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歌舞伎zakzak-1 『新選組』

introduction

「江戸時代のものを延々やり続けて、歌舞伎なんて時代遅れ、面白いはずない」と思い込んでる人もまだいるでしょうか。
実はいま上演されている歌舞伎の演目、かなりの割合で明治以降の作品であったりします。
河竹黙阿弥などは明治に入ってからも多くの作品を残し、舞台から江戸の気風を伝え続けました。その後も時代小説家の作品の劇化以外にも森鴎外、三島由紀夫、谷崎潤一郎、夢枕獏などが、原作者として、また脚本家として、大正昭和にかけて多彩な歌舞伎作品が作られました。
最近では三谷幸喜、野田秀喜、宮藤官九郎など当代人気脚本家の新作が上演され、アニメを原作とした「ワンピース」「風の谷のナウシカ」「NARUTO」、絵本を原作とした「あらしのよるに」なども上演され話題を集めました。古典芸能とはいえ、歌舞伎はこのように常に時代とともに新作が生み出され、ブラッシュアップされ続けているのです。


2022年8月5日〜30日 歌舞伎座

第一部「新選組」 
原作 手塚治虫  脚本 日下部太郎
配役 深草丘十郎:中村歌之助 鎌切大作:中村福之助
   近藤勇:中村勘九郎 土方歳三:中村七之助 沖田総司:中村虎之介  
   芹沢鴨:坂東彌十郎 坂本龍馬:中村扇雀 他

復讐から友情そして時代の奔流を通しての人間的な成長へ


手塚治虫の漫画が初めて歌舞伎に登場

膨大な手塚作品の中から初めて歌舞伎化、と言われると以外な気がします。
「火の鳥」「どろろ」「陽だまりの樹」など、すでに歌舞伎の舞台に上がっていてもおかしくない作品が沢山あるからです。国民的人気を誇る豊潤な手塚ワールドは汲めども尽きぬ深い井戸。今回を皮切りに、他の作品のこれからの歌舞伎化に期待します。

STORY

深草丘十郎(歌之助)は、父親の仇を討つために新選組へ。同時に入隊試験を受けた鎌切大作(福之助)と友情を温めつつ剣の修行に励む。しかし隊の命令で人を切ったため自らも敵討ちの対象となってしまう。
友情を知り、新選組の内部の腐敗や、報復が連鎖する空虚さを知り、辛い別れを経験して、丘十郎は人として成長していく。

「新選組」の世界でのオリジナルストーリー

深草丘十郎、鎌切大作ともに手塚治虫作品の架空の人物で、歴史的事実と若干からみながらもオリジナルストーリーとして展開しています。とはいえ、まったく知らないで観るより「新選組」がどういうものだったか観劇前にサラッとでも前知識入れてた方が、より楽しめるかもしれません。(それも歌舞伎の楽しみのひとつ)

三兄弟が挑戦する「新選組」

中村芝翫の息子三兄弟(橋之助、福之助、歌之助)が競演し、三男の歌之助が主役丘十郎をつとめる「納涼歌舞伎」にふさわしい若々しい演目。新作初演だけに若干荒削りなところも魅力と言えるでしょう。台詞も分かりやすいので、イヤホンガイドが無くてもストーリーは分かりますがもっと深く理解したいという方にはお勧めします。

話は急ピッチで多彩な人物像

原作の漫画では200ページを超えるストーリーを、1時間15分にまとめるにあたり話は急ピッチで進みます。近藤勇、土方歳三、沖田総司、坂本龍馬など個性的な人物(それぞれ良い役者さんがやってるんですが)たくさん出てはくるのですが、お話の流れに沿ってさらさらと通り過ぎるだけの印象。決闘の場面でも緊張感はいまひとつで胸に迫るものが薄い。1時間15分で上演するのなら、原作の全体をなぞるのではなくエピソードを削ってでも、大事な場面を深めることが可能ではないでしょうか。

手塚治虫原作を意識した(しすぎた)演出?

舞台両袖の壁面に、漫画のコマ割と漫画タッチの動線がデザインされている。手塚ペンタッチの各場面の背景画の中にジャングル大帝のレオ、火の鳥、ヒョウタンツギなどのキャラクターがどこかにいる。鉄腕アトムのテーマが宴会で歌われ、ブラックジャックを模した医者が登場したり、かなり手塚原作であることを意識した遊び心満載の演出。そんな表層をなぞった演出しなくても原作のエッセンスを活かすことに力入れて欲しいという意見と分かれるところ。

歌舞伎座
https://www.kabuki-za.co.jp

追記

『八月納涼歌舞伎』第一部が、関係者の一部にコロナ陽性者が出たため17日まで休演となりました。これから観劇予定の方、今後の情報ご確認ください。

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