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【フランスの列車】サバイバル・ゲームも楽しめる?!

サバイバルゲームを比較的安全にしたい人は、フランスを旅行するといい。

まあまあレベルの高い「実践ゲーム的状況」に、頻繁に陥ることができるからだ。

フランス歴15年のわたしにとっても「まあまあ」であるから、フランスを初めて訪れる人は「頭の中まっしろ」くらいにはなれるかもしれない。

今日は記憶も新しい、つい最近体験した「わくわく、ドキドキ、実践フランス列車ゲーム!」をお伝えします。
単に「乗るはずだった列車が遅れたり、来なかったりした場合」のうんざりする話とも言えるけれど、ゲームと捉えれば楽しいじゃないですか。ねえ。

1.ゲームの予感。参加する?どうする?

(1)ゲーム参加者(つまりこれから列車に乗る人たち)には知らされていない前提説明

場所はフランス中部、アリエ県。

その朝、Vichy(ヴィシー)という街の近くで、1本の木が線路上に倒れた。(おそらく)送電線に引っかかり、列車が通れない事態になる。

アリエ県庁の緊急連絡網にはすぐに連絡が入ったが、復旧がいつになるかは、この時点ではわからない。

午後の列車に乗るはずだったわたしは車で行くかを考慮に入れるも、すぐに「午前中で復旧予定」という連絡を緊急連絡担当の当事者である夫からもらい、予定通り列車で行くことにする。

(2)知らずにゲーム参加者となった乗客への最初のお知らせ

その日Vichyを通るチケットを買っていた人たちは、午前中に「あなたが予約した列車は今日は運行しません」とSMSでメッセージが入る。

他に説明なし。
どんなことが起こったのか、他の列車は運行するのか等は、届いたメッセージからはわからない。

「あなたが困っているなら、あなたが自分で調べればいい」
それがフランスの暗黙ルール。暗黙ルールであるから、外国人旅行客、特に至れり尽くせりのサービスに慣れている日本からの旅行客に、このルールがわざわざ知らされることはない。ゲーム参加(ご旅行)の際は、この点ぜひ頭にいれておいてください。

この時点でゲームから脱落する人もいたかもしれない。

わたしはと言えば、このときまだチケットを予約していなかったため、この連絡は受け取っていない。

(3)ゲーム参加者への次のお知らせ

列車の出発1時間前になって、「列車は予定通り運航します(遅延なし)」と救いのメッセージがチケット購入者に入る。

さあ、安心して駅へ向かおう。午前中で復旧作業は終わったのだ。

わたしはどの時点でかSNCF公式サイトでチケットを予約。前後の便には運休があったものの、予定の便は予約できた。

実はこの日は友人(日本人。在仏27年)と一緒に行く予定だった。先にチケットを予約していた彼女は②と③のメッセージを受け取り、心配したり安堵したりしていたらしい。わたしにもメッセージをくれていたのだが、午前中やることがあったわたしは、そのメッセージを見たのは家を出た後だった。

(4)ゲーム続行・疑う余地のない駅の出発案内

乗客はそれぞれ駅に着く。わたしが利用したのはムーラン駅。

フランスの列車駅には、15分前になると、出発ホームが表示される。
案内画面には運休になった列車の「運休」表示もある。「遅延」の列車もある。
幸いなことに、乗るはずの列車は、「時間通り運行」とある。
出発ホームが表示されたら、そこに向かう。

もちろんわたしもホームに向かう。ホームで知人と合流。
SNCFのメッセージの話を聞き、「たいへんだったねー」「でも、よかったね」と会話を交わす。おしゃべりしながら、列車を待つ。

このゲームなら参加しても大丈夫そう。
でも、わたし達はまだ知らない。本番はこれからなのだ。

2.ゲーム本番。あなたなら、どうする?

(1)時間になってもアナウンスがない。

フランスでも出発5分くらい前になると、列車到着のアナウンスが入る。
ところが、あるはずのアナウンスが入らない。
ホームには大勢の乗客がいる。普段よりずっと多い。運休の列車があった為、乗る列車をずらした人たちもいるのだろう。

「列車が時間通りに来ない」ことはフランスではよくあること。
この時点で、多くの人は何も行動を起こしていない。

でも、わたし達は日本人。何分遅れるのか、なぜ遅れるのか気になる。
友人が案内を見に行く。

(2)自ら行動を起こす者だけが情報を得られる(知らされていないルールはまだある)

