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神様みたいな、ひとに出会った。

りょうじさんに会った。りょうじさんは私が去年島で出会った旅人。繋がりを感じている人。半年ぶりに昨日、会った。

私は最近自分の気が落ちていると感じていた。やる気が出なくて仕事で誰の役にも立ててないような気持ち。好きな仕事なはずなのに。悩み、そして葛藤。外は清々しいくらいにいい天気で真っ青な空が広がっているのに自分の心は正反対に鬱屈している。いっそ、五月病といって片づけられたらいいのに、身体にも症状が出ている。蕁麻疹で痒みが止まらない。ひさびさに自転車で転んで怪我もした。嫌なことが狙ったように重なる。それから10日ほど経つのに傷もなかなか治らない。

叫びたいのに叫べない。苦しいのになんで苦しいのかよくわからない。言葉に、ならない。自分は恵まれた環境にいるのに。自ら望んだ暮らしをしているのに、なんで?なんで苦しいの?なんでそんなに私は暗い表情をしているの?わからない。自分の気持ちが、わからない。どうしたらいいか、わからない。


こんな状態だったから、今回ひさびさに本土に来たけど誰にも会いたくないと思った。いつも島外に出たら友達に必ず会う。今回も会いたい人はたくさんいた。でも誘うことができなかった。今会ったら自分の負のオーラを渡してしまいそうで、こんな自分を見せたくなかった。
でも1人だけ、りょうじさんなら会えそう、と思った。りょうじさんならきっと。なにか。そう思った。


連絡を取ったら夜会えるとのこと。いざ会うとなるとやっぱり緊張する。でもいつもの私っぽいモードで楽しそうに挨拶をした。

うん、いつもの調子だ、話せる。会話できる。大丈夫。

お店に入った。生ビールがやってきた。
「島はどう?最近。インスタ見る感じ楽しそうにやってそうじゃん。」
そう聞かれた。

「暮らしは楽しいです、空気も美味しいし海も近いし。今度町のみんなで大会もあるし」
「仕事はピンときてなくてこの先悩み中。面白そうなことやってる人たちたくさんいるし。最近は、和食、日本酒。そんな日本の文化が好きだからそれを発信してる人たちにとても惹かれる」

違う。なんか違う。そうだけど、違う。私が伝えたいのはこういうことじゃない。聞いてほしいのはそこじゃない。暗闇が覆い被さってきて空回りする言葉たち。

心がぎゅっと縮んで張り詰めていく。そして絞り出すように言葉を重ねた。

「何がしたいかわからない。これからどうすればいいかもわからない。なんでこんなに気が落ちているのかもわからない。今回も人に会うか悩んだ。でもりょうじさんなら、会えると、思いました。」

そんなことをぽつり、ぽつり。

りょうじさんは真っ直ぐ私をみてこう語った。(以下私のことをaちゃんと名乗ります)

本当に苦しい時は言葉にならないんだよ。大丈夫。なんで苦しいのか自分ではわからないもの。それに説明できるくらいだったらもう解決してる。

aちゃんに向き合って、その言葉にならない声を聴こうとする人が現れてはじめてそれは言葉として出てくる。これまで、伝えたいのに伝えられないのは苦しかったよね。それはaちゃんの責任じゃない。ただ、そういう人が現れなかっただけ。


りょうじさんの言葉が私の胸にまっすぐに響いてくる。太鼓の音を聞いた時のような鼓動を感じる。
なんで、りょうじさんの言葉はなんでこんなにも優しい響きを持って心に訴えかけてくるのか。なんでですか?と問うとりょうじさんはこう言った。

それはね、俺がaちゃんの心に語りかけてるから。でもそれ以上に、その言葉の聴き手であるaちゃん自身が聴こうとしているからそう感じるんだよ。俺の言葉が響かない人ももちろんいるから。でも今aちゃんが聴きたいと思ってるから聴こえるんだよ。

ーー星の王子さまを、思い出した。

aちゃんは、苦しいっていってるその心に対して無理に自分は今良い環境にいるからそんなはずないって思おうとした。でもそれは心を無視することだよ。確かに世界中自分より苦しい思いをしてるひとはたくさんいるかもしれない。でもそれは関係なくて、苦しい時はただ苦しいって自分の心にまっすぐ向き合ってあげることが大事だよ。


あぁ、いつのまに私はありのままで生きられなくなったんだろう。
考えてみれば大人になるにつれて、気遣いとか、こういったら喜んでもらえるとか、そんな余計な考えに振り回されて、自分の心がどうしたいかよりも他人を優先させることが増えていった気がする。幼稚園くらいまでは毎日心のままに生きていたはずなのに。
学校に入り周囲の目が気になって仕方なくなって、自分に自信がなくなって人との会話に気を遣うようになって。そうして自分の心をまっすぐ見るよりも他人の心を読むことを優先するようになった。人前が大の苦手でできるだけ目立たないようにしていた。

