きき耳草子『 ParagraphⅤ』SABER TIGER-黄金比を秘めた正五角形(ペンタゴン)-

北の凶獣、SABER TIGERのParagraph Ⅴがリリースされた。まだ聴き込みが足りませんが感想を覚書までに。

Revenged on You
ドロップチューニングでダークなエッジの強いマシンらしさが際立つ。
礒田のバネのあるノリから水野のクサビを打ち込む様なドラミング、山住のプログレッシブなアプローチからhibikiのメタリックに徹したベースラインに変わったのも大きい。

②Believe in Yourself
三瓶、ぽんち、hibikiと聴き比べ出来る、ベース好きにはオイシイ曲。
前へ前へとドライブする三瓶、丸くスピーディにまとめたぽんちのプレイを踏まえてhibikiがどう持ち味を出してくるのか注目していたが、スピード感は活かしつつ、グリッサンドとコード弾きで曲に躍動感を与えている。
マシンのちょっと不穏なソロも彼らしい。
※三瓶プレイはデモテープでリリース

③Motive of the Lie
原曲の佳さを変える事なくフルボディの充実を感じる事が出来るのは、メンバー全員の「サーベル愛」の賜物であろう。
水野のキックで強く固められたサウンドの間を、唄とベースが自在に動いているのが心地よい。

④屈辱
当時も攻撃的な歌唱が頭ひとつ抜きん出ていたが、20年前の己と対峙したアニキの凄みが体幹を震わせる。
更に唄だけが悪目立ちしない楽器隊とのバワーバランスも刮目に値する。

⑤Sleep with Pain
hibikiのアタックの強いスラップが耳を貫くが、ギターとの高速ユニゾンも必聴。
今後は木下・マシンの一糸乱れぬツインGに加え、木下・hibikiの一体感のあるプレイも大きな武器になると予感させる。
熱狂と哀愁が交差する音の渦に身を委ねたくなる一曲。

⑥Back to the Wall
'96年『牙虎祭』で披露された久保田陽子のDivaぶりが今だに忘れられないが、アニキはまた違う映像を見せてくれる。
例えるなら久保田の声は光を射してくれ、アニキは暗闇でも歩き出す力を与えてくれる。
水野の渾身のドラミング、hibikiの粘りのあるベースも聴きどころ。

⑦Jealousy
昭和のサーベルサウンドがhibikiの手で、高速変型モデルに改造された。
スピーディーな流れの中で意表をつくコード進行や変速ギアに耐えられるのは、原曲が良い故と再認識。

⑧Into My Brain
当初より求心力の強い楽曲が録音技術の進化に伴い、より緻密に。
ひとりひとりの音が少しずつ融合し、大きなうねりとなると身体の内側から火がつくような気がする。
原曲では久保田の語りでフェードアウトする幽玄的なアウトロは、フレットレスベースがその役割を任されている。

⑨Because of My Tears
屈辱とは対極なアニキの真摯さが際立つ。
言葉を噛みしめて語るような唄を、楽器隊も音を吟味して丁寧に聴かせる。
マシンのソロも今までになく人間味がある。

⑩Mr. Confusion
マシンのギターが加わる事で、複雑さに向かわず構成が明確になった感じがする不思議な曲。
カツト、三瓶、弓田が参加していた当時の雰囲気を現メンバーが尊重しているのも嬉しい。
デモテープ時代のサーベルとも似ているなと、意外な発見もあった。

⑪Eternal Loop
抽象的な表現になってしまうが、空の色が変わるようにRed、Blue、Clearが混じり合い、ひとつになっていく映像が頭に浮かぶ。
中盤のClearのメロディ→Redのコーラス→Blueの歌詞へと移行していく美しさは、各曲の『個』の強さがあってこそ。
ここに至るまでに20年の月日が必要だった。。

最後になるが、ジャケットデザインの正五角形(ペンタゴン)が妙に気になった。
単純にParagraphシリーズの5作目という理由以上に、安定と緊張感を兼ね備えるこの形が、現メンバーの姿と重なったからだ。

正五角形の一辺と対角線の長さは、黄金比。
自然界にも音階の中にも在る、美の基準だ。
まだまだこのアルバムの魅力は語り尽くせないが、メンバーは「まだ未完成だ」と答えるであろう。
それはライブで再現されていないからだ。

従来ならば新譜リリース即ライブとなるのだが、それが出来ない現状が口惜しい。
しかし、その日は必ず来る。
それまで牙を研いでおこう、この音に負けない自分になろう。

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