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日大事件、大詰めの捜査の課題は?

〇東京地検特捜部は2021年11月29日、日本大学の田中英寿理事長(74)が受け取ったリベートなどについて脱税したとして所得税法違反容疑で逮捕しました。大学の利益を図る立場にあった大学の元理事らが大学を裏切り、大学の資金を外部に持ち出し、自分らのものとしていた前代未聞の悪質な日大の背任事件。この事件では強制捜査が始まった9月から終始、田中理事長が事件に関わっているのかが最大の問題とされてきました。田中理事長に対する任意の事情聴取は勿論何度も行われ、自宅は2度にわたって家宅捜索されました。
 
〇田中理事長逮捕の翌日の11月30日の各紙(朝日、読売、東京、日経、産経)を読み比べてみました。各紙が共通して大きく伝えているのは、田中理事長の逮捕容疑が「脱税」で、「背任」ではないこと、もう一つは田中理事長が13年も理事長職を務め、大学内で独裁ともいえる強い権力をふるっていたことです。

〇まず、背任ではなく、脱税を逮捕容疑にした問題。田中理事長は2018年と20年の2年間で、背任の罪で起訴されている井ノ口元理事ら二人らから受け取った1億2千万円の所得を隠したとして、5300万円の脱税の容疑で逮捕されました。この1億2千万円には井ノ口元理事らが背任事件で不当に取得した資金も一部含まれています。それなのになぜ、井ノ口らの背任事件の共犯に問われないのか。各紙の「解説」では、共犯に問われるには手元に来た資金が作られる仕組みまで理解していたという証明が必要になるというのです。ところが井ノ口元理事は資金作りの仕組みや提供した現金の趣旨は田中理事長に報告していないと供述しているということです。

〇2021年6月3日、日大理事長室で1千万円渡したケースでは、
 井ノ口「先生、これ」
 田中「おう」
という程度のやり取りだった、と供述しているということです(11月14日、朝日新聞)。

〇こうした記事を読んでいると、だんだん腹が立ってきます。田中理事長に適用する刑をなるべく軽くするため工夫しているのか、と。常識で考えてください。「これ」「おう」のやり取りだけで、1千万円の大金が右から左へ動くということは、田中理事長が金づくりの経緯などわからぬままに金を受け取っている証拠、というより逆に、口に出して説明するまでもなく、田中理事長はどうやって作られた金で、なぜ自分に支払われるのか、分かっていた証拠、と言えるのではないでしょうか。ですからこの事件は、脱税だけではなく、背任事件として厳しく追及されなければなりません。

〇それからもう一つ重要なことがあります。今度の脱税の逮捕容疑では、2018年と20年だけの金の動きを脱税ととらえていることです。ところが2021年11月14日の朝日新聞は、背任罪で逮捕、起訴されている井ノ口元理事(被告)自身が大阪の福祉法人前理事長の藪本被告と相談し、2021年(今年です!)の2月から6月までの4回にわたって合計7000万円を田中理事長とその妻に渡したと井ノ口被告が供述しているとしています。そしてこの7千万円は、井ノ口元理事らが背任事件で不当に学外に4億2千万円を流出させることのできたお礼だとしています。

〇つまりこの7千万円は、背任事件の中で動いた真っ黒な金、ということになりますが、脱税事件として追及する限り、今年の所得の申告期限である来年3月になっていませんので、全く罪になりません。おかしなことではありませんか。

〇このように考えていくと、田中理事長をめぐるこの事件は、背任事件として追及しなければ巨悪を逃すことになります。年の瀬に来ての田中理事長逮捕で、どこまで背任事件として真実を追求できるか、検察の力量が問われます。

〇田中理事長が大学の中で独裁権力をふるった問題。それを是正するのは大学自身の問題ですが、現在の大学の執行部は田中理事長の与党ばかりで、背任事件の被害届一つ出せない始末。大学が自浄力を取り戻せるかどうかは、事件の進展具合による、と言えそうです。大学があるべき大学自治を取り戻すためにも、検察権の適正な行使が必要なようです##

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