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Piano

 東京は寒いけれど、快晴の日が続いている。

高い山にはたくさんの雪が降り積もって、"雪山はサイコーだよー"という方々はサイコーな登山を満喫されておるのだろうけど、私は元道民として、生まれてから40年以上冬は雪にまみれて生活していたので、雪山登山にはとんと食指が動かない。足の先がじんじんし、鼻にシワを寄せると固まったふうになる寒さも、日差しに霧氷がキラキラと綺麗なのも、ママさんダンプ(フェミニズム的によろしくない名前だな)に山盛り乗せると動かなくなるずっしりと湿った重い雪も、同じものがふたつとない軽い一片の雪のギザギザも、みんな知ってる。北海道は今頃すっぽり雪の中なんだろうなと、青い空を見ながら考える。近々札幌の家の雪かきに行こうとは思っている。

 札幌の家にはグランドピアノがあった。カワイのボストン。2階の踊り場のようなところにどんと鎮座していた。かつては子供らがピアノを習っていて、暇なしに弾かれていたが、住む人がいなくなってからは、たまに行くオットが楽しみに弾くくらいになっていた。"いい音で鳴るんだ。"と。吹き抜けがあるので、響きがいいらしい。

 私もかつて子供らと習ったりした事はあったものの、レッスンが辛くなかなか上達せずに終わってしまった。が、昨年あたりから弾きたい曲("ピアノレッスン"という映画のサントラの曲)があって、オットからのお下がりの電子ピアノで、練習を始めたらなんだか楽しくて、毎日弾いていたらするすると弾けるようになってしまった。そんな状態で昨年札幌の家に行った際、ピアノに触ってみると、あらまあなんて素敵な音でしょう!電子ピアノとは全然違う、"楽器!!"という感じ。楽しい。気持ちいい。

 東京に戻ってその旨興奮して話す私に、かねてから東京にピアノを運びたいと言っていたオットの瞳がキラリと・・・。その後いろいろ考え慎重に準備を進め(たつもりだったけど、いろいろ予想外の事もおきた・・・(遠い目))た後、今年一月、ピアノは映画のように波をかぶる事はなかったけれど、同じように海を渡って運ばれてきたのだった。

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 防音を施した新しい部屋にやっとこ収まったピアノを、さぞかしいい音がするだろうと初めて鳴らしたら、全く期待はずれのガサツな音でビックリした。北の地で静かに暮らしていたのに、都会に引きずり出してしまったのがいけなかったのか・・・。
 オットといろいろ検討し、調律師さんにも相談した結果、防音が効きすぎて響きが大き過ぎるらしい。吸音という事を考えなくてはいけない。カーテンや絨毯・家具が響きを抑えてくれるので、余ってた布でカーテンを作り、かつて作ったキルトをそこらに撒き散らす。絨毯も敷いてみた。日に日に音がなじんで、聴きやすく弾きやすくなっていて、一安心だ。

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 贅沢だとは思う。改装・移動のために雪だるま式にかかってしまった費用を、老後の資金として持っといた方が良かったんじゃね?という声も(自分の中から)聞こえてくる。だが、オットに一切の迷いはない。楽しそうにピアノ弾きまくっている。なにせ自室に、結構なオーディオセットと壁一面びっしりとCDを並べる音楽好きなのだ。ピアノも独学でそこそこ弾ける。私はその足元にも及ばないが、少しずつでもやればできるようになる!歳を取っていても!という事は、ピアノを弾くうち実感できたので、どんどん気を良くしてたくさんピアノと遊ぼうと思ってはいる。


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