ITと法律を取り囲む問題の個人的な整理 の返信


 このnoteは、「ITと法律を取り囲む問題の個人的な整理」と題したnote (その1, その2, その3) を書くきっかけとなった、意見・アイデアのメールに対して、「ITと法律を取り囲む問題の個人的な整理」の内容と同様の返信をした後、それに対して届いた返信メールです。私の返信を踏まえて、更に議論が深まっています。
 以下の内容については、私の書いた文・意見ではありませんので、ご注意ください。
 この話に関する議論を活発化させるために、公開しても良いかお願いしたところ、快く了解してくださいました。この場を借りてお礼申し上げます。


(以下本文)

元Coinhiveユーザー 様

お世話になっております。○○です。

お忙しい中メールを読んでいただき、ありがとうございます。
学生をしながら様々な活動をされているとのことで、本当に凄いことだと思います。

返信していただいた中で、感想を述べたいところや、指摘・提案させていただきたい点がありましたので、またメールを送らさせていただきました。
長くなってしまいましたので、お時間のある時にでも読んでいただければと思います。

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法改正の1,2について

不正指令電磁的記録罪それ自体のメリットや、他国との比較についてですが、不勉強なもので知りませんでした。
また、「改正のキモ」とされている部分については確かにその通りで、開発者・使用者がある程度把握できなければ、安心して使用することができないでしょう。
また、ガイドラインの制定についても、早急に整備すべきだと思います。

ただ、現時点においては、法のメリットよりデメリットに着目すべきかと思います。捜査しやすさをを第一に考えれば、究極的にはパノプティコンを作らざるをえないので、バランスを取るという意味合いでも、今は後者の視点から見た方が良いように思います。
というような考えもあって、開発者・使用者が主張可能な要件を盛り込むべきだ、との話をさせていただきました。実のところ、自分でも刑法には馴染まないとは思っていますが…

法改正の3について

確かに、ご自身が一番よくご存知の通り、運用する警察に問題があるのは間違いありません。この問題に限らず、いまだに自白に頼るようないい加減な手法で捜査が行われているのは知っておりますし、そこはどうにかしなければなりません。
また、提示された案の中でいえば、言われているような麻取の捜査官のようなものがよいのかもしれません。個人的には1を推したいところですが、かなり大掛かりな組織改編になりそうなので、現実的にという意味合いで、2の案に賛成です。

ただ、警察に限らず官公庁のセクショナリズムは、法定されていることもあって、非常に強固です。言われているような、穏便な2の案ですら警察組織にとっては邪魔となります。いうなれば同業他社が突然できるわけです。しかもその他社は同じ権能をもっているので、警察がコントロールできず、捜査の邪魔になると考えるでしょう。

一般的に2の案のような組織を設置するような場合、おそらく設置に関わる省庁や立法議員が、現行それに近いことを取り扱う官公庁の意見を聞くことになるでしょう。しかし、前述のようなことから、警察が"操作に支障をきたす"といったようなネガティブな反応を示すことは十分に考えられますし、現状その任に当たっている組織の意見を無下にはできないことから、障害となることは十分に考えられます。

現行の県警制度は、戦後GHQの要請により、国家規模の警察組織を解体する目的で設けられました。その上で70年あまり存在してきたので、組織横断的な2の案は、自分達の領域が侵犯されるようなものなので反発は必至だと思われます。サイバー犯罪について賢明な操作を行なっている都道府県警察もあると思いますが、この提案によって、それらがサイバー犯罪捜査の適正化とは関係ない文脈で反対に回るかもしれません。

また、麻取捜査官の話を例に出されていたので気になって調べてみました。現行の麻取の捜査がどのように始まったのかまではわかりませんでしたが、現在厚生労働省が管轄している根拠は、これまた戦後GHQの要請によって定められた大麻取締法にありそうです。(詳細はわからなかったので、もしかしたら間違っているかもしれません)おそらく、当時は大麻は違法ではなかったため、担当する官庁が当時の厚生省となり、それが時を経るにつれて警察と同様の役割を担うようになって、現在のような麻取捜査官になったと思われます。

つまり、かなり長い期間を経て、警察と同様の権能を持つ現在にいたっているので、現在でも警察にとっては疎ましいでしょうが、それなりに警察からも受け入れられているのだろうと考えます。そういった経緯を考慮せずに、2案のような組織を設置しようとすれば、繰り返しになりますが、強い反発を受けるでしょう。
※もしそこまで考慮されているのであれば、的外れな指摘・反論です。申し訳ありません

そういった諸々のことを考え、私は不正指令電磁的記録罪の改正の方が望ましいと考えます。これであれば、同じ反発であっても警察と直接ぶつからずにすむでしょう。法の改正と新組織の設置のどちらが難しいかは正直なところわかりませんが、余計な敵を作らずに済むという観点から、私は改正の方を主張したいです。

