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「財政再建に逆行」 辛口財務次官、自らつけた最低評価

 「C」(目標に向かっていない)――。

 財務省が6月末に公表した2020年度の政策の実績評価で、「財政」の項目は5段階で最も低い評価だった。

 02年に各省庁が施策を自己評価する政策評価制度が施行されてから、この項目で同省が最低ランクを付けたのは初めて。

 全省庁を見渡しても、最低評価は20年度は3件と全体の1%ほどだ。

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 財務省の政策の根幹ともいえる財政健全化に関する項目で辛口の評価を下したのは当時、予算編成を取り仕切る主計局長で7月に事務方トップの次官に就いた矢野康治氏だった。

 財務省きっての財政再建論者で、歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで時の政権幹部にも食ってかかる「ほえる官僚」として知られる。

 部下から上がってきた評価は「B」(進展が大きくない)だったが「どう考えても字面上、B以上はあり得ない」と矢野氏がCに修正した。

 有識者の意見を聞く政策評価懇談会では「危機感が表れている非常に重要なメッセージだ」と評価する意見が出た。

 矢野氏は「自虐的でも、ウケを狙ったわけでも、危機意識を表明したかったわけでもない。自分で最低の評価を付けざるを得なかった」と強調した。

 たしかに20年度の予算編成は新型コロナウイルスへの対応で財政健全化とは程遠い内容になった。

 3度の補正予算を含めた総額は175.7兆円に膨らみ、新規の国債発行額も決算ベースで過去最大の108.6兆円に達した。

 右肩上がりで急増する歳出と、さほど増えない税収の2本の折れ線グラフは「ワニの口」に例えられる。

 コロナ対応でやむを得ない面があるものの、20年度は歳出の急拡大で「上アゴが外れた」ともいわれる。

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 ワニの口の名付け親は矢野氏とされる。

 1990年代後半、主税局の課長補佐時代に、円や棒、折れ線など様々なグラフを組み合わせて説明資料を作る際に区別を付けやすくするために表現したものがいつの間にか定着した。

 矢野氏が次官になったのは皮肉にも、ワニの口を崩すほど財政の悪化が進んだ時期と重なった。

 財務省が掲げる財政健全化は旗色が悪い。

 2012年に安倍晋三氏が首相に就任して以降、「経済最優先」を掲げて積極的な財政出動を継続した。

 経済産業省出身者が政権の中枢を担い、財務省は遠ざけられた。

 自民党の中堅・若手議員からも「財務省の財政政策は間違っている」「どんどん国債を発行して財政出動すべきだ」といった声が公然と出る。

 学校法人「森友学園」問題に関する公文書改ざんなどの不祥事が追い打ちをかけ、組織への国民の信頼も揺らいだ。

 菅義偉政権に代わってからも存在感を取り戻したとは言いがたい。

 中堅・若手の職員には「自分たちの主張が政治や国民に響かなくなっている」「精神論で財政健全化を唱えるだけではダメだ」との危機感がある。

 衆院選をにらんで足元で歳出圧力は高まる。

 17日告示の自民党総裁選の出馬予定者からも数十兆円規模の経済対策や大胆な財政出動を求める主張が相次ぐ。

 衆院選後には22年度予算案の編成が本格化し、経済対策の裏付けとなる補正予算も組む可能性がある。

 矢野次官の体制下で取り組む最初の大仕事となる。

 財政健全化の「自己評価」の回復に向けてファイティングポーズを取りつつ、新たな政権との間合いをはかるという難題が待ち受ける。

 矢野康治氏が、これからどのような財政再建案を政府に挙げ、どのような成果を出すのかが、非常に興味がある。




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