ジョン万次郎の配信を見た話

劇団四季のファミリーミュージカル『ジョン万次郎の夢』を配信で観劇した。
ジョン万次郎も初めてなら配信でミュージカルを見るのも初めてである。何度か配信観劇の機会はあったが油断しているうちに購入期限が過ぎて出来ずじまいに終わっている。柿澤ハムレットの配信も買いそびれた。油断禁物、思い立ったら吉日なのだ。

『ジョン万次郎の夢』期間限定 オンデマンド配信|劇団四季 https://www.shiki.jp/navi/news/renewinfo/035976.html
↑10月まで販売しているので是非。2500円という破格のお値段で1週間見放題である。

今回の『ジョン万次郎の夢』は江戸末期に日本人で初めてアメリカに行き、日米の親交に尽力した万次郎という男の話だ。
よくこれをファミリーミュージカルでやろうとしたな、というのが見る前の素直な感想である。
確かに子供に伝えたい日本の偉人ではある。ドラマチックでもあるし、大志を抱き苦難を乗り越える少年漫画の主人公感もある。でも政治の話だよ?難しくない?子供向けにやるの?これを?と。
しかし分かりやすい言葉を使い、物語を万次郎がアメリカに渡り、もう一度アメリカに戻るところまでにフォーカスすることでちゃんと子供向けになっていた。
私が子供目線で見たら「人と誠実に向き合ってちゃんと学をつけるといいよ」という話として受け取ったかな、と思う。

ただこれ、大人向けに作り直したらそれはそれで物凄く面白くなりそうな予感がするのでちょっと試しに作って欲しい気持ちもある。試しで作れるもんなのか、ミュージカル。

演出は『クレイジー・フォー・ユー』と『李香蘭』のテイストが見え隠れする。おそらく浅利慶太氏の中に土台として、子供向け舞台演出のフォーマットがあり、その上に素材に合わせた大人向けミュージカルの手法を乗せているのだろう。小慣れたシーンが随所に挟まってくる。個人的に「上演した以上その手法は俺のものにしていくぜ」という気概が見え隠れする浅利氏の貪欲さはだいぶ好きだ。

とか言ってみたが調べたら『ジョン万〜』初演が1974年、『クレイジー〜』の初演は1992年だったので取り入れているように見えるのは思い過ごしかもしれない。いやでも絶対『クレイジー〜』のテイストはあると思う。初演から演出が変わっている?などと見ながら色々考えてしまう。その間にも配信は進んでいく。

開幕、ストーリーテラーとしてアメリカと日本のジャーナリストの女性をそれぞれコンビで出してあらすじ紹介してスタート。
最初に話の流れが分かるのと、このコンビたちのアメリカと日本の服装の違いから文化、時代的な背景を拾えるのは子供に分かりやすくていい手法だと思う。
このストーリーテラーの使い方に少し勿体なさを感じた。せっかくいいキャラなんだから話を流す装置としてもう少し随所に出てきてくれると全体的に面白味が増しそうな気がする。話の背景の説明が必要な場面がそこそこあるのでちょっと中弛みを感じるのだがそこでこの四人を使ってくれると緩和されそうだ。
まぁでもその中弛みは私が配信で見ているからかもしれない。やっぱり没入感は劇場で見るのと段違いである。

万次郎たちの乗った船が海に出て嵐に巻き込まれるシーンが凄い。装置も演出も照明も音響も全部噛み合っており、配信で見ていても臨場感がある。これは劇場で見て泣いた子供もいたのではないだろうか。それくらい迫力がある。
ここだけでなく場面転換の上手さ、装置の動かし方の噛み合いっぷりを見ると劇団四季はどんなに大きくても劇団だなぁと常々思う。昔学校や地元に来てお芝居を見せてくれた小劇団独特の家族的な連携、阿吽の呼吸を感じる。私はそういうところに温かみが出る舞台が好きだ。

温かみと言えば劇団四季のオリジナルミュージカルを見るたびに思うのだが、浅利慶太氏の演出のミュージカルは柔らかくて暖かい場面がとても上手だなぁと思う。子供が子供らしくいる部分の見せ方はとても愛らしくて見ている方も幸せな気持ちになる。
あと明るいシーン、今回でいえば2幕冒頭のお裁きのコミカルなシーンが好きだ。個人的にはああいう演出こそ浅利慶太氏の真骨頂だと思うのでもっとそういうとにかく明るいミュージカルを作って欲しかったなぁと常々思う。ガンバとか桃次郎のように唐突に仲間は死ななくていいのだ。

歌と芝居のパートがぶつ切りな印象があったのでそこはもう少し混ざるといいかなぁと思う。歌のイントロ、アウトロをもう少し前後の芝居にかけるだけでも印象が変わりそうな気がする。しかしこれも配信で見ているが故の感想かもしれない。全ては没入できてないのが悪いのかもしれない。

というか全体的にナンバーが少ない。そしてナンバーが少ないのでダンスも少ない気がする。こんなもんなのか?こんなもんなのか。
三木たかし氏の子供の耳に馴染む曲が好きなので少し残念だ。

なるほどと思ったところではジョン万次郎を主役にすると福沢諭吉と勝海舟と島津斉彬がサブキャラになるのか、というところだ。豪華サブキャラである。スピンオフがいくらでも作れる。

話の帰結が船はじまり、船終わり、食糧難はじまり、飲み物問題終わりなのが綺麗だなと思った。

土佐弁が出てきたが、四季は方言を出すときにリアルに寄りすぎて何を言っているのか全然分からない時があるのだが、今回は聞き取りやすく、会話の内容も分かるので良かった。土佐弁が標準語に近いのか、指導の方が標準語に寄せてくれたのかはちょっと分からない。でも聞き取りやすくて良かった。

さて、1週間見放題なのでもう一度見ようと思う。


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