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「ストラトキャスターの名手」おすすめの曲を紹介する2021年10月#02

 こんにちは!Luです。普段は主にボカロPとして活動しています。

 この連載では私が普段聴いている音楽や昔から好きな音楽をまとめた週替わりのApple Musicプレイリストをつくり、その中から毎回数曲ピックアップして紹介しています。

 さて、今回のテーマは「ストラトキャスターの名手」。前回のジャズマスター特集に続いてギターにフォーカスします。とはいえフェンダー屈指の名機であるストラトキャスターは、数々のレジェンド達が使ってきたギターです。有名なプレイヤーの名前をあげようにも、ジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジョン・フルシアンテ……等々、パッと思いつくだけでもきりがありません。なので今回は思い切って今まさに活躍中の方々の中から、独断と偏見で私が好きなギタリストを二人、紹介していこうと思います。

Cory Wong

 こちらはCory WongのLunchtimeという楽曲。この曲のように陽気でキレッキレなカッティングが彼のプレイの特徴です。

 彼のスタイルについて、本人はリード・リズムとよんでいます。その名の通り、リズムギターを弾いているけれどどことなくメロディーが聴こえてくるような、リズムギターをベースとしたいいとこ取りな奏法です。

 一聴して分かる通りファンクギタリストですが、10代の頃はパンクロックを聴いていたり、キャリア初期は現代ジャズを演奏していたりと、様々なジャンルからの影響があるプレイヤーです。陽気な音楽からはR&Bの中でもディスコからの影響が強く感じられます。カッティングプレイやフレージングはNile Rodgersからの影響も感じられますが、Nileの優しく揺れるカッティングとは対照的に速くキレのあるカッティングで、独自のスタイルを築いています。

 Cory Wongはソロでの活動のほか様々なミュージシャンとコラボして活動していますが、Vulfpeckのメンバーとしての活動も有名です。一応正式メンバーではないのですが、Vulfpeckのサブプロジェクトであるthe Fearless Flyersにも参加しており、なんだかいつも一緒にいるイメージがあります。

  俗に逆アングルと呼ばれる、通常とはピックの角度を逆向きに弦に当てるスタイルと驚くほど大きい手首の動きから生み出されるカッティングサウンドはアップピッキングが強調された独特な雰囲気があり癖になります。また、ストラトキャスターのブライトめなシングルコイルらしい音も上手く使いこなし、軽やかで現代的なファンクに昇華させているので、過去の偉大なファンク名盤のギターとは違う彼のプレイならではの良さがあります。

 また、彼の参加する音楽はいつも陽気で明るいものばかりです。いくつか彼のインタビューをみていると、音楽を通して自己表現をすることを大事にしていて、中でも喜び(joy)が音に乗っていることが多いというようなことを各所で語っています。様々なプレイヤーとセッションをしている動画がYouTubeにたくさんありますが、ラフなものからスタジオ、ライブハウスでのプレイまでどれを見ても心からセッションを楽しんでいることが伝わってきます。次に来日した際にはぜひともライブに行ってみたいです。

Tom Misch

 こちらはTom MischのIt Runs Through Meという曲。アルバム「Geography」に収録されています。

 数年前からネオソウルと呼ばれる、R&B、ソウル、ヒップホップ、ジャズなどジャンル横断的な影響を受けた音楽が流行っていますが、彼もその文脈の中で評価されて、26歳にしてギタリストとして、プロデューサーとして高い評価を受けています。日本では星野源とのコラボ楽曲を通して彼のプレイを聴いたことがある人も多いのではないでしょうか。

 YouTubeのMVではクレジットがされていませんが、この楽曲はTom Mischとの共同プロデュースです。Tom Mischはギタリストとしてのみならずビートメイキングにも力を入れているので、おそらくただギターを弾いたのではなくトラックの段階から共同制作していると思います。

 ギタリストとしては、ジャズからの影響が大きいですが、ブルースやロック、R&Bなど広い分野の要素をミックスしてオリジナルなプレイに昇華しています。指弾きを駆使した太くて甘いリードプレイや、チョーキングはあまりせずスライドを多用するところが特徴で、ストラトキャスターのクリーントーンの美しさをよく引き出しているギタリストです。

