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病院や高齢者施設の面会、条件付きでそろり緩和

はじめに

 新型コロナウイルスのワクチン接種などを条件に、医療機関や高齢者施設で患者・入所者と家族の面会制限を緩める動きが一部で出始めた。

 接種率が向上し、感染状況が落ち着きをみせていることを踏まえた対応だ。

 感染による重症化リスクの高い患者らを抱えるため、接種証明や人数、時間の制約は残り、なお面会を禁じたままの施設も少なくない。

 コロナ下で家族の交流をどう実現するか、模索が始まっている。

 「お母さん、元気ですか?」「しっかりご飯食べてる?」

 11日、特定医療法人「仁悠会」吉川病院(堺市)を訪れた谷栄さん(65)は、ベッドに横たわる母(97)の手を握って語りかけた。

 久しぶりの面会だけに、「顔を見てほっとした」とほほ笑んだ。

 同病院は約90床ある総合病院で、感染拡大に伴い面会を全面的に禁止するなど、厳しい対応を取ってきた。

 緊急事態宣言の解除を受け、「直接顔を見たい」との家族からの要望も踏まえ、10月中旬から条件付きで面会制限を本格的に緩和した。

 具体的には▽ワクチンを2回接種した人に病院独自の「ワクチンパスポート」を発行して面会の際に提示してもらう。

▽時間は1日15分間▽人数は1人に限る――を条件に面会できるようにした。

 病院担当者は「家族らの要望を何とかかなえられないかと検討を続け、今の仕組みを作ることになった。

 面会できると、患者さんは本当に喜ぶ」と説明する。

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 高齢者や障害者向け施設を複数運営する社会福祉法人「中川会」(奈良市)も10月から、ワクチンの2回接種を条件に、時間を1時間に限定して居室内の面会を再開。

 東京都江東区で特別養護老人ホームを4カ所運営する社会福祉法人「あそか会」も、10月中旬から順次、発熱の症状がないことなどを条件に対面での面会を許可した。

 厚生労働省も近く、接種や検査での陰性判明を条件に、老人ホームなど介護施設の入所者が家族らと直接対面で面会できるよう全国の施設に検討を求める方針だ。

 こうした動きは、ワクチン接種率の高まりや感染状況の落ち着きを踏まえたものだ。

 足元の国内のワクチン2回目接種率は7割を超え、65歳以上では約9割に達する。

 全国の1日当たりの新規感染者も低水準で推移している。

 加えて大きいのは、家族らの強い要望だ。交流の機会が限られることで、認知症の進行など高齢の入院患者や入所者の心身に影響が出ているとの指摘もある。

 広島大などが全国の介護・医療系の施設を対象に2020年に実施した調査では、約4割が面会制限などによって認知症患者の状態に影響が出たと回答した。

 認知機能や興味・関心の低下、歩行機能の弱まりが見られたという。

 ただ、全国に約40ある国立大学病院のホームページによると、15日時点でおよそ9割が面会を原則禁止としており、現状で制限を緩和している病院や施設は一部に限られるとみられる。

 高齢者や病気を抱える患者が感染すれば重症化する可能性が高く、ウイルスの侵入をできる限り防ぐ必要があるためだ。

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 厚労省によると、国内では11月上旬までに約1万2000件のクラスター(感染者集団)が発生し、このうち医療機関と高齢者施設が約3割を占めた。

 診察や介助で患者とスタッフが密着する場面が多いなど、感染が広がりやすい事情がある。

 関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は「面会制限は感染状況に応じて緩和すべきだ。

 対策としては面会時間や人数の制限が有効で、糖尿病患者など重症化リスクが高い場合は特に注意する必要がある。

 家族の納得が得られるように、各施設は状況に応じた面会制限の基準を、あらかじめ決めておく必要がある」としている。




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