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連携でマネロン包囲網、電力データ活用 共同で不正検知

 マネーロンダリング(資金洗浄)対策の強化に向けた連携が加速してきました。

 金融機関は口座の所有者の所在を追跡するため電力会社のデータを活用するほか、不正取引を検知するシステムの共同開発も進めています。

 貴金属業界も海外製品の買い取りをやめるなど厳格化に動き、実質不合格となった国際審査の結果を受け、対策の高度化を急いでいます。

 国際組織「金融活動作業部会」(FATF)が8月30日に公表した対日審査の結果は、日常的に顧客の取引実態などを把握する「継続的顧客管理」の不備を指摘するもので、預金口座をつくる「入り口」だけでなく、その後の取引内容や口座を使っている人が名義人本人か継続的にチェックするよう求めています。

 各金融機関はまず、口座保有者の所在確認を進め、口座開設時に登録した住所に住んでいるか確かめるのが目的です。

 現在は登録住所に郵送したはがきの返送の有無で把握しており、ただ、この手法では郵送代がかさむほか、データ入力の手間もかかります。

 空き家の増加で郵送の「無駄撃ち」となるケースも増加傾向にあると言われており、そこで、一部の地方銀行やインターネット銀行はマネロン対策の効率化のために、デジタル技術を活用する検討を始めました。

 実証実験を通じて規制緩和につなげる政府の「規制のサンドボックス制度」で2019年に、電力設備の稼働状況に関わるデータの活用を認可したことが背景にあり、銀行が電力会社に照会をかけることで、口座保有者の情報更新に役立てることは適法とする見解が事業者に示されました。

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 電力会社と銀行のそれぞれのシステムを「API」と呼ぶ仕組みでつなげば、定期的な所在確認にかかる手間やコストを大幅に減らせる可能性があります。

 一例として、銀行に登録された住所が電力設備が稼働していない住所だと把握できれば、ひもづく口座を重点的に監視し、不審なお金の動きを早期に察知することにもつながります。

 不審な取引を事前検知するため、金融機関が共同で参加するシステムの開発も進み、各行が取引明細や顧客属性に関する大量のデータを人工知能(AI)に読み込ませる仕組みで、不正が疑われると判断した取引を行員が詳細に分析するが、全国銀行協会やNECなどが3月まで実証実験をしており、実用化に向けた検討を進めています。

 金融庁は10月にも個人情報の扱いを含めた制度を整備するため作業部会を設置しています。

 自社でのシステム整備に限界がある地銀などに活用を促す見通しです。

 FATFによる指摘は金融機関にとどまらない。

 古物商や弁護士など金融機関以外の対策も不十分だと指摘し、急速に利用者が広がるフリーマーケットアプリでは、犯罪者が不正に入手したクレジットカードからお金を抜き出すために、出品者と入札者の双方になりすまして出品から落札まで瞬時に実行する不正利用があります。

 フリマアプリ大手のメルカリでは、アカウント作成時や決済時の本人確認を厳しくするとともに、不審な動きを繰り返す利用者が使ったIPアドレスを割り出して取引を止める仕組みを従前より導入しています。

 「24時間、常時監視する仕組みを整え、被害を未然に防ぐようにしている」。

 高価で持ち運びしやすい貴金属や宝石もマネロンに悪用されるケースが多く、近年は密輸対策などから海外製の金地金などの買い取りをとりやめる貴金属店も増えており、大手の石福金属興業(東京)は2018年から、海外製の貴金属地金の買い取りを一律でやめ、現在も海外製の買い取りを続けている別の貴金属大手も、入手した場所が分かる書類の提示を求めるなど本人確認を厳しくしています。

 マネロン対策への国際的な視線は厳しさを増しているが、テロを身近に感じにくい日本では口座凍結などの強い対策を打ち出しにくいのが実態です。

 対策が遅れれば日本の金融機関の国際的な信用は低下し、海外での取引の制約にもつながりかねないです。

 政府は省庁横断でマネロン対策を強化するためのチームを設け、量刑の厳罰化などの検討を進め、民間が実効的な対策を打つのを阻んでいる慣行や制度を洗い出したうえで手を打つ必要があります。






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