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虫秘茶と虫糞茶

虫秘茶とは、植物葉を食べた昆虫の糞から淹れたお茶です。虫秘茶の開発は、私の偶然の気づき・発見から始まったものですが、よく似た文化や取り組みは既に存在していたようです。もともと虫糞茶と呼ばれるものが中国茶の一種として存在し、主に湖南省や貴州省、四川省などで生産されていたそうです。虫糞茶はコナシやチャの葉を食べる蛾の幼虫の糞を乾燥させたものと記載されています(wikipediaより)。中国4千年の歴史、さすがですね。

さらにwikipediaを読み進めると、原料植物はトウチャやコナシ、ノグルミなど、加工昆虫はコメシマメイガ、ソトウスグロアツバなどと記載されています。製法は、要約すると以下の通りです。~~葉に米のとぎ汁をかけ、発酵臭により蛾(成虫)を誘引。その場で産卵・孵化し、幼虫が“した”ゴマより小さい粒の糞を集める。葉がなくなるまで何世代も蛾を飼育し、2年かかることもある。~~とのことです。
ちなみに、コメシマメイガの幼虫は体調が最大で2cmほど、ソトウスグロアツバの幼虫は体調が最大で3cmほどで、蛾としては小型から中型の部類です。あまり大きな糞はとれないでしょうというところです。

なんにせよ、虫糞茶は世界的にもメジャーな文化とは言い難く、wikipediaからあまり多くの情報は得られませんでした。

虫糞茶についてもう少し詳しく調べてみました。

周達生『食文化からみた東アジア』には、「中国の広東省英徳で虫糞茶がつくられ、タイでもナナフシの糞が茶として利用されている」との旨が記されています。安松京三『昆虫物語ー昆虫と人生』にも、ナナフシを利用した虫糞茶の記述があります。李時陳『本草綱目』によると、蛾を利用した虫糞茶の製法に関して、「ノグルミの葉にお米のとぎ汁をかけて放置する。こうして枯れて発酵させた葉を、ヤガ科ソトウスグロアツバに食べさせる。ソトウスグロアツバはここで2~3世代発生し、最後に半年ほどで溜まった糞を回収する。」との旨が記されています(これはwikipediaにも書いてありましたね)。樹種はチャ(お茶の原料)であることもあるようですがバリエーションは少なく、また小さい虫を使用するため糞も粉のようだと記されています。味に関しても、「乙な味とは言えない」と記されており、どちらかといえば漢方薬として位置付けられているようです。

中国産の虫糞茶。化香虫茶と書いてあります。
黒いですね。

ここから派生してか、我が国日本でも、蚕沙(カイコの幼虫の糞)をお茶として飲む試みがあります。既に一部では蚕沙のお茶が販売されたり、蚕沙を原料とした蒸留酒も販売されています。また一部のディープな昆虫愛好家の間では、サクラケムシと称されるモンクロシャチホコ(よく桜の葉を食べます)の糞が香り高く、お茶として美味だと知られています。ちなみに、今では、蚕沙やサクラケムシの糞のお茶は私も飲んだことがあります。商品として流通しているものも頂きました。どちらも香り高く、とても美味しいと思いました。

サクラケムシこと、モンクロシャチホコ(2齢)

しかし当時、昆虫に対する興味や知識がまだまだ浅かった私は(せいぜい10種ほどしか蛾を知らなかったと思います)、虫糞茶のこともつゆ知らず、偶然の巡り合わせ(8割)と深夜テンション(2割)でマイマイガの糞を煎じて飲んだのでした。つまり虫秘茶開発のきっかけは私の独自の発見によるものですが、虫糞茶の起源や創生を主張するというのはまったくもって本意ではありません。過去に虫糞茶の取り組みがあったことと、私が独自の発想でマイマイガの糞を飲んだことは、両方が事実として存在します。私があと500年早く生まれていたら、虫糞茶の起源に関わっていたかもしれません。

ただ、マイマイガの糞から更に一歩踏み込み、様々な植物・様々な昆虫で実践した点こそが、私独自の新規な取り組みであると考えています。今までに試飲してきた数は全植物・昆虫種に対してまだまだ多いとはいえないものの、これまでのお茶には無い独特な風味を持つものをいくつも発見してきました。この選りすぐりの美味しいものを虫秘茶と名付けたのです。既存の虫糞茶の文化や先人の取り組みには多大なリスペクトを払いつつ、しかし、私が目指すものとは少し違うなという感覚から、自身の取り組みから生まれるお茶に改めて名前をつけました。虫糞茶と虫秘茶は、深いところでは根を同じにしていますが、枝葉、あるいは幹の部分が違うのだと考えています。

新たに虫秘茶と名付けたのにはもう一つの背景があります。それはズバリ、「糞」という漢字のネガティブイメージです。私の取り組みが初めてメディアに取り上げられた時は、コメント欄が虫糞茶というネーミングを巡って荒れたものです。やはり、食品と糞の相性は最悪で、社会への実装・普及を目指すならネーミングだなと早々に感じたのでした。ではなぜ「虫秘茶」という名前にしたか?これはまた別の記事で書こうかなと思います。なんにせよ、新しく名前をつけることは、ほとんど必要不可欠なことだったのです。

私の活動が虫糞茶として取り上げられた際の記事に対する投稿。

こうした経緯から、いまの私の取り組みから生まれるお茶は全て「虫秘茶」と呼んでいます。客観的には商標の域を出ていないかもしれませんが、私としては少し商標からハミ出る想いも持たせています。虫秘茶のエッセンスは、植物と昆虫の多様性の表現です。これを大切にして、今後も虫秘茶を育てていきたいと思います。


…と長くなりましたので、要点を以下にまとめておきます。
・虫の糞をお茶にするという着想は私“も”独自に得た
・私の発見当時、既に虫糞茶という文化があり、それと同じ取り組みをされている方もいた
・虫秘茶には、「植物と昆虫の多様性の表現」という想いを持たせている

以上。

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