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どうなる、日大事件

〇私が司法記者としてロッキード事件の捜査から公判の取材をしていた1970年代後半のころ、朝駆け(出勤前の捜査官の私宅に押し掛け、取材する)した当時の検事総長に、疎強制捜査の重要な手段である「家宅捜索」と「逮捕」について、極めて的確な位置づけを聞いたことがあります。
 「家宅捜索は必要だと思ったら、積極的にやらないといけない。その結果、被疑者の疑いが晴れて、捜査としては実らず、起訴につながらなくとも、捜査を尽くしたと胸が張れる」。
 「一方逮捕は、捜査が実らず、不起訴になれば失敗だ。逮捕するには、捜査の見通しについて慎重な判断が求められる(事件の全容を解明し、逮捕者を起訴してこそ、捜査は成功と言える)」。

〇確かに逮捕は、被疑者の自由を拘束して取り調べを進めるのですから、気楽に使われてはたまりません。確かな捜査の見通しこそ重要です。その意味でいわゆる日大事件は、東京地検特捜部が容疑者逮捕に踏み切ったことで、一つのヤマを越えたといえます。事件を徹底的に追及し、全容解明の自信を持っていることを示したという意味で。

〇2021年9月8日、東京地検特捜部が日大本部(東京都千代田区)などを家宅捜索して捜査が表に出ました。あれからおよそ1か月の10月7日、特捜部は今度は、日大理事の井ノ口忠男容疑者(64)と医療法人「錦秀会」(大阪市)の前理事長(61)を逮捕しました。

〇この事件は、大学の金を流出させて大学に損害を与えた背任事件ですから、お金の動きが重要です。日本大学は老朽化した医学部付属の板橋病院の建て替えを計画、井ノ口理事が取締役を務める日大の完全子会社「日大事業部に選定を委託して、建て替え工事の設計・管理業者として都内の設計事務所を選びました。
日大は2020年4月、24億4千万円で設計事務所と契約し、そのうち7億3千万円を同年7月に支払いました。翌8月、井ノ口容疑者の指示で、このうち2億2千万円が医療法人前理事長が全額出資した実態のない」ペーパーカンパニー会社に送金されたと特捜部は見ているという(10月7日朝日夕刊)。井ノ口容疑者には最終的に2500万円が事実上還流したことが判明している(同朝日夕刊)。
また、設計・管理業務を請け負った設計事務所は当初業務の総額を20億円前後としていたが、男性理事〈井ノ口理事〉が数億円上方修正するよう指示し、金額を変更した疑いがあるという(10月7日、毎日)。
〇こうしてみると、金の流れをごまかすためとしか思えないペーパーカンパニーの登場や、大学から支払う金の還流を計算に入れたとしか思えない、設計・管理料の値上げ提案(利敵行為!)など、行われているのは大学の世界の話ではなく、犯罪の世界の動きそのものです。ともかくこの事件の捜査で、日大であった、悪質極まる金の動きの徹底解明が望まれます。

 〇もう一つの問題は、この事件の容疑者は10月7日逮捕された二人で済むのか、という問題です。今回逮捕された井ノ口容疑者は田中英寿日大理事長に重用され、そのことで学内で力を持ったとされているといいます。特捜部はこれまでに田中理事長を任意で事情聴取しています。田中理事長はは、(2億2千万円の)流出も知らないし、金も受け取っていないと話しているということです(9月15日、産経)。しかし、田中理事長は10年以上理事長を務めている超実力者だけに、重要な板橋病院の建て替えに絡む問題が全く耳に入らないということがあるのでしょうか。井ノ口容疑者が逮捕された翌10月8日の各紙の朝刊では、この事件の関係先として田中理事長の自宅が再び家宅捜索されたと伝えています。田中理事長は実際のところ、この事件をどこまで知っていたのか、そしてまた、大学の経営者としての責任は?こうした問題の解明も、今後の焦点の一つです。####

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