友人が戻って来る。
「45分遅れだって。前の列車も送れてるから、そっちが先に来たらそっちに乗ってもいいんだって」。

得た情報を近くに座っている人にも教えてあげる。「待つしかないわね」という表情。

考えてみよう。列車出発予定の15分前に出発案内は出た。
あなたもそれを信じるでしょう? 「遅延」と表示のあった列車もあるのです。「時刻通り」と表示があったら、時刻通りと思うでしょう? しかも5分や10分の遅れじゃない。
列車はどう考えても、出発の時点で遅れていますよね。
駅の関係者はとっくに列車の遅延をわかっていましたよね(それとも、連絡がなかったのか?それもあり得る)。

とにかく、出発表示はそのまま出た。遅延のアナウンスはない。

なぜなら、たぶん、これはゲームだから。

フランス人にとっては45分くらいの遅延ならよくあることだし、前の列車に乗れるなら大した遅れにならない。むしろ、ラッキー?

この時点でフランス語がわからないとゲームの難易度はさらに上がる。
スリルとサスペンス度が高まり、よりお楽しみいただけると思います。

(3)前の列車が来るらしい。乗るぞ!

やっとアナウンスが入る。前の列車が来るらしい。
違うホームだ!友人と急ぐ。
「軽い荷物でよかったね」と言いながら。

なにせバカンス中。スーツケースを持った人も2割ほどいるのだ。ホームの端にあるエレベーターまで行っている時間はない。みんな階段を急ぐ。

(4)安心も束の間、ゲームの難易度あがる!

「1本前の列車に乗れる。あ、電源もあるタイプの列車。かえってよかったかもね」と言ったのも束の間。すごいことに気付く。

この列車、わたし達が降りる駅に、止まらない?!

友人が駅員さんに聞く。「Vichyには止まらないのですか?」
駅員さん「止まりません」。

あ、だからさっきのホームに残った人たちもいたのかも?
前のホームに戻る。
ところが、ここで次のドッキリ。

案内画面を見たところ、

次の列車も、VICHY駅には止まらない!

Vichy駅近くで木が倒れたから、そこを迂回しているのだ(たぶん)。

慌ててさっきの列車に戻る。走る。

さあ、どうする? 乗るのか、乗らないのか。

(5)とりあえずゲーム参加(列車に乗る)ことにする。どうしたらいいかは、まだわからないけれど。

この時点でやめるという選択肢もあった。
何が正しいのか、何が勝ちかは、人によって違う。

でもでも、わたし達にとっては、この日はどうしても行きたい目的があったのだ。

オリンピック日本女子バレーボール・チームの公開練習」。

アリエ県に日本人はほとんどいない。
わたし達が行かなくてどうするのだ(勝手な使命感)。

間近で応援したい(見たい)!

なので、どうやって行くかはまだわからないけれど、とにかくそっちの方面に行くのだから、行ってみようということになった。

(6)今こそ、本領発揮。

わたしには、数年前にその力が備わっていることを教えてもらった、ある特技がある。
それは、「巻き込み力」(人を巻き込んでものごとを解決する力)。

列車に乗り、とりあえず二人が並んで座れる席を見つけ(ほぼ満員の列車で折り畳みの簡易席があった)」ると、すぐ近くの人たちには聞こえるくらいの声を出した。

「すみません。わたし達はVichyに行きたいのですが、この列車は停まらないですよね。どう行ったら良いか、わかる方いらっしゃいますか?」。

周囲には15人くらいの人がいたのだけれど、二人の男性が顔を上げて「Vichyには停まらない」と言ってくれた。

やった。目を見てくれた。解決できるかもしれない。

わたし「どうやって行ったらいいか、わかりますか?」
男性たち「Riom(リオム)という駅まで行くと、そこからVichyに戻る列車があるよ」

男性二人は連れではなく、席も少し離れた人たちだけれど、同じ意見だ。でもRiomはVichyより先の駅らしい。Vichyより手前の駅には止まらないのか。

わたし達はGoogleで探してみる。案内も見直す。

わたし「Saint-Germain-des-Fossés(サンジェルマンデフォセ)という駅に停まるような表示が出ているけれど、そこからは行けないのかしら」
男性二人「その駅には停まらない」

二人は確信を持って、その駅には停まらないと言う。どこにそんなことが書いてあるの?(ルールを教えてもらっているのは誰?)

