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小説

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2020年2月の記事一覧

回流海月

行方不明に憧れる女の子達の話です。2012年の作品。 『回流海月』 襟裳岬1 ――海月って、どうやって死ぬのか、知ってる  遠くの貨物船を眺めながら、文紀はそんなことを言っていた。  私が北の地を去る前の日曜日の出来事である。 ――海月はね、溶けて一生を終えるんだ。水になって  私は目を細めている。 「悲しいわ。彼らは死んでも痕跡を残せないんだ」  文紀は、まるで世界中の何もかもを知ってるような笑顔を返す。 ――違う。彼女らは、みんな海に帰るんだ。水から生まれて水に戻る