 そんなTom Mischですが、2018年の「Geography」以来のリリースはYussef Dayesとのコラボ作品のみでした。そして、今年の9月に突如リリースされた「Quarantine Sessions」はこれまでとは少し毛色が違う作品になっています。

 「Quarantine Sessions」は、彼がYouTubeに公開してきたカバーの音源とオリジナル3曲を含むアルバムです。コロナ禍の企画なので、宅録感あふれるサウンドになっているのですが、以前のネオソウルな楽曲とは少し違う音になっています。

 これはアルバムに収録されているSmells Like Teen Spiritのカバーです。ジャジーなプレイで有名なTom MischがNirvanaを……?と最初は驚きましたが、原曲の独特な雰囲気がループマシンを使用した簡易な重ね取りでさらに彼による大きなアレンジが施され、より不思議なトラックに仕上がっています。

 こちらはアルバムリリースに際してYouTubeに公開されたJames BlakeのThe Wilhelm Screamのカバーです。アルバムを通して聴くとわかるのですが、この新譜では全体通してドリーミーで深いリバーブがかかっているものの、ドリームポップとはまた違う複雑で不思議なコード感になっています。

 今年のリリースはお洒落でポップなギタリストとしてのみならず様々な音楽でその才能を発揮するプレイヤー、プロデューサーとしてのポテンシャルを感じるものでした。今後の活躍やオリジナルアルバムにも期待が高まります。

おまけ:二人の共通点とは

 キレのあるカッティングと甘い指弾きというかけ離れたプレイスタイルをもつCory WongとTom Mischですが、二人にはある共通点があります。それは、「楽器屋で買える」ギターを使っているという点です。

 エレキギターは発明されて間もない50年代、60年代、70年代あたりの音が良いとされる傾向があります。もちろんギターの新しい可能性を拓くようなモダンなモデルも開発されてはいるのですが、現行品においても当時の仕様に少し変更を加えただけのトラディショナルなモデルがかなりの割合を占めています。また、プロミュージシャンであれば50,60,70年代当時に作られたヴィンテージギターを手にすることも多く、そうしたギターは高価であると同時に使われ方や保管状況、改造によって音が変わった一本物です。また、最近制作されたギターであってもオーダーメイドで本人用に設計された高価なギターである場合が多いのです。

 しかし、Cory Wongがメインで使用しているストラトキャスターは、彼が10代の頃入手したFenderのHighway oneという市販のシリーズです。Fender USAの中でも廉価なモデルで、今でも中古で10万円を切るくらいの価格で手に入れることができます。現在FenderからCoryのシグネチャーモデルが発売されていますが、これもHighway one Stratocasterをベースに彼の要望で細部をアップデートしたものになっています。

 Tom Mischがメインで使用しているギターは2005年にFenderから発売されたJohn Mayerのシグネチャーモデルです。現在は中古市場でも貴重になっていて価格があがっていますが、それでも30万円程度で手に入れることができます。また、Fenderの中ではHighway oneの後継にあたる廉価シリーズのAmerican Performer Stratocasterも使用しているようです。

 ヴィンテージギターやハイエンドギターには、もちろんそれにしか出せない素晴らしい音があります。しかし、学生でも手が届くようなどこにでもある楽器で名曲が生み出されているということは、アマチュアミュージシャンにとって非常に夢がある話です。また、初期の仕様に固執しないことで、まだ見つかっていないギターのポテンシャルを生かしたサウンドが生まれることは、音楽にとってもギター業界にとっても素晴らしいことではないでしょうか。記事内でも名前が出たJohn Mayerは数年前Fenderを離れPRSと組み、廉価ながら本人が「ライブにギターを忘れても近くの楽器屋でこれを買えばライブができる」というほど納得する楽器を開発してシグネチャーモデルとして販売しています。このことについてはインターネットで検索すれば彼の積極的にギター開発に関わる姿勢や考えがわかります。私もこうした新たなギターの可能性を拓く試みが続くといいなと思っています。 

 ちなみにCory WongとTom Mischがコラボした楽曲もあるので紹介しておきます。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。来週になるとプレイリストは更新されて変わってしまいますが、ここでは紹介しきれなかったいい曲もたくさん入っているのでぜひ聴いてみてください。

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