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短編小説集 『新しい風景』

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ショート・ショートを作品を収録しています。
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#掌握

鼻毛の王様(1) (1/2)

 日曜日の昼下がりのことである。私は鼻に違和感を感じ、スっと鼻に手を伸ばした。指に当たる鼻から伸びる一本の長い毛。そこで私は私の鼻毛の内の一本が、異様な長さになっていることに気が付いた。たぐり寄せてもたぐり寄せても続くそれの長さはおよそ5m。概算ではあるが、部屋の長さから考えても、明らかにそれは5m〜6mはあるのだ。  人間の鼻毛はそんなに伸びない。それは多分遺伝子レベルで決まっている。ではなぜ? 当然、考えてもそんなことはわからない。  私は深く考えるのをやめ、ハサミをも

白い時間の話

 私はその日、初めて『白い時間』の話を聞いた。 「『白い時間』って知ってますか?」  男が思い出したように言った。 「雪の降る日に、外でじっとたたずむ、そんな時間ですか?」  私は答えた。 「なるほど。確かにそれも白い時間ですね。ただ、私の言う『白い時間』はそれとはまた少し違ったものなんです」 「なるほど。では、それは一体どんな時間なんでしょう?」  男はそこで考え込んだ。実際に白い時間を思い出し、反芻し、それについて私に誤りなく伝えようとしている。私にはそう思