会えたのも嬉しかった。


『アニエスV.によるジェーンB.』よりプライベートフィルムのようにも見えるのが、ジェーン・バーキンの原案をアニエス・ヴァルダが映画化した『カンフーマスター!』。中年の主婦と15歳の娘の同級生男子との恋という、一見重ためのテーマだが、ジェーンの相手役を演じたヴァルダの息子、マチュー・ドゥミの愛らしさからか、そこまで深刻だとか、禁断的な印象を与えない。
ジェーンの次女、シャルロット・ゲンズブールが映画でも娘役を演じ、ふたりがキスするのを目撃してしまうという衝撃の展開もあるが、そこから主人公が少年と下の娘(三女、ルー・ドワイヨンも出演)と3人で島へ旅に出るところは、恋人同士というよりは、息子と娘の三人旅のよう。夫と別れ、一人で子育てをする中年女性の心の隙間に、ささやかなそよ風が吹いたような、人生のちょっとざわめく一ページを、ジェーンのプライベート空間(自宅や実家など)を使いながら、ダイアリーのように描いている。彼女が望んだとおり、自然体の役を演じることができた貴重な作品。エイズの感染拡大に揺れるヨーロッパの日常も垣間見える。

90年代は、エイズで亡くなった夫の自伝的映画『ジャック・ドゥミの少年期』や、映画誕生100年記念映画『百一夜』とより大衆向けの作品になっているので、85年渾身の代表作『冬の旅』からそこに至るまでの私的で女性の人生を徹底的に映し出した2本は、フィルモグラフィーの中でも少し特別なものになっているのではないか。2028年のヴァルダ生誕100年のときには、『百一夜』(本人は失敗作と語っていたが)もぜひ観てみたい。



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