でもまあいいか、何とかはなりそうだ。たぶんね。

教訓:人を巻き込むと解決力が高まる。

(7)ゲーム続行するわたしに、1つめの小さなご褒美。

わたし達が座った簡易席には電源がなかった。でもわたしはスマートフォンのバッテリーが十分でなかったので、できるなら充電したかった。

そこで辺りを見回し、使ってなさそうなおばあちゃんに近づいて
「すみません。充電を使わせてもらってもいいですか?」と声をかけた。

おばあちゃんは快く使わせてくれようとしたが、先ほど返事してくれた男性の1人が、「ここの充電使っていいよ」と言ってくれた。
親切な方だ。 そこなら座ったまま充電できるので、男性の方のを使わせてもらうことにした。ご褒美ゲット!
いやいや、親切な方、ありがとうございます。

教訓:誰かに感じよくお願いしてみると、受け入れてもらえる可能性が高くなる。

(8)特別ボーナス?

突然、近くに座っていた女性たちが何人か席を離れた。みんな降りるの?列車は出発しないの?

不安になったのも束の間、彼女たちは小さなボックスを手に戻って来た。
お食事セットだ。パリ始発のその列車は一定時間以上遅れたため、わたし達が乗った駅でランチが積み込まれたらしい。

わたし達は乗ったばかりだし、すぐ降りるし、いらないけど。

ところが、先ほど声をかけたおばあちゃんが「あなた達も持って来なさいよ。そこにいっぱい置いてあるわよ。ただなのよ。取って来なさいよ」としきりに言う。
親切し損ねたから、何かしたいのかもしれない。
「実は、お昼食べてないのよね」とこっそり友達に言うと、わたしの分を持ってきてくれた。

特別ボーナス・ゲット!
いえいえ、教えてくれたおばあちゃん、取ってきてくれた友人、ありがとうございます。
本来わたし達がもらっていいお弁当であったかはわからないけれど、とにかくたくさんあったので、ありがたくいただくことにした。

おばあちゃんに「教えてくれてありがとう」と言うと安心したようすだった(気のせいか?)。

箱の写真だけ。

中身の写真を撮り忘れた。タブレサラダ、リンゴのコンポート、水、ビスケット、など。

教訓:こちらから話しかけておくと、相手からも話しかけてくれる

3.ゲーム完了。どんな勝ち方をする?何を得た?

(1)朗報

この時点でまだ出発前だ。アナウンスが流れる。
「この列車はクレルモン・フェラン行きです。途中停車駅は、Saint-Germain-des-FossésとRiomです」。

「Saint-Germain-des-Fossés停まるね」と先ほどの男性二人と友人とわたしが顔を見合わせて確認。

おそらくSaint-Germain-des-Fossésは本来なら停まらない駅。Vichyに止まらない代わりに今日だけ臨時で停車するのだ。

(2)みんなは、どうするのかな?

列車の乗客の多くは、パリからクレルモン・フェランに行く人たち。
遅れは出たけれども行程に変わりなし。
お弁当をもらって、「仕方ないなあ」と思いつつ、到着だ。
もともとRiomに行きたい人も同じ。

少数だけれど、停まるはずのなかったSaint-Germain-des-Fossésが本当の行先の人は、超ラッキー。
遅れたけれど直行になった。おめでとう!

さて、問題はVichy行きの人たち。わたし達だ。

Saint-Germain-des-Fossésで降りてバスなどの行き方を探すか、Riomまで行き、男性二人があるという列車を待つか。でも、彼らSaint-Germain-des-Fossésに停まることも知らなかったしな。

Googleで見ると、Saint-Germain-des-FossésからVichyまでは車で20分。タクシーでも行ける距離だ。
タクシーがあるかは別だけれど、列車が停まるくらいの駅だから、電話で呼べば来てくれるタクシーあるかもしれない。
もしかしたら代替バスもあるかもしれない。

わたし達は、万が一の場合の損害を少なくするため、近い方のSaint-Germain-des-Fossésで降りることを選ぶ。

(3)奥の手発動とその結果

ここでわたしは奥の手発動。
夫に電話する。
「Saint-Germain-des-Fossésまで迎えに来て。Vichyから車で20分くらいらしい」と。

この日、夫は別の用で朝からVichyに行っていた。仕事中だから遠くでは無理だけれど、20分なら可能でしょう。
行くのはたいへんだったけれど、帰りは連れて帰ってもらえる。

なんだ、ゲームに軽く勝った自慢話? いや、わたしが言いたいのはひとり勝ちの話ではない。

わたしが「迎えに来て」と電話するのをびっくりした様子で顔を上げて見た先ほどの男性(「何も知らないくせに迎えはあるだと?」と思ったに違いない)、「Vichyから20分」を聞いた段階で、はっとした様子で自分も電話をかけ始めた。
「Saint-Germain-des-Fossésに着くことになったから、タクシーを呼んで、迎えに来させて」と。

彼はわたしを助けてくれたことによって、「アイデア」という特典を得られたのだ。ゲームなら、1つ武器をもらった感じ。

教訓:「情けは人のためならず」。人に親切にしておくと、まわりまわって自分に返って来る。

(4)Saint-Germain-des-Fossés到着。わたしもゲーム勝利!

