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旅の記録8 「ガンジス川とボート漕ぎの少年」

〜イントロダクション〜

マガジン「2012年地球の旅」2012年6月〜2014年4月の世界一周旅の記録です。今から12年前に書いた旅日記を、再度noteにまとめています。

ー本文ー

インドで一番印象に残った街は?と聞かれたら、迷うことなく「バラナシ」と答える。

言わずと知れたガンジス川の聖地。茶色く濁ったその川で、サドゥ(修行僧)は沐浴をし、サリーを纏った女性たちは洗濯を、火葬場では遺体を流す。日々の生活と生き物の生死が生々しく混在し、不思議な神聖さを醸し出していた。

日の出とともに朝日に照らされるガンジス川がなんとも言えない美しさで、滞在中はよく、ガンジス川のほとり(ガート)に腰掛けて朝日を見た。

何日か通っているうちに、ボート漕ぎの少年と仲良くなった。彼は、私のように朝日を見にきたツーリストに声をかけ、早朝のガンジス川ツアーを仕事にしている。

年季の入った小さなボートを漕ぎ、朝日の登る時間にガンジス川を遊覧する。ガートで会う彼はお調子者で適当なことばかり言っていたけど、オールを持つ彼の顔は仕事人のそれで、一度ツアーをお願いした時には、水面が黄金色の朝日を反射する様子に見惚れる私をそっとしておいてくれた。

「自分のボートなの?」と聞くと彼は雇われ人で、稼いだお金は雇い主に渡さなければいけないらしい。私がバラナシを去る前日には、自分の家に案内してくれた。家ではお母さんとまだ小さい妹たちが迎えてくれて、家族みんなで一緒に寝ているというベッドに腰掛けてお喋りをした。

翌朝早くに宿を出た私は挨拶をしてから行こうと思い、少年のボート場まで歩いて行った。仕事の時間にはまだ早いのか、ボートだけが岸に繋がれている。最後に少しだけガンジス川を眺めようとボートの方に近づくと、少年が舟床で小さく背中を丸めて眠っているのが目に映った。

稼ぎ時の早朝に備えて早出したんだろうか?それとも毎晩ここで寝ているのだろうか?少しでも長く眠れるように、サヨナラは言わずに駅に向かった。彼の家のベッドとマメだらけの手を思った。

〜追記〜

彼と仲良くなったおかげで「客引き側の目線でツーリストを見る」という貴重な体験をした。

早朝の仕事がひと段落すると、道端でチャイを飲みながら一休みする。(こういう時、インドの人は必ず奢ってくれる。)座りながら話をしている間も、ツーリストが来るとボートに乗らないかと声をかける。

気楽な商売に見えて、近くでみるとなかなか過酷な仕事だ。コミュニケーションを取るために各国の言葉を覚え、笑顔で話しかけて、興味半分の値段交渉に付き合い、簡単に断られて。1日にどのくらいの稼ぎがあるのだろう。

「いくら?高いなぁ。やっぱいいや、また後で来るよ。」「OK、押し付けないからまた気が向いたら来て。」そう言って笑顔で見送ったあとの残念そうな横顔が切ない。

あの少年は、今も元気だろうか?

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