署名活動について, 政治との話

エンジニアに限らず、日本人全般が政治的なことに距離を置きたがっている、もしくは明確な意見表明を忌避しているので、署名・その他の活動についてネガティブな反応はある程度は仕方ない話のように感じます。
後、大変申し訳ないのですが Change.org の問題点ついての話は私も知りませんでした

まず、署名・陳情・パブリックコメント・その他議員への働きかけ・何かしらの目的をもった勉強会等、これら全てを政治活動とします。
※と、いいますか立派な政治活動です
そして、民主主義の国家であれば、行政府・立法府に圧力をかけたり立法議員に働きかけたりして、自分達の意見を反映させることがこれらの活動の目的となります。

ここで立法議員がこういった働きかけ(圧力)を受け入れるには何かしらのインセンティブがなければなりません。一般的な議員のインセンティブは人気・実績・資金、この3点だと言えるでしょう。人気は当選をするために、実績は人気や資金を得るために、資金は(基本的には)政治活動を続けるために必要です。この中で大きなウェイトを占めるのは人気だと言えるでしょう。実績があっても人気がなければ当選しませんし、資金も同様だからです。

そして、人気=人数なので、議員は目立つことや支持を得られそうな問題に取り組もうとします。署名の話が出ましたが、署名に限らず何かしらの数を誇示する活動にかかわることは、必要な人気を得るためにアピールできるという意味合いで、議員にはインセンティブがあります。求める人が多ければ多いほど、自分がそこで活躍をすれば支持につながると考えるからです。

署名の問題点については私も承知していますが、正確性についていえば、それを取りまとめた団体がよほどいい加減である等でない限りは、議員のインセンティブを減らす要因にはならないでしょう。"自分がこれだけ関心のある問題に取り組んだんだ"と、アピールすることが彼らのインセンティブに繋がることを考えれば、損にはならないからです。むしろ大事なのは、署名の正確性ではなく、そもそもの主張とそれを取りまとめる個人・団体がいかに信用できるか、という点でしょう。下手に渦中の栗を拾って火傷することは避けたいでしょうから。

上記の観点から、一般的には署名にある程度の効果はあると言えます。もちろん、署名だけではなくそれに伴う活動をちゃんと行なっていることが前提条件です。

署名としていますが、数を誇示するような活動であればデモでもなんでも良いです。ネット上のサービスを利用するのであれば、実際に影響を与えたようなサービスを利用するのが望ましいでしょう。Twitterの案が出ましたが、手軽にできる分、それこそ軽く受け止められかねないので、やるならば他の数を誇示する方法と併用すべきでしょう。

また、裁判所へのアピールと議員へのアピールは別物と考えた方が良いでしょう。裁判所は正確性が第一で、世間がどう思うかは状況次第により加味する(高裁判決がそうであるように)のが普通です。なぜなら、世間がどう思うかは彼らの直接のインセンティブにならないし、仕事でもないからです。しかし、議員はそうではありません。彼らの仕事は基本的には意見の反映だからであり、しかもそれが彼らのインセンティブになります。

裁判関連の過去の活動が数の誇示になるのでは?とのことですが、ならないこともないが微妙というのが私の印象です。なぜなら、あれは被告への支持としては明瞭ですが、あくまでも裁判の中の話であって、"その先に何を求めたいのか"については見えてこないからです。そのため、何を求めるにせよ、目的を明確化した上で再度行うべきだと考えます。


(諸事情により省略)


ここまで一般的な政治の話をしましたが、要点は、政治的な活動の範囲は広いということと、その効果を考えるなら、働きかけをする対象の議員のインセンティブを念頭におかなければならない、という点です。

ここまでの話は直接今回の問題とは関係ありませんが、政治とある程度関わる以上念頭におくべき話であると思い、書かせていただきました。

それぞれの案のメリット・デメリット

次に、今回の問題に関心を寄せる者が、今後どういった活動しなければならないか、についてまとめてみました。ここが分水嶺で、目的によって異なります。
1. 麻取捜査官のような別組織を作る
2. 法の改正を求める

"元Coinhiveユーザー"さんは1の方が望ましいとの立場ですが、この場合、勉強会を行うという活動は適当なものだと思われます。というのも、法の改正とくらべて混み入っている印象を一般に与えるので、一般向けというよりかは、専門的な知識を伝えられるような集まりを開催して、粘り強く指示を集める活動の方が望ましいと考えられるからです。

ただ、一般受けしない話ではあるので、そもそも関心を持っている個人または議員しか来ないという課題があると思います。また、警察の反応いかんによっては、少数の支持では長く厳しい戦いとなるでしょう。

活動内容
勉強会, 陳情, 小規模組織の設立
メリット
活動するのはある程度少人数でどうにかなる
デメリット
活動の長期化の可能性がある, 一般への支持が必要な場合に訴求力がない, コインハイブ訴訟に影響を(間接的にでも)与える可能性が低い

私が推している2ですが、この場合はまず一般の支持を獲得することが必要になります。そして、その上で支持議員の獲得のための陳情を行い、現行法の問題点とその解決のための改正を訴えつつ、現行争われている訴訟への興味獲得を目指すことになるでしょう。

