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短編小説集 『新しい風景』

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ショート・ショートを作品を収録しています。
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#超短編小説

邪口

以前からずっと、写真から着想をえて、小説を書くことをやってみようと思っていたのですが、以下の企画を見つけ、書いてみました。 今回は以下の記事の写真から着想しました。 (※記事に完全な写真(切れていない)が載っているので、そちらをみていただけると物語とうまくリンクします) 「邪口(じゃぐち)」 「中級クラスの案件だけど。森田君、本当に一人で大丈夫?」 「ええ、問題ありません」  できるだけ堂々と、しっかりとした口調で答えたが、果たしてそれが彼女に伝わっているのか? 僕

鼻毛の王様(2) (2/2)

 気がつくと私は自室にいた。鼻に違和感を感じ、そこでハタと思い出す。そうだ、鼻毛が5mになったのだ。相変わらず鼻毛は私の鼻から垂れ下がっていた。つまり、これは先ほどの夢の続きなのだろうか。  ドン、ドン  不意にノック音が聞こえてドキリとする。ガチャリとドアが開き、息子が入ってくる。白衣を来た息子はおもちゃの聴診器を首から下げて非常に不機嫌な顔をしている。 「15番目だから、結構かかるよ」 それだけ言い残すと息子はさっさと部屋を出て行った。 15番目? どうゆうことな

今日を金曜日とさせて下さい

 それはどう考えても金曜日にしか思えない木曜日だった。時々、こういう感覚になることはあるものだけれど、今日の金曜日感は尋常ではなかった。  朝出勤してすぐそう思ったが、時間とともにその感覚はどんどん強くなっていった。11時になって、私は部署の仲間内専用のグループチャットにメッセージを送った。  どうしたことか、おれには今日が金曜日に思えてならないんだ。朝から金曜日のような開放感がおれを包んでいる。逆に、明日も会社があるなんて、にわかに信じがたいんだ。  私のポエムへの反応

白い時間の話

 私はその日、初めて『白い時間』の話を聞いた。 「『白い時間』って知ってますか?」  男が思い出したように言った。 「雪の降る日に、外でじっとたたずむ、そんな時間ですか?」  私は答えた。 「なるほど。確かにそれも白い時間ですね。ただ、私の言う『白い時間』はそれとはまた少し違ったものなんです」 「なるほど。では、それは一体どんな時間なんでしょう?」  男はそこで考え込んだ。実際に白い時間を思い出し、反芻し、それについて私に誤りなく伝えようとしている。私にはそう思