異常と正常/砂の女
この記事は、2022年7月14日14:42にTumblrに投稿した記事を転記したものです。
「百人に一人なんだってね、結局」
「なんだって?」
「つまり、日本における精神分裂症患者の数は、百人に一人の率だって言うのさ」
「それが、一体?…」
「ところが、盗癖を持った者も、やはり百人に一人らしいんだな…」
「一体、なんの話なんです?」
「男色が一パーセントなら、女の同性愛も、当然ら一部パーセントだ。それから、放火癖が一パーセント、酒乱の傾向のあるもの一パーセント、精薄一部パーセント、色情狂一パーセント、誇大妄想一パーセント、詐欺常習犯一パーセント、不感症一パーセント、テロリスト一パーセント、被害妄想一部パーセント…」
「わけの分からん寝言はやめてほしいな。」
「まあ、落ち着いて聞きなさい。高所恐怖症、先端恐怖症、麻薬中毒、ヒステリー、殺人狂、梅毒、白痴…各一パーセントとして、合計二十パーセント…この調子で、異常なケースを、あと八十例、列挙できれば…むろん、できるに決まっているが…人間は百パーセント、異常だと言うことが、統計的に証明できたことになる。」
「なにを下らない!正常という規準がなけれりゃ、異常だって成り立ちっこないじゃないか!」
砂の女 安部公房
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