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日大事件、決着はついたのか?

〇東京地検特捜部は2021年11月16日、いわゆる日大事件で再逮捕していた日大元理事の井ノ口忠男容疑者(64)と医療法人「錦秀会」(大阪市)の前理事長の藪本雅巳容疑者(61)を背任の罪で追起訴しました。井ノ口ら二人の被告の起訴事実は、日大板橋病院に医療機器と電子カルテ関連機器を納入する取引で日大に計約2億円高い契約を結ばせて損害を与えたというものです。二人は最初に逮捕され、10月27日起訴された板橋病院の建て替え工事をめぐる背任事件では、工事の設計・管理業務を請け負った設計事務所から藪本容疑者のぺーパーカンパニーに日大の資金2億2千万円を流出させたとされています。二人は二つの事件を合わせ、4億2千万円の巨額な損害を日大に負わせていたことになります。

〇しかし、日大の内外でこの事件の展開に関心を持っていた人たちはこれで事件に決着がついた、とは中々感じられないでいるのではないでしょうか。というのは、日本大学には絶大な権力を持つ田中英寿理事長という存在があるからです。検察は、この事件の捜査の過程で2度にわたって田中理事長の自宅を家宅捜索しました。田中理事長とこの事件はかかわりがあるのか、無いのか。それが問題です。
逮捕・起訴された井ノ口元理事は役員をしていた(株)日本大学事業部―これは井ノ口元理事が日大の資金を外部に流出させるための工作に使ったとも言われる日大の子会社ですがーの名刺に「理事長付 相談役」と印刷していました。異論のあることを学内で押し通す際、「『理事長の了解は取っている』と強調していたという」(10月28日、朝日新聞、東京新聞)。田中理事長は、日大の理事長職を10年続けている実力者ですが、(株)日大事業部の役員をしていた井ノ口氏の経営手腕を買い、日大の理事に抜擢したということで、井ノ口被告は自他とも許す田中理事長の側近だったわけです。

〇田中理事長の問題は、井ノ口元理事との密接な関係だけではありません。この事件で動いた多額の金の一部が田中理事長のもとへ入っていると井ノ口、大藪の両被告が検察の調べに対し供述していると報道されています。このことは井ノ口被告らが再逮捕された前後から読売、朝日、東京など各紙で報じられましたが、11月14日の朝日はこの件を詳しく整理し、中々説得力のある記事を書いています。
 それによると、井ノ口被告は藪本被告と相談し、逮捕容疑となった取引の「お礼」の趣旨で、2020年2月6日から2021年6月3日までの4回にわたり合わせて7千万円を田中理事長や田中氏の妻に渡した、と供述したということです。田中理事長はこの金を受け取ったことを否定しているとされていますが、このうち1千万円については札を束ねた銀行の帯封が田中理事長の自宅から見つかったということです。

〇銀行の帯封まで見つかったとあれば、金の動きは確かだろうし、この事件の勝負あった、と私などは思うわけですが、そう簡単なものではないようです。友人の弁護士に聞くと、みんな口を揃えて、 背任罪は成立させるのが難しい罪だといいます。刑法247条に「他人のためその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、もしくは本人に損害を与える目的で、その任務に背いた行為をし、本人に財産上の損害を与える罪」と背任罪を定義してあります。そんなに難しいことが書いてあるとも思えませんがー。要するに理事や理事長など、しかるべき地位にあるものが、日大の資金を原資とする怪しい金を不正に受け取ったら、背任になるということではないのか。

〇しかし、11月17日の朝日新聞の解説では、「背任罪の成立には、日大に損害を与えるという認識や、自分や第三者の利益を図るという目的を立証しなければならない。田中氏を共犯に問うには手元に来た資金が作られた仕組みまで理解していたという証明が必要になる」としています。うーん、やはり背任罪の成立はむずかしいのか!

〇検察に一つだけ注文を付けておきましょう。背任罪が成立するかどうか、証拠(供述)と法理に照らして、検察にしっかりやってもらうしかありません。ですが、大学の金が不当にもどういう動きをして誰のところの利得になったか、公の形ではっきりさせるようなー脱税に問う、でもいいですがー事件処理に知恵を絞っていただきたい。##

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