不測の事態が起きなければ、一生降りることがなかったかもしれない駅にわたし達は降りた。

写真を撮っている間に夫が到着。Vichyに向かう。
無事オリンピック選手たちの練習風景を見学することができました。
Lyonからいらした日本領事や、Vichy市長にもお会いし、コーチ方とも少し言葉を交わさせていただく。ちょこっと、通訳もさせていただくご褒美付き。

行ってよかった!

じゃあもし、この時夫がいなかったら?
駅を降りて途方にくれることになったら、また「巻き込み力」を発揮して、誰かに聞いたことと思う。みんなでバスに乗ったりして、Vichyまで行っただろう。かけがえのない思い出になったかもしれない。
バスがなければ、タクシーを呼んだ。

いつでも、解決方法を見つけることはできる。
困難はあるけれど、実のところ、このゲームに負けはない。
誰もが、どこかにはたどり着けるのだ。

4.フランスでゲームに参加することになったら

(1)そもそも、なぜフランスはこうなのか

フランスでは、望んでいないのにサバイバル・ゲームに参加することになってしまうことが、日本よりずっと多くある。

日本は世界でも有数の便利で清潔できちんとした国なのだ。

いくつかの要因をあげよう。

①フランス人は反省しないから(反省と言う言葉はフランス語の辞書にはない)、今回のようなことが起こっても、次に経験が生かされない。

②フランスはトップダウン方式だから、契約書の仕事内容にあらかじめ書いてあるか、上からの命令がない限り、自分たちで工夫して予定外のアナウンスをしたり、案内表示を変えたりということはない。

③フランスでは労働者の権利が守られているから、不測の事態が起こっても、自分の任務以上の働きをしようとは、まるで思わない。電車が遅れたことに自分が直接責任がない以上、「自分も国鉄の一員として解決する責任がある」などとは、まったく思わないのだ。
どんな不測の事態が起ころうとも、乗客が困ったことになろうとも、「わたしは今日もわたしの仕事をした」という清々しい誇りと共に一日を終えることができる。それがフランス人。

④フランス人にとっては、他のヨーロッパと同じくらいに近しい国がアフリカやアラブ。
不便があると言っても「アフリカに比べたらまし」「うちらは大国」「少なくとも電車があるし」くらいに思っている。便利な日本は遠い遠い異次元の国なのだ。

(2)ゲーム参加の心得

図らずも、あるいは望んでゲームに参加することになったら、
ゲームに積極的に参加して、わくわく・ドキドキを楽しもう!

これに尽きます。

不測の事態こそが、フランスらしさを楽しむ絶好の機会とも言える。
日本の便利さのために鈍っていたサバイバル能力を発揮するのは今!
不便だけど、危険ではない。

コツをいくつか予習・復習しておきましょう。
①駅員さん含め誰かに話しかけるときは、「Bonjour(ボンジュール=こんにちは)」と挨拶してから、話しかけよう。これはフランス一番の暗黙ルール。挨拶しない無礼な人は、一人前の人間として相手にされないこともある。

②命に関わること以外は、不満は心に押しとどめ、感じ良く話そう。相手は「あなたの窮地を救ってくれるかもしれない、善意の第三者(たとえ駅員さんであっても)」。大人として感じよく振舞うのが、大人としてのルールです。

③はじめは周りの数人を巻き込んでみよう。フランス人は勝手なように見えて「自分は思いやりのある人間でありたい」と思っている。そして機会があるなら、それを示したい。だから自分は役に立ちそうと思ったら、その機会を無駄にせず、親切に助けてくれる。不測の事態こそ、交流をはかるチャンス!声をあげてみよう。

④自分もできるだけ誰かを助けよう。
不測の事態に困るのは、フランス人も同じ。「旅は道連れ世は情け」。お互いに助け合おう。

(3)みんなにどんなゲームをしたか発信しよう

面白いゲームに出会ったら、どんな風に攻略したか、FaceBookやX、Instagramなどで、自分の経験を友達や知り合いに教えてあげよう。
「日本っていい国だな」と改めて気が付くことにもなるし、「ちょっとゲームに参加してみようかなと、日本を後にする人も出るかもしれない。

世界は、面白くて変で魅力的な人であふれている。

よその国の面白くて魅力的な人を見に行こう。

外国に行く一番の魅力はそこにあるかもしれない。

面白いゲームに参加されたら、わたしにもぜひ教えてください。

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