活動内容
一般の支持者獲得, 陳情, 中規模組織の設立
メリット
根本的な解決が可能, コインハイブ訴訟に影響がある(かも)しれない, コインハイブ訴訟に負けても、その先を見据えた活動が継続可能
※最後のメリットは、敗訴による支持者の離脱を防ぎたいという意図があります
デメリット
関心が薄れる前に活動を開始する必要がある, 組織だった活動を行うための人数が1の案よりかは必要である

簡単にそれぞれの活動の内容とメリット・デメリットをまとめてみました。
どちらを選ぶかは、総合的な観点から決断する必要があるでしょう。

日本ハッカー協会, "元Coinhiveユーザー"さん に期待したいこと

前節で、"元Coinhiveユーザー"さんの主張や私の主張をを簡単に整理してみました。

どちらを選ぶにせよ、"元Coinhiveユーザー"さんが危惧されているとおり、日本ハッカー協会や"元Coinhiveユーザー"さんの役割が、程度の差こそあれ、これまでと変わることは間違いありません。しかし、現状を変えたいのであれば、それぞれが政治に関わることは避けられないと考えます。
※実のところ、現在もすでに片足を突っ込んでいる状態だといえます

その上で、それぞれに期待したいことをまとめてみました。

※"期待"というと上から目線になりますが、適当な言葉が見つかりませんでしたので、ご容赦下さい

私がハッカー協会に期待したいことは、どういった活動をするにせよ、活動の主催や要望の取りまとめとる役割です。通常の業務とは異なるので、本来はそういった団体を複数の団体や個人で構成するのが望ましいと思うのですが、現在コインハイブやその他の問題で矢面に立っている団体がハッカー協会しかありませんので、そういった役割を期待したいです。

政治化することに対する不安があるのであれば、今回のような問題に単発で取り組む別団体を、名前だけでもいいので、設立するという方法もあると思います。名目上は別組織なので直接ことに当たるよりかは良いでしょうし、目的をある程度はたしたら解散してしまえばいいのです。
※それすら厳しいとなれば、新たな団体を立ち上げるしかなくなります

"元Coinhiveユーザー"さんに期待したいのは、やはりその経験と今現在勉強なされている知識を、多くの人に伝えることでしょう。特に、あなたの話を聞いてみたいという人はそれなりにいると思いますが、これは大きな武器になります。

両者に望むのはその知名度をいかし、広範に意見を求め、その上で今後の方針を決めることです。繰り返しになりますが、今のところそれを行える団体がありませんし、例えば私のような知名度のない個人が呼びかけても仕方ありません。ついて行ける旗振り役がいないでは、いくら関心があれど行動に結びつかないでしょう。

※私個人の思いで言えば、"元Coinhiveユーザー"さんはすでに大変な目にあわれてることもあって、あまり矢面に立たせるような真似はしたくないと思っていますが、残念ながら"使えるものは使いたい"というのが現状です。

個人ができることでいえば、例えば私ですが、大学院で政治思想系の研究をしていましたので、一般のエンジニアよりかは政治系の知識・考え方に明るいと自負しています。政治に馴染みのない一般的な日本人や、特にエンジニアのように1か0で考える癖があるような分野の方とは違った提案ができるでしょう。

いわゆるシステムエンジニアは、良くも悪くも、理系文系の出身に関係なくこの職についていますので、私のように違ったアプローチを提案してくれる人・団体もいるかもしれません。ただ、それも受け手となる窓口があったればこそです。

今は、ただでさえ少ないリソース(人員・知見・時間・資金)を、いたずらに分散させていい時期ではありません。

何を求めるにせよ、今すべきことは、
・今は"元Coinhiveユーザー"さんが個人的にされている提案の募集を、日本ハッカー協会にもしてもらう(できれば一本化)
・今後の方針の決定と公表
・方針実現のために継続可能な体制を作る
です。

効果的な活動を行うためには、継続性が必要であり、前述のリソースをうまく使わねばなりません。

例えば、"元Coinhiveユーザー"さんが (略) 勉強会も、単発では効果が薄くご自身にとって負担でもあります。また継続的に行うとなれば、コストを考えなければなりません。クラウドファンディングという手があるかと思いますが、そういった資金が集まったとしても、継続的に実施できるのかや、管理の面に不安があることと思います。

一つの案ですが、日本ハッカー協会に、不正指令電磁的記録罪関連の勉強会を名目として、資金受付の窓口や管理を行ってもらい、必要に応じて"元Coinhiveユーザー"さんやその他の講師役の方に給付するという形を提案したいです。この方法であれば、"元Coinhiveユーザー"さんの負担を減らしつつ、その知見を活かせるかと思います。

勝手ばかり言ってしまい恐縮ですが、私自身にできることがあればしたいと考えていますし、おそらく他にもそういった方はいるかと思いますので、そういった人らが参画できるような試みがあればありがたく思います。


以上


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