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ギンレイLOVE-2 幸せな地「青い入り江」を夢見る 「ブルー・バイユー」

監督・脚本 ジャステイン・チョン
CAST
アントニオ・ルブラン=ジャステイン・チョン
キャシー・ルブラン=アリシア・ヴィキャンデル
ジェシー・ルブラン=シドニー・コウォルスケ
パーカー=リン・ダン・ファム
エース=マーク・オブライエン

introduction

アメリカの現実を背景に「家族」をテーマに真正面から描かれた映画。韓国系アメリカ人の監督ジャステイン・チョンによって、脚本から書かれ、そして結局主演までしてしまった入魂の作品。異人種が混在するアメリカの法制度に対する懐疑的アプローチでもある。

story

在米韓国人の主人公アントニオは、その生い立ちにより昔はやさぐれてたようだが、今は白人女性キャシーと結婚し、その連子である7歳の娘ジェシーからも愛され、温かい家庭を築いている。あるトラブルが起きたことから強制帰国の処置をとられ、その裁判で勝つためには弁護費用5000ドルが必要となる。アントニオのアメリカ人の親権者が、彼の市民権の手続きをしていなかったためだ。アントニオはお金をつくために、またしても悪に手を染めてしまう。イメージとして登場する韓国人の母、アメリカ人の義母、アントニオ、そして妻キャシー、その娘ジェシー。血族という絆が有る無しに関わらず、人と人の繋がりについて、映画を見てる間思い巡らされる。

アメリカの警官!これが普通? 偏見と差別、倫理観の無さ!

別れた夫エースは警官で、同僚警官と巡回中に、たまたまスーパーで買い物中のアントニオ一家に会う。(そんな近くに住んでたんだ。なにごとも起きませんように、しかし)エースは娘に会わせてくれない不満をキャシーにぶちまける。同行していた同僚デニーが(これが粗暴な警官なんだ)強行な態度でアントニオに向かい、アントニオが一方的に起こした暴力事件とされてしまう。
これを見ていてアメリカの警察官の資質について疑問?ばかりが湧いてくるのは私だけではないと思う。日本の警官と違って一般市民に対して暴言を吐いたり、差別的態度、安易に身柄を拘束したり、映画の中でディフォルメされているだけのことなら良いけど(じゃないだろうな)。

娘ジェシー、愛くるしいだけでなく頭脳明晰。

娘ジェシーは言う「妹が生まれたら、私は愛されなくなる」。義父のことが大好きながら、彼に実子ができた後のことを予想するその明晰さ。彼女は子どもながらに、いや子どもだからこその優れた直感で愛する人、信頼できる人を見極める。しかし時にその思いは揺れて大人を戸惑わせる。特にラストシーンはジェシー役のシドニー・コウォルスケの演技は観客の涙腺を崩壊させる。

穏やかな日々を切望する歌。「ブルー・バイユー」うますぎ!

パーカーの家でのガーデンパーティは、この映画の中盤でほっとする場面。そこでみんなに乞われてキャシーがバンドをバックに歌う「ブルー・バイユー(青い入江)」。歌詞の内容があまりにも、いまの彼女の心情にぴったり、歌詞の言葉ひとつひとつがそのまま彼女の生の言葉になっている。キャシーのバックボーンは知らないけど(過去歌手だった?)素人にしてその歌唱力!いや聴かせます。

謎の登場人物、ベトナム人のパーカーは女神?

直接このストーリーの本筋とは関係なく折々で登場するアジア人女性パーカー。最初から最後まで一貫してアントニオを見る目の優しさが印象的。彼女自身、現在経済的には満たされているが、ボートピープルでアメリカに来た壮絶な過去があり、しかも現在余命幾ばくも無い身体。彼女の家で行われたガーデンパーティで、彼女の父親が言う「韓国もベトナムも戦争で傷ついた」の言葉の重さにドキリとさせられる。日本と違って彼らの国では、同胞同士が戦い血を流した。その消えない痛み、その重さを想像する。これを言うお父さんが静かなるアジアの父という感じでその存在感がまた素晴らしい!
アントニオの痛みと彼女の痛みは共鳴するが、それは恋愛という形ではなく、アントニオは彼女の中に韓国人の実母をも見ていたと思う。
この二人の関係はひどく愛おしく、胸を苦しくさせる。

最後にきて監督の優しさに救われる

家族の味方が誰もいない孤立無援状態の裁判場面。キャシーはじりじりと夫を待つが、彼は直前に暴漢に拉致され出廷できない、絶対絶命状態。
前の夫エースが傍聴席に現れ、いままで強行な態度で対立していたのに意外な言葉を告げる。そして支援を断っていた養母が姿を見せる。ここで私は心の中で拍手。人間の根底を信じている監督の優しさに救われる場面だった。

飯田橋ギンレイホール

2022年8月27日〜9月9日の上映


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