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ギンレイLOVE-5 日本の法律によって断ち切られる家族!胸が痛い!「マイスモールランド」


「ここに居たいと願うことは罪ですか?」 胸を突くキャッチコピー

「マイスモールランド」

監督・脚本 川和田恵真

CAST

チョーラク・サーリャ=嵐莉菜
崎山聡太=奥平大兼
父 チョーラク・マズルム=アラシ・カーフィザデー
妹 チョーラク・アーリン=リリ・カーフィザデー
弟 チョーラク・ロビン=リオン・カーフィザデー
聡太の叔父/バイト先の店長=藤井隆
聡太の母=池脇千鶴
弁護士 山中誠=平泉成
クルド人の友人=サヘル・ローズ

introduction

この映画のポスターを初めてみた時、ヨーロッパの映画かな、と思った。モデルのような欧米人の美少女の横顔。(ベッキーに似てると思ったのは私だけ?)でも胸元を見ると日本の女子高生の制服のようだし。ポスターデザインが奇をてらわずシンプルで、映画のポスターっぽくないところも興味を引く。彼女の遠くを見つめるような横顔からは深い達観と何かに立ち向かう意志も感じられる。その後予告編を見て、日本における難民問題を、あるクルド人家族の視点で描く社会派ヒューマンドラマだと知り、商業映画においてもこんな題材を?と映画への期待が高まった。

Story

クルド人の少女サーリャは17歳の高校生。生まれた土地から逃れて来て、父と妹、弟と一緒に今は埼玉県で暮し、現在日本に永住できるよう難民申請をしている最中だ。高校の友人には自分はドイツ人だと偽ったり、サーリャのアイデンティティは揺れている。頑にクルド人の誇りを堅持しようとする父にも違和感を抱き、将来の結婚相手にクルド人青年を押し付けてくることにも反発をつのらせる。バイト先のコンビニで高校生の聡太と知り合い、心許せる関係となるが、申請中の難民申請が不認可となったことで状況は一変する。県外に出ることも、仕事をすることも許されなくなったのだ。

分断される家族。演じるのもホントの家族。

家族揃っての場面とか本当にリアルだな、と思ったら実の家族! 
しかも主役をはじめ、その父、妹、弟すべて演技は初めてということで撮影に入る前に入念な準備が行われたという。彼らはクルド人ではないので、日本にいるクルド人家庭を訪問してその実態を肌で感じ取ったり、演技のワークショップを時間をかけて行い、自然な気持ちで撮影に臨めるようにした。この映画は、日本の難民問題を描く映画であると同時に、演技未経験の一家が演技に挑戦した奇跡のような記録でもある。

身近で起きているけど、普通の日本人が知らないこと。

元々クルド人は国を持たない民族で、各地域に分散して住みながら独特の伝統を守ってきた。そして生まれ育った土地を政治的な理由で逃れてきたサーリャの一家の難民申請は願い空しく却下される。係官に家族全員の在留カードを取り上げられ、目の前でパチンパチンと穴開けられる音の残酷さ。それが無いと働くことも、県外に出ることもできない。「そんな殺生な〜!」私にとって初めて知ることばかりで驚きの連続。

埼玉県と東京都の間にかかる橋が二人を隔てる。負けるな青春!

真面目で成績優秀なサーリャは、進学のお金を貯めるため橋ひとつ渡ったコンビニでアルバイトをしている。その橋(新荒川大橋と思われる)はサーリャが住む埼玉県川口市と東京都北区の境目。在留カード無しの今、本来なら県境にあるその橋を渡れないが、アルバイトを続ける。そのコンビニで働く聡太と仲良くなったことで、二人だけの場面は、青春映画の輝きで見る人の心を和ませる。聡太は偏見も無い素直な少年で、観客の期待通りサーリャの心の支えとなる。二人が橋の中央にある「東京都−埼玉県」の標識をペイントする場面は、その映像自体あらゆる意味で象徴的。

何気ない善意の言葉も人を傷付けることがある。

コンビニのレジに立つサーリャに、客の老婦人がかける言葉「日本語お上手ね〜。外人さんとは思えないわ。いつかお国に帰るんでしょう?」。善意でかけられる言葉にも心傷つくが、黙って受け流すサーリャ。日本にいる外国人が感じる微妙なもどかしさをこんなに端的に表現した場面が胸に刺さる。

日本の難民申請の難しさ!基本的に受け入れたくない?

されど生活費は必要!お父さんは変わらず解体業で働くが、摘発され収容施設に拘束される。このままだと強制送還されてしまう。またしても「そんな殺生な〜!」弁護士が付き添い子ども達と、透明アクリル越しに会う面会場面の辛さに心が痛む。日本の難民申請は認定率0.7%と諸外国に比べてかなり低い(2021年の統計)。認定基準が厳しくて「政府から個人的に狙われていること」「それを証明できること」など、命からがら逃げ出して来た人たちにとっての無理難題を押し付けてくる。

優しい日本人と厳しい日本の法律。

池脇千鶴演じる聡太の母の温かい対応を見ると、息子聡太さもありなんと思わせる。平泉成の弁護士も家族に寄り添う様子に救いを感じるが、同時に弁護士として可能なことの限界も表現されている。クルド人の友人役で出ていたサヘルさんは、自身も生まれた国を逃れて彼の地や日本でも壮絶な体験をした人で、この映画への思いも強いはず。パパ活の客役演じる池田良にも注目。カラオケルームの中でサーリャに迫る普通のスケベおじさんの役。この方の「恋人たち」(2015橋口亮輔監督)で見せたゲイのエリート弁護士の嫌な感じが素晴らしかった。今後も個性派俳優として大活躍の予感。

父の秘められた決断に涙。不寛容の国、日本。

収容されたままのお父さんは、告訴はしないと言い出す。なぜ?なぜ?と問う子どもたちに山中弁護士は「親が強制送還を引き受けた代償に子どもが在留許可を得た事例がある」と語る。日本に住んで真面目に働き、税金も納め、学んで将来は日本社会に貢献するような親子を、引き離すんか〜い!と私は叫びたい。
普通の日本人が気づかない所でこんな悲劇が起きている日本社会。在日外国人の中にはエリートとして定住している人もいるが、明日も同じように暮らせるのか不安を抱えてビクビクしながら生きている人たちもいる。そうゆう人々への理解も深まり、日本の法律も血の通ったものに少しでも変わればいいなと思わせてくれる一本でした。

飯田橋ギンレイホールにて
2022年10月8日〜10月21日の上映 でした。

しかし
飯田橋ギンレイホール閉館のお知らせ(涙)
詳しくはホームページで
https://www.ginreihall.com/

Blu-ray&DVD 2022年12月23日発売

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