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円安効果に「3つの制約」  20年ぶり安値に警戒感

20年ぶり安値となる1ドル=134円台まで急ピッチで下落した円安に警戒感が広がっています。
かつて輸出増などで日本経済の追い風とされてきたが、現在はインバウンド(訪日外国人)の減少や資源高で円安のメリットを享受しにくい環境になっているためです。
政府が経済対策をしっかり行えていなかったせいで、遂に円安が国内総生産(GDP)にマイナスに影響するとの分析も出始めました。

円相場は1月に付けた113円台半ばから20円以上も下落しました。
年間の値幅としては既に2016年以来、6年ぶりの大きさだで、世界の中央銀行が金融を引き締めているのに対し、日銀が大規模な金融緩和を続けている影響が大きいとみられます。
円安は長年、日本経済にプラスの影響を与えるとされてきたが、製造業が強い日本では円安で輸出品の競争力が増し、サービス業などの非製造業も訪日客が日本で消費を増やすというメリットがありました。
ただ、現状では円安がGDPを押し下げるという分析が出始めています。
大和総研によると、22年1~3月期(116.2円)から10%円安が進んだ場合、2022年度の実質GDPは0.05%押し下げられ、円安による輸出金額の増加などの押し上げ効果よりも、輸入価格の上昇によるマイナス影響の方が大きいためです。
これは、大和総研が言わずとも想定出来たことではないでしょうか?
大和総研が試算の前提にした10%安の水準は127~128円程度で、足元の円相場はそれを大きく下回り、現状の日本経済が抱える「3つの制約」が円安効果を減らしている状況になっています。

1つめはインバウンドで、政府は10日からインバウンドの受け入れを再開するにあたって、通常であれば円安で相対的に安くなった商品は外国人から買われやすくなり、ドル建てで同額の消費でも円ベースでは大きくなります。ただ1日の入国者数は2万人に限られ、添乗員付きツアーに限定されています。
新型コロナウイルス前は単純計算で1日9万人近くが日本を訪れていました。
「ゼロコロナ政策」を続ける中国からの観光客も望みづらい状況です。
中国からの潜在的なインバウンド消費額は年2.6兆円と2019年の1.8兆円より大きく、政府の経済財政諮問会議の民間議員も訪日客が19年の水準に戻れば経常収支が年2.5兆円改善すると試算しており、自由な往来が解禁されれば大きな経済効果が見込めると考えています。

2つ目は設備投資になり、円安だと製造業の海外収益の円換算値が膨らみ設備投資の余力が高まるはずだが、内閣府によると1~3月期は0.7%減りました。
資源価格の高騰や供給制約による先行き不透明感があり、企業は積極的な設備投資に動きづらく、今後の投資計画を見直すにも時間がかかるでしょう。

3つ目は輸出であり、価格変化の影響を除いた輸出数量を示す実質輸出は横ばい圏で推移しています。
2022年4月はコロナ前の2019年4月に比べて小幅に減少しています。
リーマン・ショック以降の円高局面で製造拠点が海外に移った影響が大きく、輸出額は8兆円を超え単月として過去最高水準だが、円安を受けて円でみた価格が押し上げられただけとも言えるでしょう。
既に製造業は世界の消費地の近くに供給網を構築しており、円安でも日本に拠点を戻す動きは出にくいとの見方もあります。
円安の負の側面は増しており、4月の輸入物価指数は円ベースで前年同月比44.6%上昇し、契約通貨ベースの29.7%を大きく上回っています。
円安による輸入物価の押し上げは3割に達し、値上げの波はエネルギーや食品、耐久財などに裾野が広がりつつあります。
日銀の黒田東彦総裁は、「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言したところ、批判が集まり撤回に追いやられました。
賃金上昇がないままで円安による輸入価格の上昇が続けば、GDPの半分を占める個人消費が落ち込み、日本経済にはさらなる逆風になりかねないことは、すぐにわかるはずなのだが…。



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