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アジアGXコンソーシアムとアジア展開ー欧州グリーンニューディールへの対応を超えてー

1.アジアGXコンソーシアムとは

 GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料に頼らず、太陽光や水素など自然環境に負荷の少ないエネルギーの活用を進めることで二酸化炭素の排出量を減らそう、また、そうした活動を経済成長の機会にするために世の中全体を変革していこうという取り組みです。

「アジアGXコンソーシアム」とは、ASEAN等でのGX投資の推進を図るため、官民関係者が参画するコンソーシアムのことです。具体的に言うと、本コンソーシアムは、トランジション・ファイナンス(CN実現のために、化石燃料中心経済から脱炭素経済へ移行するために必要な資金を融通する)のあり方について、民間金融機関を中心に公的機関の参加も得て、アジアにおける事例ベースで議論し、具体的な手法の形成や案件組成に繋げていくための枠組みです。

2024年3月13日に、「アジアGXコンソーシアム」のキックオフ会合が金融庁で開催されました。本キックオフ会合には、わが国金融機関、アジア開発銀行(ADB)、GFANZ(ジーファンズ、グラスゴー金融同盟)、ASEAN(東南アジア諸国連合)事務局の代表者が参加しています。

「アジアGXコンソーシアム」キックオフ会合の模様について  
金融庁発表資料より

2.本コンソーシアムのねらいと役割

発足したばかりのコンソーシアムですが、その狙いは、わが国の国際金融センターとしての機能を強化するとともに、日本の金融セクターのアジア進出を支援することにあります。
そのために、アジアGXハブ(GX国際金融センター)が形成され、アジアのGX投資に関連する①情報、②人材、③資金を集約しています。

たとえば、①情報とは、ESG債情報プラットフォーム(日本取引所グループによる立ち上げ)に集約された、CO₂排出量を含む企業データです。そして、本ハブは、アジアの取引所等と連携し、海外データへのアクセスも整備しています。
②人材とは、ESGに関するアナリスト等の民間資格をもつ、GX案件を手掛けることのできる金融実務家であり、本ハブでこの試験の普及を支援します。さらに、本ハブは、アジア各大学と連携し、グローバルレベルのサステナブルファイナンス(GX含む)講座を大学等で開設しています。
最後の③資金について、ブレンデッド・ファイナンス(官民共同での資金供給)等による案件形成に向けて、アジアでの投資戦略や足もとの課題を共有・情報交換し、各案件のカーボンクレジット創出を支援しています。

GXの実現に向けた今後の取組み 経済再生諮問会議 鈴木議員提出資料より抜粋 令和5年4月25日 金融庁 事務局資料

3.欧州のカーボンニュートラル(CN)を中心とした環境政策への対応

EU(欧州連合)のCN政策は、グリーンディールと言われ、図表にあるように、産業政策と社会政策の双方から成り立っています。

図表

わが国の輸出産業は、この政策に大きな影響を受け、そうした企業のサプライヤーも、直接・間接的に影響を受けています。多くの企業は、SBT・Scope3などの対応に苦慮しています。
しかし、わが国産業は、化石燃料に依存しようとする動きが残っており、EUのように、早期の化石燃料脱却を狙っているグリーンニューディールの理想を追求する姿とは対照的です。欧州が決めた理想への対応に、わが国産業は四苦八苦しており、わが国経済の弱体化を図るための欧州の陰謀とみる向きもあるくらいです。

4.わが国企業とアジア

わが国産業は、過去より欧州よりアジアとの経済依存関係が強く、特に中国との相互依存関係が強くありました。しかし、デカップリングやデリスキングの必要性から、中国への過度の依存を脱し、インドやASEAN諸国との経済関係の強化を図っています。こうした潮流を受けて、わが国が主体的に、アジアの産業構造や化石燃料依存度の高さを踏まえたうえで、現実的なカーボンニュートラル政策のひとつとして、本コンソーシアムを提唱し、設立したのは画期的な動きです。

中産連会員をはじめとして、アジアに進出している企業は多くあります。
筆者がある会員企業に対して脱炭素実現のための中長期計画策定支援を実施したときも、CO₂排出量の多くが、アジア諸国にある製造拠点から排出されており、中国からASEAN諸国へ製造拠点を移す動きが強いことを実感しました。
これまで欧州の環境政策への対応について、我が国企業はどちらかと言うと受け身でした。しかし、今後はアジアにおけるCN戦略を立て、自社の省エネ実践や脱炭素技術をアジアに広げる大きなビジネスチャンスと捉える時代を迎えています。

(執筆者:中産連 主席コンサルタント エネルギー管理士 梶川)
自動車部品製造業・産業機械製造業・廃棄物処理業を中心に、温室効果ガス排出量算定・削減、省エネ診断、環境法令順守コンサルティングを行っています。


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