リモート環境におけるゲームプランナーのOJTの難しさ

・ゲームプランナーの研修は殆どがOJTによるもの
・近くにいる先輩社員の仕事を見たり、聞いたり、教わったりする
・働き方の方法論について普遍かつ確立したものは見たことがない
・リモート環境はかなり新人にとって『不利』である
・元々学習効率の良いタイプとそうでないタイプとの差がより広がる

ゲーム開発におけるプランナーという仕事は、とてもフワっとしている。「これをやっていればOK」というものが無く「今回はこれが必要」というものが沢山あり、何が必要なのかがその時々によって変わるからだ。
そして開発専属のスタッフというのが少なく、マネージャー級でも扱ってきた案件数が数個とかそういうレベル。
チームとして手法が確立しておらず、標準化されたフローもなければ、達成条件も常に一定ではないので、毎回マネジメント方法やクオリティの上げ方を模索しないとけない。(超大手は知らんけど)
それを実務外研修で学ぶ、というのは現実的ではないので大抵の会社の新人は現場に放り込まれて、上司から「経験して覚えてね」と言われるわけだ

現場に放り込まれた新人を先輩社員はどう扱うかというと、余裕のあるプロジェクトなら専門的な知識がさほど必要ではない雑務から入って色々覚えてもらうし、人員やスケジュールが逼迫しているなら、いきなり成果物の作成をやらされることもある。
上司や先輩から手厚いサポートを得られることもあれば、自分から行動しない限りほったらかしにされることもある。(大抵後者)
よって仕事を覚える手段の半分くらいは「真似」である。
「この資料をみて、同じようにこっちを作ってみて」とか具体的に示されることもあれば、勝手に周りの人の仕事や成果を見ながら「こんな感じかな?」と手探りですすめることもある。これは最終的に費用対効果が良くないのだけど、ゲーム開発会社というのは事業規模的に先々のことまで考える余裕が無く、長期的に新人を育てるという考えが薄い。(超大手は知らない)

これがシステム開発やITコンサルだと「我々の仕事はこういう手順で、こういう内容で、こういうコスト管理をして進めると品質が安定する。」という誰がやってもこの水準に収束する安定した方法というのが確立している。(知っている限り、そういうものが存在していた)
これは、雑に言えば「どんな素人でもこのマニュアルに書かれたとおりにやればプロの仕事ができる」という魔法の書。100%発揮するには相応の力がいるけど、まあギリギリ最低ラインの60%くらいなら新人でも保証されるくらいの代物。あちらの世界は会社ごとにこういう方法論があるので彼らの仕事はいつでも誰でもプロっぽくなる。
ゲーム業界でこういうものを見たことは一度も無い。誰かがひっそりその辺を本にまとめたりしているのかもしれないけど、多分陳腐化が早いので表に出てこないのだと思う。洋書なら昔からある有名なものがあるけど、これはどちらかというとゲームにおけるクリエイティブやUXの理論解説みたいなもので「書いてあるとおりにやりなさい」ではない。咀嚼して、実務に適用できたなら良いものができるよ、といういわば教科書。
自分の経験からしても、ハードウェア、デバイス、プラットフォームが変われば本質は変わらなくても実際のやり方はかなりの部分変わる。ゲームエンジンはあらゆるケースに対応して統一することは出来ないし、プランナーがよく使うExcelだっていつまで使うのかわかりはしない。(個人的には取り扱うデータ量的に限界だなと思う)

ゲーム業界(≒IT)は業務的にも文化的にもテレワークへのシフトが容易で、最近はそういう働き方をしている会社も多いと思う。
そんな中、新人プランナーがどうやって仕事を覚えるのか?というと正直とても難しいと思う。ここまでに書いたとおり、プランナーの仕事は普遍化できず、属人性があるものが中心なので「経験のある人間の側にいないと学習効率が著しく下がる」のだ。加えてゲーム開発者という人種は控えめに言っても「他人と関わることを回避しようとする」奴らが多い。(自分含めて)
テレワークは気軽に他人のサポートを求めにくい労働形態で、相互に個人的信頼関係が築けた場合にようやく助け合える、といった感じの人が多いと思う。黙って静かに隣の先輩の仕事を覗く、様子を見ていた先輩から声をかけられるみたいな手も使えないし、物理的に上司、先輩、同僚と隔絶されコミュニケーションコストも高い。

そんな事もあるので、わずかな情報からより多くの意味ある情報を読み取る能力、心理的障壁を容易に乗り越えて他人にアクセスする能力、そしてなにより自身のモチベーションを維持、引き上げる能力、などなど自分で自分を成長させるスキルや方法を身に着けているかいないかで1年後2年後の能力にずいぶんな差がついてしまう。いままでなら周囲のフォローで多少は穴埋めができていたけど、いまはそれも多くを期待できない。

そもそも「育成」において育てる側ができることは限定的だ。こうすべき、と教えてもそれをやるかどうかは本人次第。こういう考えをしろ、と言っても受け入れるかは本人次第。モチベーションを上げる何かを示唆できても、そもそもモチベーションをあげようと思うかがまずは大事だ。全てはこれに行き着く。

今の社会情勢がこの傾向をさらに強めることになると最終的なキャリアの格差になるのではと心配である。








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