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日本のマネーロンダリング(資金洗浄)防止、国際社会で不合格

 「お金に色なんて付いていない」。
額に汗して手にしたものも、誰かからだまし取って得たものも、お金はお金ですね。
 日本社会にこんな感覚が、はびこっている訳ではないでしょう。
 日本のマネーロンダリング(資金洗浄)防止の取り組みが、国際社会で合格点をとれないままで、マネロンやテロ資金対策を担う国際組織、金融活動作業部会(FATF、事務局・パリ)が8月末に公表した審査の結果で、日本の総合的な評価は3段階で2番目の「重点フォローアップ国」となりました。
 FATFには39カ国・地域が加盟しており、8月末時点で審査が終わって結果が公表されたのは29の国と地域だそうです。
 日本は最低ランクの「観察対象国」ではなく、米国やカナダ、中国などと同じ位置づけではあるようです。
 だが法改正が必要となる見直しを求められるなど、課題は多くFATFはこれまでも日本に厳しい姿勢を示しており、改善に手間取れば、金融機関の海外での活動に影響が出る懸念も生じています。

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1.2014年には名指しで異例の指摘受ける
 FATFの対日審査は過去に3回行われ、1998年の報告書では、日本は「効果的な対策は取られていない」とされ、2008年の前回3次審査では半分以上の項目が「一部不履行」か「不履行」、さらにその後も改善がなされていないとして、2014年に日本は名指しで異例の指摘を受け、「マネロン(資金洗浄)に甘い国」とのイメージが国際社会で定着したようです。
 日本政府はこれまで段階的に、マネロン(資金洗浄)が疑われる取引を報告させる制度を創設・拡充し、口座開設時に本人確認を徹底したり、テロ資金の提供を禁じたりする法律などを制定し、FATFなどの勧告や指摘などに従い、対策の穴をふさぐ対応に追われてきました。
今回の審査では、
▽中小金融機関による継続的な顧客管理や、法人の実質的支配者の確認が不十分
▽NPOがテロ組織などに悪用されるおそれがある

マネロン(資金洗浄)を罰する法律の
 適用範囲が狭く、法定刑が軽い――などが問題点として指摘されました。
 日本の資金洗浄対策が緩いとされる背景にあるのは、社会全体の関心や危機感の薄さであり、それは日本が欧米ほどには、国際的な組織犯罪やテロの脅威にさらされていないことと表裏の関係にあるといって良いでしょう。
もちろん日本にも暴力団のような反社会的な組織は存在するし、地下鉄サリン事件のようなテロも起きています。
 だが欧米諸国に比べれば、国際テロに巻き込まれるおそれは高くはないが、組織犯罪の典型といえる薬物汚染や銃器犯罪の情勢を見ても、他国のような強い危機感を抱く状況ほどではないということです。
汚れたお金が隠され、ロンダリング(洗浄)され、めぐりめぐって社会に大きな害をなすのである。
 日本は良くも悪くも、そんな懸念を欧米ほどには抱かずにここまでこれたのは金融機関も顧客も、捜査機関も裁判所にとっても同じことであったろうという見解である。
 「重大な犯罪」といえば、日本人の多くは血が流れる事件を想像するのではないだろうか?。
だが米国では何より、マフィアとお金がからんだ事件のことを指しており、日本の警察の捜査に協力した経験を持つ米国の検事は「組織犯罪につながる不透明なカネの流れを見つけ、それを防ぐことが、米国ではあらゆる捜査における最優先課題になる」と話しています。
2.資金洗浄の概念自体が「輸入もの」
 日本にとっては、そもそも資金洗浄という概念自体、海外から「輸入」されたものです。
 米国では1970年代に問題化し、86年に行為そのものを犯罪化したが、日本で薬物についてマネロン(資金洗浄)を取り締まる法律が施行されたのは、1992年のことで、犯罪として位置づける議論の過程では、「泥棒が他人の家からカネを盗むのは犯罪だが、盗んだカネを土の中に埋めて隠すのが新たな犯罪という考え方には違和感がある」という受け止めもあったようです。
 欧米諸国はマネロン(資金洗浄)が疑われる取引の情報を集約・分析し、各国と情報交換するための金融情報機関(FIU)を90年ごろから整備していたが、日本がFIUにあたる特定金融情報室を当時の金融監督庁に発足(その後、警察庁に移管)させたのは2000年である。
 欧米で対策が進む→比較的問題化していない日本の遅れが目立つ→「外圧」を受け日本も整備を進め、こうした図式はマネロン(資金洗浄)に限らないことです。
 たとえば国際組織犯罪防止条約を締結する必要から、各国に遅れて「共謀罪」を創設したのも同じような流れといえるでしょう。
 日本で取り締まりが緩かった談合カルテル(企業連合)や、インサイダー(内部商法流出)取引などの証券犯罪も、海外の厳罰化を追う形で対策が強化されてきました。
 こうした制度の拡充にともない、「自首」した企業が課徴金を減免されたり刑事告発を免れたりするリーニエンシー(公正取引委員会に対し、違反事実を申請・報告したときは、課徴金の免除・減額が認められる制度)や、通信傍受日本版司法取引といった国際標準の調査・捜査のツールも導入されました。
 国内の治安情勢や必要性ではなく、国際的な要請で制度改正の議論が進むと、ときに論点がずれたり、いたずらに議論が拡大したりすることもあり、FATFの審査をめぐっても「ランク付けに、どの程度の信頼性があるのか」といった声があがっています。
 しかし経済・金融から犯罪までが高度に国際化するなかで、国内のことだけを意識した一国治安主義が成り立つ時代はとうに過ぎており、直接、自国に被害が及ばなくても、日本の制度が甘ければ、それが国際的な犯罪やテロの抜け穴として悪用されることも考えられます。

 特にマネロン(資金洗浄)については暗号資産(仮想通貨)やスマホ決済などの普及で、手口の一層の複雑化、巧妙化が想定されています。

 海外からの留学生らが帰国する際に口座を転売したり、特殊詐欺で被害者からだまし取ったカネが偽名や仮名口座に入金されたりする問題も目立っており、欧米並みに危機意識を高める必要があります。

 国際的な共同対処や共同捜査などの場面で共通の土台に立てないといった事態も懸念され、国際標準は採り入れざるを得なだろう。

 サイバー攻撃をめぐる対応などでも、今後同じような局面が想定される。



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