それに、伝えるのが苦手だしどうせ伝えても理解してもらえないかもしれない。私の言葉には力がない。そんな風に自分に自信がなくて仕方なかった。

だから、伝えたくても伝えられない、誰かに自分の苦しさを聞いてもらいたくてもうまく言葉にならない。これまでも、そんな経験はいっぱいあった。

社会人3年目のこと。当時上司に、自分がキャパオーバーになっていることを相談した。結論上司からは「じゃあ目標数減らそうか」という解決策を提示された。でも私はそんなこと望んでなかった。解決策が欲しいわけじゃない。ただ、この苦しさを理解してもらいたかった。でもうまく伝えられなかったし、伝わらなかった。

これを書いてる今も当時の記憶と感情が蘇って涙が出てくる。

りょうじさんは言った。
自分でも腹立たしいって伝えたかったんだよね。役に立ちたいと思ってでも期待に応えられなくて悔しいって。ちゃんと成果を出したいと思って一生懸命やってるのにできないのがもどかしいって。

そう、私はそう伝えたかった。ただ、そう伝えたかったの。なんでりょうじさんはこんなにも私が言いたかった言葉をわかってくれるんだろう。


もし上司にうまくその感情を伝えられていたとしたらきっとその上司はこう言うだろう。「一生懸命やる方向を間違えてるだけだよ。一緒にどこを変えたらいいか考えよう」まさにデキル上司。

そんな上司だから、尊敬してもいたとりょうじさんに言った。
そしたらりょうじさんは言った。

どういうところを尊敬していたの?頭がキレて仕事ができることは確かにすごいかもしれない。でも相談してきた部下の気持ちを理解してやれないひとは仕事できる人間だとしても俺は人として立派だとは思わない。

aちゃんは優しいから。尊敬する上司だと思うことで筋を通して上司の言うことを理解しようとしたんだよ。でも本当に人として尊敬できる上司ならきっとaちゃんの気持ちに気づくことができるはず。そして、「結果や実績なんて今はどうでもいい。今はお前が気持ちよく働ける環境の方がよっぽど大事だ!一緒に考えよう」って、そう言ってくれる上司の方がよっぽどいいじゃん。

辛かったね。そんなチグハグな環境でなんとか自分を納得させて折り合いをつけて頑張ってきたんだもんね。そら辛いよ。辛くて当たり前。

涙が、止まらない。いろんな感情がぶわっと押し寄せる。りょうじさんの優しい言葉が頭の中でこだまする。なんで、こんなに、優しい言葉をくれるの。なんで、こんなに、私の気持ちを代弁してくれるの。
そう。私は辛かった。私はそんな言葉をくれる上司に出会いたかった。そんな風に私の心にまっすぐ話しかけてくれる人と出会いたかった。


ひとは1人では生きていけないんだよ。もっとひとに頼って、いいんだよ。

りょうじさんが言うこの言葉ではじめて、その意味がわかった。

苦しい時に必要な言葉をくれるひと。心で会話できるひと。そんな人と出会えたらどんなに幸せだろうか。そういう人に出会うと心が震える。心が震えると、すこん、といらない自分が抜け落ちてゼロになる。ゼロになって剝き身の心になれる。またイチから世界を吸収していく。

私はそういう人に出会いたかっただけなのかもそれない。環境を変えようとか、自分のやりたい仕事を見つけようとか、とにかく気持ちが外に向いてしょうがなかったのは、心と心で通じ合えるひと探しをしたかったのかもしれない。もちろん、島には大好きな人たちがたくさんいる。いつもお世話になってる人たちもたくさん。みなさん優しくて素敵な人たち。同世代の子たちも優しい子ばかりだ。だけど、私の本当の想いを伝えられる人は見つけられないままだ。ありのままの本当の私を表現できないまま、気づいたら私は私の本当の想いに蓋をしてしまっていた。

また、りょうじさんはこうも言ってくれた。

無理に今自分がやるべきことや向かう方向性を定めようとしなくていい。何をやっているのか、どこで生きているのか、そんなことはむしろ何でもいい。
一番大切なことは、自分の心に正直に、自然体で生きること。そうすれば人は自然と輝けるから。

張り詰めた心が解けていくのを感じた。

私はきっとこれから、心と心で通じあえるひとに出会う旅をする。これまでも、深く悩んではその度に涙が出るほどの愛ある言葉をかけてくれる素敵な人たちに出会ってきた。きっとこんな人たちに出会うためにこの先もたくさん私は悩んだり苦しんだりするんだろう。

心が、魂がひさびさに、震えた。
夜行バスの時間がせまる。涙は最後まで止まらなかった。りょうじさんと別れのハグをして、バスに乗った。

神様のような、人だった。その言葉はまるで地球で彷徨う私に神様がくれた贈り物のよう。
本当に必要としていたタイミングで現れた人だった。ハリーポッターの必要の部屋のごとく。

この胸にひろがる温かさを忘れない。
そしてその人がくれた言葉を胸に刻んで今日からまた新たに一歩ずつ、進んでいきたい。
また、会いにきます。

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