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暖房にうなされる夜

ここのところ、暖房に悩まされている。

フランスの多くの家は、各部屋にオイル循環式の暖房器が備え付けられ、それらはすべてオイルを通す鉄パイプで繋がっている。

わたしが現在住んでいるのは、夫の仕事の都合で公的機関の中なのだが、やたら部屋数が多い上、いろいろな物が古い。

暖房も古い。

少し前から、その暖房器や繋ぐパイプのどこかから、音がするようになった。
オイルの流れが滞るせいではないかと思われる。

はじめは、暖房器の一つの強弱を変えると音は止まった。
次の夜になるとまた音がして、別の部屋の強弱を変えた。

数日すると、一晩に2回音がするようになり、日毎に回数が増えた。
技術担当者に来てもらったが、「全部の暖房器を全開にすれば解決しますよ」と調節して帰り、当然のことながら住いの中が暑くなった。

それでも音はまたぶり返し、今度は目盛りを絞って音を止めた。

ここ数日、回数ばかりか音量も増し、暖房の唸り声、ときには悲鳴のような音もするようになった。

昨夜は夜中に何度か、明け方もひーっと言う悲鳴で起こされ、音が止まるまで家中の暖房を調節しに走り回った。すっかり寝不足だ。

技術者を呼ぼうにも週末はいない。

今晩、とうとう暖房は鳴り止まなくなった。
家中を夫婦して走り回り、止めたと思っても5分も黙っていない。
わたし達の現在の住まいはやたら部屋数が多く、暖房器も13だか14だかある。
それを一つひとつ調節して回るのは我ながらあまりにも滑稽だった。

これでは眠れやしない。
音だけならまだいいが、管が破裂するようなことが起こったら、大ごとではないか。

それで夜間の管理人を呼んだ。
同情してくれるが、原因はわからないと言う。

でも、面白いことを言った。
下の階にも暖房器があって、そっちの暖房を最近付けたんだよね。それを切ってみたらどうだろうと。

夫が管理人が一緒に見に行き、
間も無く、唸り声が止まった。

下の階の、誰もいない会議室の暖房が付いていて、それを止めたらしい。
知りませんでしたよ。
暖房器がわたし達の住居以外の部分とも繋がっていたとは。

どこまで繋がっているのだろう。

今晩のところは、音が止まりわたし達は眠れることになった。

でも根本的には解決していない。
それどころか、今後自分たちとは関係ないところで暖房が付けられることで、急に我が家の暖房が悲鳴をあげることもあるということだ。

そのときは建物中走りまわることになるのだろうか。

想像するだけで笑ってしまう。

わたしは、壮大なお笑い番組の仕掛けの中に住んでいるようなものだったのだ。

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