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【会計】SICRの判定時の取扱い等、検討─ASBJ、金融商品専門委

企業会計基準委員会は、去る8月9日に第185回、同22日に第186回金融商品専門委員会を開催した。金融資産の減損の会計基準の開発に関し、ステップ2で検討する次の論点について、審議が行われた。

■債権単位での信用リスクの著しい増大(SICR)の判定

⑴ 定 め

IFRS9号「金融商品」の予想信用損失(ECL)モデルでは、金融資産の当初認識以降にSICRが生じた場合に全期間の予想信用損失を見積る。そのため、貸付けごとに当初認識時における信用リスクから期末時における信用リスクの著しい増大を把握し、測定する必要があるとしている(相対的アプローチ)。

⑵ 実務上の困難さ

IFRS9号の相対的アプローチを採用する場合、日本基準は絶対的アプローチであるため、信用リスクの変化を債権単位で把握する必要性や、信用リスク・データを整備し各金融資産に紐づけて保存するためのプロセス整備等のコスト負担への懸念が、これまでの意見募集等で寄せられていた。
これに対し、IFRS9号では、SICRの具体的な評価手法は定められておらず、適宜さまざまなガイダンス等が示され、実務適用に一定の柔軟性があると考えられる。また、IFRS9号の定めを自社の状況に合わせて適用した海外事例をもとに、債権者単位をベースとした現行の日本基準とも親和的な適用イメージが示された。
この適用イメージでは、内部信用格付けを基礎に、一次評価においてSICRの適用対象を債権者単位で絞り込み、二次評価において債権単位でSICRを判定することとされている。

⑶ 事務局提案

前記を踏まえると、仮にIFRS9号の定めを取り入れても、必ずしも実務上の困難さが生じるとはいえないと考えられる。そのため、IFRS9号の定めをそのまま取り入れるが、わが国における現行の信用リスク管理や引当実務と親和的な適用イメージを規範性のない教育文書で示す。

専門委員からはおおむね同意が示されたものの、「SICRでは定量判定だけではなく、定性情報も踏まえることが重要と考える。その点も記載したほうがよい」という意見も挙がった。
また、8月23日開催の第485回親委員会でも本テーマが議論された。
委員からは「教育文書のデュープロセスが重要」、「設例で示す選択肢も比較しながら検討しては」などの意見が聞かれた。

■SICRの判定時における担保の考慮

⑴ 概 要

IFRS9号では、SICRの評価については予想信用損失の金額の変動ではなく、金融商品の予想存続期間にわたるデフォルト・リスクの変動を用いる必要がある(IFRS9号5・5・9項)。SICRの評価手法としてさまざまなアプローチが認められているところ、担保の影響は考慮されないとされる。一方、担保の価値の変動がデフォルト・リスクに影響を与える場合(例:住宅価格の下落に伴う担保価値の低下等)には考慮され得るとされている。
わが国の銀行等金融機関の実務においては、基本的に債務者ごとに信用リスクを管理し債務者区分を基礎に引当を行っており、担保の有無は債務者区分に反映されていないため、担保の価値をSICRの評価で考慮しないことに実務上の困難さは生じないと考えられる。

⑵ 事務局提案

前記を踏まえ、IFRS9号の定めをそのまま取り入れることが考えられる。

専門委員からは、事務局提案におおむね同意が示された。

■信用リスクが増大した場合の利息収益の認識

⑴ 概 要

IFRS9号では、信用減損したステージ3の金融資産については、金融資産の償却原価に実効金利を適用する必要がある(IFRS9号5・4・1項⒝)。なお、購入または組成した信用減損金融資産は、金融資産の償却原価に信用調整後の実効金利を適用する必要がある(IFRS9号5・4・1項⒜)。また、利息収益と予想信用損失を別々に認識するデカップル・アプローチを採用しており、信用減損金融資産に係る利息収益については、損失評価引当金を控除した償却原価に実効金利を適用するとしている。
他方、日本基準では債権の未収利息に関して不計上とする実務が広く行われている。

⑵ 事務局提案

IFRS9号では、実効金利法による償却原価を前提とした利息収益の算定と予想信用損失の算定は連携している。そのため、本論点は、前回専門委員会(2022年8月10日号(No.1652)情報ダイジェスト参照)で審議した「貨幣の時間価値の考慮」と同様に、債権の測定(実効金利法による償却原価測定)に関する取扱いとセットで検討する必要があり、具体的には、次の2つの取り入れ方が考えられるとした。

① 分類および測定において実効金利法を採用することとあわせて、IFRS9号の規定を取り入れる。
② 分類および測定に関する定めは変更せず、未収利息不計上の取扱いを維持する。

また、本論点は分類および測定において、実効金利法による償却原価を採用するかどうかに関わるため、「貨幣の時間価値の考慮」とあわせて引き続き検討を行うことが提案された。

専門委員からは「仮にIFRS9号の定めを取り入れる場合、金融商品会計基準以外の基準にも影響が及ぶ可能性もあり、基準開発に膨大な時間がかかるのでは」といった意見が出た一方、定めを取り入れずに国際的な比較可能性が損なわれることへの懸念も聞かれた。


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