見出し画像

2_1『要塞都市LA』

マイク・ディヴィス / 村山 敏勝 訳 / 青土社 / 2001年

最初に読んだのは1990年代末。拙著の『終わりの建築/始まりの建築』(INAX出版、2001年)や『戦争と建築』(晶文社、2003年)で触れ、『過防備都市』(中公新書ラクレ、2004年)でも影響を受けたが、2001年に邦訳されてからもう20年近くになるのか、と改めて驚いたのが、マイク・ディヴィスの『要塞都市LA』(青土社、2001年増補版2008年)である。肉体労働を経て、大学で学んだ左翼系のアクティヴィストの著者が、もはや都市は見えない戦場になっていることを論じたものだ。具体的には、ゲーテッド・コミュニティ、ホームレスを排除する公共空間、セキュリティ意識への強迫観念、空間のアパルトヘイト化などを扱う。「近代」が終焉し、人々が自由を失う、実現されたディストピア。現在、グローバリズムに対する思わぬ伏兵となった新型コロナ・ウィルスは、都市の封鎖をうながし、あらゆる人間があらゆる人間に対する感染源=敵になりうる想定外の状況をもたらした。が、そこには既存の格差社会も当然反映されるわけで、『要塞都市LA』の問題提起が無効になったわけではない。むしろ、先駆的な問いかけが、バージョン・アップされる近未来への対策を想像すべきだろう。
ちなみに、ディヴィスは『感染爆発 鳥インフルエンザの脅威』(紀伊國屋書店、2006年)も執筆している。

---------------------
推薦者:五十嵐太郎(東北大学大学院教授)
1967年生まれ。建築史・建築批評家。1992年、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。現在、東北大学大学院教授。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞、2018年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。
あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。「インポッシブル・アーキテクチャー」「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」などの展覧会を監修。
『モダニズム崩壊後の建築ー1968年以降の転回と思想ー』(青土社)ほか著書多数。 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?