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自宅で大林宣彦映画祭、『HOUSE』『ねらわれた学園』『時をかける少女』『さびしんぼう』〜緊急事態宣言Day5

昨日の大林監督の訃報から、思えば近年の作品は観ていたが、過去作品は長らく観ていなかったことに気づき、今日は自宅で大林宣彦映画祭を刊行。U-NEXTで、長編劇場デビュー作の『HOUSE』から『ねらわれた学園』『時をかける少女』『さびしんぼう』の4作品を立て続けに鑑賞した。

『HOUSE』はファンタジーホラーだが、主人公オシャレ(池上季実子)のオバチャマ(南田洋子)は、結婚を約束した青年(三浦友和)が戦死したにも関わらず、帰ってくると信じて古い館で待ち続けている。夏休みに、オバチャマの家に遊びに出かけたオシャレをはじめとする同級生女子7人組が、次々と恐ろしいことに巻き込まれる様子が、衝撃的かつポップなビジュアルで描かれるコミカルな一編。オシャレらの学校の先生を演じているのが尾崎紀世彦なのだが、一瞬先日亡くなった志村けんのように見えた。案外、似ているのだ、この二人。当時超売れっ子だったゴダイゴが音楽を担当、映画にもカメオ出演していたり、クンフー役の神保美喜が回し蹴りなど、様々なアクションを披露し、ブルース・リーによるカンフー人気が絶頂だった時代を思わせる。大人気アイドルだった大場久美子演じるファンタが、とにかく怖がり、叫ぶ演技で、まさに元祖アイドルホラー映画の趣き。でもその奥には、戦争で失った大事な人への愛をいつまでも持ち続ける女の悲哀が滲んでいた。

薬師丸ひろ子主演の『ねらわれた学園』は、のっけから松任谷由実の主題歌「守ってあげたい」が流れ、もうノックアウト。なにせ、私の生涯ベスト5に入る好きな曲。小学校5年に初めてラジオでこの曲を聴いてから、ひたすらこの曲を聴いていたものだから、あーここでと今更ながら感動する。もちろん全編の音楽を担当しているのは松任谷正隆。冒頭の新入生たちの前で部活勧誘をするシーンは、さながらミュージカルのように鮮やか。薬師丸ひろ子演じる由香は、自分が超能力を持っていることに気づき、また宇宙から彼女のことを見守っていたという宇宙人(峰岸徹)や、転校生で実はすでに洗脳されていた高見沢みちる(長谷川真砂美)と最終的には対決する役だ。とはいえ、途中までは同じ剣道部の関(高柳良一)に本音を聞いてほしいという願いを抱いていた。この作品も、転校早々生徒会長になったみちるが、風紀の乱れを正すため見回りを導入し、ナチスドイツのような制服を着た学生たちが、校内で自由に活動している同級生たちを次々と捕まえていく。独裁による監視社会が、まさに学校生活の中で行われている姿をみせ、先の戦争を彷彿とさせるのだ。近年は映画監督としての活動も目覚ましい手塚真の怪演ぶりも見もの。そして何よりも、薬師丸ひろ子の初々しく、魅力的なこと。この後人気がうなぎのぼりするのも当然だわ。

原田知世初主演の『時をかける少女』は、尾道が舞台。瓦の屋根に、石段と、撮影当時は80年代前半だがまだまだ昭和初期の風情が残る場所だ。SFの舞台にはなりにくそうな場所だが、大林監督の手にかかると、そんな尾道の情景を活かしながら、突然タイムリープと場所移動ができる能力を持ってしまったヒロイン和子の困惑と、幼馴染の吾郎(尾美としのり)、同級生の深町(高柳良一)の関係の変化が描かれる。時計、カレンダー、地震や火事などのアクシデント、幼い頃の思い出のエピソードや、歌など、細やかなエピソードから、クライマックスまでは特に合成シーンを使うことなく、比較的しっとりと物語が進行していく。クライマックスの原田知世演じる和子と、高柳良一演じる深町の別れのシーンは、何度見ても切ないなぁ。緑が一切なくなってしまった未来、人々がこの時代ほどやさしくはないという未来。確実に、当時SFの世界の未来だった姿に、今の世界は近づいている。そんな大きな歴史の流れの未来からみた今(当時)を感じさせてくれる作品だった。ちなみに映画は原田知世のアップで終わるが、やっぱりかわいい。これだけショートヘアが似合う女子はいないわ。

そして、全編に渡ってショパンの「別れの歌」が流れる『さびしんぼう』は、今日観た中で唯一男性目線の作品。大林宣彦監督の“尾道3部作”の第3作でもある。いつも望遠カメラで、放課後ピアノを弾いている少女(富田靖子)を、さびしんぼうと名付けて眺めているヒロキ(尾美としのり)。ある日、母親(藤田弓子)の写真を庭にばらまいてしまい、それ以降、ヒロキの部屋に白塗りのピエロのような格好をした謎の少女(富田靖子の二役)が現れることに。勉強のことでしょっちゅうお小言を言う母親にきつい言葉を浴びせ、母親を黙らせてしまうこともあったのだったが…。切ない男心や思春期の母親との関係、そして隠された母親の過去と、ファンタジー要素を盛り込みながら、尾美としのりの自然体な演技、富田靖子の謎めいた美少女と、訳ありだけどファニーな少女の二役を見事に演じ分けが光る青春映画。樹木希林と小林聡美が親子役という贅沢さ。因島との渡船のシーンもあり、海に映る夕陽も印象的だった。「人が人を恋うるとき、誰しもさびしんぼうになる」名言です。

ちょうど、尾美としのりの若さ溢れる演技を観ている横で、テレビでは大河ドラマ「麒麟がくる」の尾美としのり出演シーンが!30年以上の時を経て、今や名バイプレイヤーとして活躍中の尾美としのりの原点を見た思いがした。

こうやって、キャリア前半の代表作を見ると、やはりそこには戦争体験からくる、それを繰り返してはいけないという強い思いや、この世にはもういない、愛すべき人に対する永遠の思い。また、歴史の中で今を捉えることなど、それぞれの物語に込められた深い意味を、多分自分が年を取れば取るほどに感じとれるのではないかと痛感する。自宅で大林宣彦映画祭、向かう先はもちろん、劇場で見る尾道映画の最新作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』だ。


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