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未熟さの系譜 大人であるということ

先日、JUJUさんのライブへ行きました。JUJUさんも仰っていたように、大人による、大人のためのライブでした。終盤にサプライズで登場したユーミン(松任谷由実さん)は、素晴らしいショウだったとJUJUさんを讃えていました。

さて。9/16 に本屋B&Bにて「なぜ日本では"大人の芸"が育たないのか 未熟さの系譜 宝塚からジャニーズまで」刊行記念の対談が行われました。著者の周東美材(しゅうとう・よしき)さんと、松尾潔さんによるものです。聞きながら、大人であるということについて考えました。

周東さんの著書『「未熟さ」の系譜 宝塚からジャニーズまで』は、日本の、童謡が「作られる」過程から、ジャニーズ、宝塚(特に初期)、ワタナベプロダクション、スター誕生、グループサウンズ・・・と成熟と対極にある文化史を辿るものです。

興味深い切り口で、松尾さんは周東さんは将来スターになるだろうとお話しされていました。
私は会場を後にした際、クラシック音楽はどうなるだろうか?など疑問を持ちました。歌のあるなしで音楽の分類としては大きく変わるのでしょうが、クラシック音楽は大人も子どもも知っていて、幅広い場面で耳にします。しかし作曲家は知らない場合も多いです。まさに「詠み人知らず」。先述のユーミンはそんな歌を作ることが目標だと語っています。帰り道にマリア・ジョアン・ピリス演奏のショパンのノクターンを聴きました。

途中、一定のステータスを得た歌手は童謡を歌う、の例に中島美嘉さんが出てきました。松尾さんはR&B的に出てきたのに、と。その瞬間、私は少しイラッとしました 笑。私は中島美嘉さんのファンだからです。デビュー曲の『STARS』を作曲したのは松尾さんがよくお仕事されている川口大輔さんなので、そのことも念頭にあったのかもしれません。中島さんが童謡の『朧月夜』をリリースしたのは2005年。同じ年にロックの『GRAMOROUS SKY』をリリースしています。同曲は矢沢あい原作の映画『NANA』の主題歌でした。原作ではパンク・ロックが扱われています。

中島さんと言えば、思い出したのは「ここじゃないどこかを探している」という歌い出しから始まる『永遠の詩』の歌詞です。双極性障害の人にはそういったところがあります(突然ですが私は双極性障害を持っています。坂口恭平さんの『躁鬱大学』に「我々はこの世に存在していない別次元の世界最高なわけです」と言った記述があります)。双極性障害、マライア・キャリーもそうですが、たしか彼女のMy All が昨年メロ夜(NHK-FM『松尾潔のメロウな夜』の愛称。メロウな夜間授業も開催され、好評を博した)で流れていました。さらに松尾さんの関連で言えば、元Little Gree Monsterの芹奈さん。双極性障害であることを公表されました。同じ病気の人の助けになれば、ということでした。あの時は大きな勇気をもらいました。

話が大きくそれました…。ただ、探している、というのも少し鍵となるような気がしているんですね。

松尾さんがデビュー前から関わっているCHEMISTRYの『月夜』と、中島さんの『声』の作詞は同じ柴田淳さんです(後者は作曲も)。
さらにCHEMISTRYの堂珍嘉邦さんはソロ活動において、レミオロメンの藤巻亮太さんと定期的に共同でライブを開催しています。そして、中島さんは藤巻さんと『真冬のハーモニー』をリリースしています。

何が言いたいのかといえば、物事をシームレスに同時進行することが人間は可能である、と言うことです。中島さんは童謡を歌いながらも同じ年にロックを歌い、後年には『声』を、「大人」の代表格とされる松尾さんも依頼をした柴田さんの提供曲を歌うのです。幅広く歌いたいのか、自分に合う曲を「探している」のか。

JUJUさんは松尾さんが提供する『この夜を止めてよ』『Love Is Like』『ラストシーン』のような大人の曲も歌えば、『READ MY LIPS』のような「可愛らしい」曲も歌います。

大人である時間と子どもである時間が混在し、シームレスに進行してしているのが日本社会であるように私には思えます。海外は一度大人になったら大人のままです。日本はどうもその点が異なるように思います。子どもと大人の境界線が曖昧なのか、周東さんの著書に書かれていた、童謡などの広まりが子どもから受け入れられる、という形態ゆえのものなのでしょうか。とにもかくにも、日本では大人は、子どもにも大人にもなれる、そう説明できます。「可愛い」がどのように海外で広まったかを検証する必要があるとも思うのですが、でなければ、冒頭に書いたような松任谷由実さんの歌が幅広く受容されながらもジャニーズが同時に存在することの説明がつきません。松尾さんはゴスペラーズがハーモニーを追求する一方でジャニーズは頑なにユニゾンを守る、と語っていました。

このように思考を刺激される本であり、対談であったことは間違いありません。

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