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ギンレイLOVE−1           「偶然と想像」 誠実にして驚くべき完成度!

濱口竜介短編集「偶然と想像」

第一話「魔法(よりもっと不確か)」
古川琴音 中島歩 玄理
第二話「扉は開けたままで」
森郁月 渋川清彦 甲斐翔真
第三話「もう一度」
占部房子 河井青葉

introduction

濱口監督オリジナル脚本による、三編のショートストーリーからなるオムニバス映画。観客の評価が高かったようなので1月渋谷Bunkamuraルシネマで見ました。超人気の映画俳優が出ているわけでも、派手なストーリーが展開するわけでもありません。それなのに私は今までの映画体験に無かったほど胸をわしづかみにされたのです。その後、今に至るまで他の映画館での鑑賞も含め計四回見ました。そして見るたびに新たな気づきがあり、印象も大きく違っていました。

まったく新しい映画体験

例えれば精緻に構成された三編の短編小説を読むような体験。
親友同士のガールズトークから始まる波乱の空気(第一話)、大学教授にハニートラップを仕掛けた主人公の大胆さに驚かされるが、その後のどんでん返しにもっと驚かされる(第二話)、20年ぶりの偶然の再会を喜ぶ二人の間に生まれる熱量の違いと驚愕、そして暖かい帰結(第三話)。
三話ともに、ストーリーの途中であっと驚く意外な展開があり観客を困惑させる。その帰結は三話とも違ってはいるが共通して「他者からの承認、そして自己承認」が根底にあり、監督の人間を見る眼の鋭さと誠実さを感じる。

魅力的な女性たち。魅力的な声。

三話ともに女性が主人公だが、演じる女優さんの演技も声もそれぞれに的確な表現力を持っていて画面から目が耳が離せない。古川琴音(芽衣子)の奔放で無邪気な残酷さ、森郁月(奈緒)の凛とした佇まいで朗読する声の涼やかさ(朗読の内容はともかく)、占部房子(夏子)の突き詰めた感情の表現とその話相手の河井青葉(あや)の自然な日常感。磨き抜かれた脚本による台詞のやりとりが美しい声に乗ると、映画は見るものだけど目を閉じて、ただ耳を傾てその臨場感に浸りたくなる。

長回しは、単なる長回しにあらず

第一話「魔法(よりもっと不確か)」の冒頭、タクシーの中で始まる長いワンカットの、ガールズトーク場面からして、この映画の観客もその車に同乗している三人目の客になったような臨場感で目が離せなくなる。まだ映画冒頭5分ほどなのに、これはただならぬ映画に違いないという確信。それは第二話「扉は開けたままで」の教授の部屋を訪れた奈緒と教授の長いカットに至と「演劇的」とも「文学的」とも言える独特の空気感に圧倒される。ここまで過不足無く組み上げられた会話劇見たことない。第三話「もう一度」におけるリビングルームでの二人の会話にも長回しが使われるが、再会を喜んだ穏やかな空気が、微妙な緊張感に変わっていくスリリングな表現の巧みさ。

濱口監督に感謝の一遍

一度見て「ああ面白かった〜」の楽しみ方も可能だけど、私が二度目見た時は、会話の最中の話者、聞き手の心の動きが、「あっ!こういうことだったのか」と手に取るように分かりました。言外に多くを表現していながら無駄の無い台詞とそれを丁寧に表現してくれる役者さんと演出。私にとって心の宝物がひとつ増えたようで、濱口監督に感謝感謝の一遍でした。


名画座 ギンレイホール
2022年8月13日〜26日
https://www.ginreihall.com

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