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無色不透明


今まで感じたことのない感覚であろうものが、
今ここに在る気がしている。

雨粒が窓をつたって、
土砂降りの雫が地面に落ちて弾かれる。

走るタイヤが水飛沫をあげて、
波のような音が流れて、遠ざかる。


言葉の色が、見えなくなってしまった。


キャンドルの光のような暖かいクリーム色も、
深く曇っている夜空のような悲しい紺色も、
誰かが伸ばした手の色も、顔も、大丈夫も、

何も見えなくなってしまった。


文通相手にもらった本はまだ読めていないし、うたうように言葉を読むあの子のことも書けていないし、母からいただいた呪いのような声もまだ耳にこびりついている。

きらきらひかる音の中に
わたしを慰めるものもあったのだろうけど、
見えも聞こえもしないものは拾えない。

拾おうとしていたわたしの手の温度も、
今はもうわからない。


わたしの傷は、何色だったっけ。
誰に助けて欲しかったんだっけ。

どんな声で、どんな笑い方をして、
どんな気持ちで、泣いていたんだっけ。

わたしは、どこにいるんだっけ。
かえりたいなあ、かえりたい。


夢の町にかえろうね。


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