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金融所得の税率上げ議論へ 政府、一律引き上げや累進案

 政府は金融所得課税の見直しを年末の2022年度税制改正で議論する方針だ。

 現在20%の税率を一律で引き上げる案や、高所得者の負担が重くなるよう累進的に課税する案を検討する。

 ただ、日本は米欧に比べて富裕層への富の偏りが小さく、家計が保有する金融資産も株式などは少ない。

 税収増が限られるにもかかわらず、政府が進める「貯蓄から投資」に水を差しかねない。

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 岸田文雄首相が金融所得課税の見直しを「選択肢の一つ」と語り、検討の意向を示したことを踏まえ、政府は自民、公明両党と内容を詰める。

 高所得者の税負担を重くしたり、その税収を中間層に配分したりして「成長と分配の好循環」につなげることを想定する。 

 株式の配当や売買にかかる金融所得課税は一律20%(所得税15%、住民税5%)だ。

 2019年度は配当にかかる税収が国税分で4.9兆円、株式譲渡で0.7兆円あった。

 日銀の統計では家計が持つ株式や投資信託、債券などは2021年6月末で計326兆円ある。

 証券保管振替機構によると20年度末時点で、上場株式を保有する個人投資家は1407万人いる。

 ポイントとなるのは「1億円の壁」と呼ばれる課題の是正だ。

 首相はこの壁を「打破する」と主張してきた。

 給与所得には累進制で住民税も含めて最大55%の税率がかかるが、金融所得は一律20%だ。

 富裕層は金融所得を多く持つ傾向があり、年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる。

 2019年時点では、所得が5000万円超~1億円の層の所得税負担率は27.9%だった。

 1億円を超えると徐々に下がり、10億円超~20億円だと20.6%、100億円超だと16.2%になる。

 見直す手法は税率の一律の引き上げと、金融所得の額に応じて税率に差をつける案が考えられる。

 財務省内には仮に税率を一律5%引き上げた場合は数千億円の税収増になるとの見方がある。

 一律の場合、首相が重視する中間層にも影響が及び分配の効果は薄れる。

 少額投資非課税制度(NISA)などがあり、財務省は個人投資家には影響が出にくいとみる。

 累進制は金融所得の多い富裕層に絞ることができるが、増える税収分が小さくなる。

 自民党の高市早苗政調会長は「50万円以上の金融所得の税率を30%に引き上げれば約3000億円の税収増になる」との見方を示したことがある。

 累進制だと影響を受ける人は限定される。

 2000万円超の給与があるなど、確定申告して所得税を納めたのは2019年に約630万人いた。

 うち1億円超の所得の納税者は約2万人にとどまる。

 「1億円の壁」を是正する累進制の見直しなら対象は絞ることができる。


市場への影響、見極めが必要に

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 政府は経済や市場への影響を見極めながら慎重に議論を進める構えだ。

 金融業界や市場は金融所得課税の見直しに身構えている。

 ニッセイアセットマネジメントの松波俊哉チーフ・アナリストは「税率が引き上げられれば短期的には株価に影響する可能性が高い」と話す。
 上場株式の売却益などの税率は、民主党政権時の2010年末に10%から20%への引き上げを決めた。

 2014年1月の引き上げ当初1カ月間では、日経平均株価が1万6000円台から一時的に1万4000円を割るまで下落した。

 専門家は「税率の引き上げが一因になった」との見方を示す。
 米欧では富裕層への課税強化の議論が進む。

 新型コロナウイルス下で格差がいっそう拡大したと懸念されているのに加え、コロナ対策での巨額の財政出動の財源を確保する必要があるからだ。
 米バイデン政権は富裕層の株式などの譲渡益(キャピタルゲイン)の最高税率を20%から上げる案を検討している。

 英国は株式からの配当収入などに課す税率が段階的に10%、20%となっているが、それぞれ上げる方針だ。
 ただ、もともと日本は先進国の中でも富の偏りが大きくない。

 経済協力開発機構(OECD)によると、上位1%の富裕層が持つ国内の資産に占める割合は米国が42%、英国は20%だが、日本は11%にとどまる。
 日本では家計に占める株式・投信・債券などの割合も16%弱にとどまる。 

 米国は55%強を占めており、増税効果も日本は限定的とみられる。

 約2000兆円ある日本の家計の資産のうち、半分は現預金となっており「貯蓄から投資へ」の流れを促してきた。

 税率引き上げによる税収増の効果と、市場への影響などを冷静に見極めて判断する必要がある。



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