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“先楽後憂”首長のワクチン接種

〇私は後期高齢者(75歳以上)ですが、同年配の友人に電話すると、必ず「ワクチン接種決まりましたか」という会話になります。第2次世界大戦直後、世界中が貧しかったころ、某国では「ご飯食べましたか?」というのが一日の最初の挨拶だ、と聞いたことがあります。いわばその則の会話で、ワクチン接種が世界でも最も遅れている国の一つである日本では、最大関心事について確認しないと話が前に進まないというわけです。

〇ところが、国民がそれほど実際に済ませるのが難しいと感じているワクチン接種について、全国の自治体の首長が優先して接種を受けているケースがあり、しかもそれが多数に上ることが明らかになりました。

〇私が日経、朝日、東京などの各紙で読んだだけでも、茨城県城里町の町長ら町職員29人、大洗町長、牛久市長、鹿嶋市長、大阪府河南町町長ら町職員50人、兵庫県三田市長、神河町長、岐阜県下呂市長、東京都多摩市の職員800人のうち300人!崎玉県寄居町町長ら町職員約100人、筑西市長、龍ヶ崎市長、境町長、栃木県大田原市長と副市長、静岡県伊豆市長と副市長、清水町長、小山町長ら7人、群馬県伊勢崎市長などなど、名前を挙げていくと、きりがありません。

〇こうした首長優先のワクチン接種に対し、一般の国民から強い批判の声が上がりましが、今回の特徴は、当事者に反省の色がほとんどなく、もっともらしい理由を挙げて開き直っていることです。 

〇首長が言う、優先接種をした理由を挙げてみましょう。茨城県城里町の上遠野修町長(42)。「医療従事者の集団接種でキャンセルが出たので、行政活動、ワクチン接種事業の停滞をさせないために接種した」「接種会場となる診療所の設置者にあたる自分も医療従事者の一員と言える」(5月14日、朝日新聞)!

〇大阪府河南町の森田昌吾町長の場合。町によると、地元医師会から、感染リスクの軽減や住民の不安払しょくのため、集団接種に先立ち、接種事業にあたる町職員を対象に医療従事者用のワクチンを接種してはどうかとの提案がありました。森田町長は「自分も接種現場に滞在して状況把握や改善指示などを行っており、今回の接種が問題と考えていない」(日経、5月14日)。

〇埼玉県ふじみ野市の高畑博市長(59)は、妻(59)、市職員の公用車運転手(54)とともに医療者の優先枠でワクチンの接種を受けました。「感染で市政が滞ることがあってはならない。妻と運転手が感染すれば、私が濃厚接触者になりうるリスクを考えて、打たせようと判断した(5月19日、朝日)。
そのほかの首長はいずれも危機管理のため、としています。つまり、自分がワクチンでコロナに感染しないことが市民や町村民の役に立つ、という主張です。

〇さて、この問題をどう考えるべきでしょうか。自分(首長)をコロナから守ることが市民、町村民の役に立つとは、もっともらしく聞こえます。政府はワクチン接種の順序を①医療従事者②65歳以上の高齢者③基礎疾患がある人、高齢者施設などの従事者、60~64歳の人④それ以外―、としていて、首長や市町村職員を特別扱いする文言は全くありません。首長にワクチンを優先接種する考えは、明確に否定されていると言えます。

〇昨年来の新型コロナ感染問題で、我々国民は、政治が正しく行われることの大切さをいやというほど学びました。このワクチン問題にしても、安倍前首相が「感染者の少ない日本モデル」などと寝言を言わず、それを引き継いだ菅首相がオリンピック開催だけに血道を上げず、昨年のうちにワクチン確保に真剣に取り組み、早期接種を実現していれば、今頃全く違う安全、安心な日本が存在していたことでしょう。

〇念のため申し上げておきましょう。私は首長が感染せず、健康体で業務に取り組むことに反対しているわけではありません。その逆です。しかし、首長たるもの、密になる可能性のある集団接種の会場に自分自身が出向いて受付をする必要など、全くないのではありませんか。自分のやるべきでないことに手を出して、医療従事者に準ずる、などと言うのは笑止千万です。

〇天下の憂えに先んじて憂え、天下の楽しみに後れて楽しむー「先憂後楽」という言葉があります。東京のJR水道橋駅からほど近い後楽園球場の名前の由来であり、為政者に対し政治の要諦を教えた中国のことわざです。今回、ワクチンをあわてて自分自身に接種した首長さんたちは、まさにその逆を行きました。“先楽後憂”とでも言いましょうか。それでは国民の信頼は得られません。国民の信頼あってこそ、政治は前に進みます。コロナ対策は特にそうであります。##

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