菅首相の施政方針演説 新聞各紙の評価

○2021年1月18日、菅首相は衆参両院で初めての施政方針演説を行いました。、1年間の政府の方針を示す重要な演説です。メディアは、演説で示されたコロナ対策についてどう評価しているのでしょうか。翌1月19日の、朝日、毎日、読売、東京、日経、産経の6紙の朝刊から紹介してみましょう。

○演説のコロナ対策は、△コロナ対策の実効性を高めるため、新型コロナ関連法令に罰則を設ける方針△ワクチンを2月下旬までに接種開始△医療体制の確保に全力、などが主なものです。罰則の問題は各紙ともコロナ対策で新しく出てきた最重要問題と認めていますので、これに絞って各紙の評価を紹介していきましょう。
その前に罰則問題をここで簡単に説明しておきますと、新型コロナ特別措置法と感染症法を改正するもので、△事業者が休業や営業時間短縮の命令に応じなかった場合には行政罰の50万円以下の過料△感染者が入院を拒んだ場合には刑事罰の罰則を科す、などの内容です。

○罰則問題に最も鮮明に反発、反対しているのは東京新聞です。1面トップの見出しは「休業・入院拒否に罰則」で、政府政策のマイナス面を強調し、「首相が施政方針演説」の言葉が1面にないのは、東京新聞だけです。
そして記事は、営業時間短縮や休業に応じた事業者への財政支援を国と地方自治体の義務とする規定を盛り込んであるものの「支援の規模や対象が行政側の裁量であることに変わりはなく、十分な支援につながる保証はない」と指摘しています。そして、名物の2頁に渡る「こちら特報部」で、「個人に責任 不安を招く」「強権的手法 疑問ぬぐえず」と大見出し。気持ちの良いほど、罰則反対に徹した紙面です。
朝日新聞も2日前の社説から「罰則が先行する危うさ」と罰則反対を旗幟鮮明にしていました。この日の紙面でも解説の時々刻々で「罰則 強まる私権制限」、社会面で「『入院拒めば罰則』どう思う?」と全面展開。東京や福岡など都県でも国に先行して罰則を導入しようとする動きがあったが頓挫した、などにも触れるなど、懇切な紙面と言えます。

○注目すべきは朝日(1月19日)社会面の横大道聡慶応大学法科大学院教授(憲法)のインタビュー。教授は、「罰則によって入院を強制することは『移動の自由』など憲法が保障する人権と衝突する・・・入院を強制する法律はあるが・・・最高裁は、入院という手段が合理的で必要かなどを検討したほか、裁判官らの判断がなければ適用されないなど、厳格な手続きがあることも踏まえて合憲とした」と説明しています。
その上で横大道教授は「これと比べても現在明らかな感染症法改正案では、知事が広く強力な権限を持ち、その適正さを担保する仕組みも不十分に見える。違憲の疑いが濃い」としています。
うーん、コロナ問題に限らず、我々が違憲の疑いのある問題を理解し、立ち向かう時、大いに参考になる論理の枠組みですね。

○毎日は罰則に批判的、読売は罰則を受け入れの雰囲気はあるものの、2紙ともはっきりした態度は表明せず、またこの問題を取り上げている紙面もあまりとっていません。こうした問題では、読者の判断の手掛かりになる幅広い事実と論の記事をもっと提供すべきだし、自分の意見も鮮明にすべきではないかと思いました。

○産経は、罰則問題について、社説にあたる「主張」で、「今回の改正案は私権制限につながるとの批判がある…感染症との戦いは『公共の福祉』であり、法改正は認められる。入院を拒む感染者への罰則は、当人に加え、他の人々の生命と健康を守るための合理的な措置と言える」としている。一見、明解な意見ですが、こうした抽象論に疑いを持たず推進していった場合の恐ろしさを想像しないのは、メディアとして鈍感すぎるのではありませんか。

○各紙を熟読してみると、コロナ感染拡大で非常時と言われる今でも、求められるのは正常感覚の政治ではありませんか。むしろ、コロナ下の社会であるからこそ、まず人権を守り、民主主義を守る必要があります。コロナは所得格差が広がり、正規と非正規の雇用が同数近くで併存する、現今日本社会の不自然さ、危うさを浮き彫りにし、我々が取り組むべき改革の課題を突きつけています。

○。1月20日の朝刊各紙によると、菅首相は与野党の話し合いで罰則案の修正あり得るという趣旨の国会答弁をした、ということです。刑事罰の部分だけ削って、改正案の早期成立を図るつもり(刑事罰部分は、最初から、おとり?)かもしれません。どう決着がつくか、注目です。##

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